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レベル1の俺が魔王を倒すと言ったら、みんな笑った。でも、前世が名探偵だったおかげで本当に倒してしまい……  作者: からくらり
4章 ジュニッツを罠にかけようとしたエリート冒険者を返り討ちにする話
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83話 探偵、魔王とナルリスの攻略法を語る 4

“――”で始まる文章は過去の話からの引用です。

「キーロックは死の直前、魔王のスミによって操られていた」


 俺が告げたその事実に、アマミとルチルは驚きをあらわにした。


「びっくりです……スミなんて、ただの目つぶしの液体だと思っていましたよ……」

「考えてもみなかったのじゃ!」


 2人はしばし呆然とした顔をする。

 俺は彼女たちが落ち着くのを待ってから、こう言った。


「アマミ」

「あっ、はい」

「昨日、回復薬を鑑定してくれただろ?」

「ええ。鑑定しました」

「あれをもう1回やってくれ」

「わかりました」


 アマミは回復薬を取り出すと、鑑定する。

 昨日と同様、空中に鑑定結果を示す文章が表示される。


----------

 名称:低級回復薬

 種別(●●)アイテム(●●●●)

 説明:一般的な回復薬。飲むことで軽い病気やケガを治すことができる。効果は使用した瞬間にのみ発揮される。

 人に使用した時の効果:傷を回復させることができる。

----------


 俺はアマミに礼を言うと、ルチルの方を向いた。


「さて、ルチル。今ここに『種別:アイテム』と表示されているな?」

「うむ、されておるのじゃ」

「鑑定でアイテムと表示されるのは、回復薬だけか?」

「ん? ……いや、そんなことはないはずじゃ。昨日、教えてもらったのじゃ。他にもアイテムと表示される物はあったはずじゃ」

「では、ざっくり言って、どんなものがアイテムと表示される?」


 俺の質問に、ルチルは「えっと……」と考え込む。

 とはいえ、彼女は昨日鑑定の説明を受けたばかりである。ほどなくして思い出したようだ。


「たしか……そうじゃ、アイテムは道具なのじゃ」

「その通りだ」


 俺はルチルの言葉を肯定した。

 事実、アマミは昨日こう言っている。


 ――「ぶっちゃけアイテムって、その他いろいろな道具(●●)のことなんですよね」


 アイテムは道具だ。


 もっとも、道具と言っても、その範囲は広い。

 道具と聞いてパッと思い浮かぶのは、ノコギリや(ほうき)のような手に持って使う器具だが、さきほど鑑定したように、回復薬だってアイテム(つまり道具)と見なされた。薬は治療の道具になるからだろう。


 それにアマミは、こう言っている。


 ――「洞窟の壁に埋まった宝石とか、岩に刺さった鉄の杭とか、地面にこぼれた液状の薬とかも鑑定すればアイテムと表示されます」


 ここでも薬はアイテム(つまり道具)だと言っているし、洞窟に埋まっているような天然の宝石ですら道具だと言っている。

 考えてみれば、毒だって暗殺の道具になるし、本やノートだって勉強道具になるし、そのへんに落ちているような石だってラッコが貝を割る道具に使っているように様々な道具になる。

 道具とは元より多種多様なのである。


「とはいえ、そんな多種多様な道具が全部アイテムというわけじゃねえ。さっきも言ったように、アマミは昨日こう発言した」


 ――「ぶっちゃけアイテムって、その他(●●●)いろいろ(●●●●)な道具のことなんですよね」


「アイテムとは、その他(●●●)いろいろ(●●●●)な道具だ。つまり、アイテムじゃない道具もあるということだ。その違いはなんだ、ルチル?」

「む……え、えっとじゃな……」


 ルチルは再び考え込む。

 しばらくして思い出したようである。こう言った。


「たしか……小さくて、剣のような武器防具ではなくて、服のような身につけるものではない道具がアイテム……じゃったか?」

「正解だ」


 昨日、俺はアイテムについて、こう説明した。



 ――鑑定スキルでアイテムと見なされる道具には、共通の特徴がある。


 ――まず、大きすぎないこと。

 ――だいたい人間が1人で持ち運べるくらいの大きさであることが条件である。


 ――次に、一般に武器防具と見なされるものではないこと。

 ――剣や盾や弓矢など、武器屋に置いてあっても不自然でないものは、だいたい武器や防具と鑑定される。


 ――それから、人が身につけるものでないこと。

 ――服や帽子は衣類だし、指輪はアクセサリと鑑定される。



 つまるところ、次の条件に全て当てはまればアイテムということだ。


・1人で持ち運べるくらい小さい

・武器防具以外

・身につけるもの以外


 回復薬がアイテムと鑑定されたのも、この3つの条件を全て満たしているからである。


「では、ここまでの話を踏まえて、ひとつ考えてみよう。『魔王のスミ』はアイテムだろうか?」


 ルチルは一瞬キョトンとした後、「え?」と言った。


「魔王のスミ……じゃと?」


 ルチルが聞き返す。


「そうだ。魔王が口から吐き、キーロックを操ったあのスミだ。あれはアイテムか?」

「む……わ、分からないのじゃ。どっちなのじゃ?」

「まず、アイテムは道具だ。だから、スミがアイテムなら、スミは道具じゃないといけない」

「実際はどうなのじゃ?」

「道具だろうな。スミは道具だ」

「……じゃ、じゃが、スミは人が作ったわけではなかろう? 道具というと、人工物というイメージがあるのじゃが……」


 ルチルがそう反論する。


「問題ねえさ。さっきも言ったように、洞窟に埋まっているような天然の宝石だって道具なんだ。人工物じゃなくても道具さ」

「む……し、しかし、スミは液体じゃぞ? 道具というと、ハンマーとかノコギリみたいなカッチリしたものというイメージがあるのじゃが…・・」

「液体でも問題ねえさ。『地面にこぼれた液状の薬』も道具だと今さっき言ったろ? 液体の道具だってあるってことだ。薬が『人に使うと治癒する液体の道具』なら、スミは『人に使うと操れる液体の道具』ってところさ」


 俺の言葉に、ルチルは「なるほど……確かにそうなのじゃ……」と納得した。


「さて、話を戻そう。『魔王のスミはアイテムか?』って話をしていたな。それで、スミは道具だってところまで話した。だが、道具は全部アイテムってわけじゃねえ」


 繰り返しになるが、次の3つの条件を全て満たさないとアイテムではない。


・1人で持ち運べるくらい小さい

・武器防具以外

・身につけるもの以外


「魔王のスミは3つとも満たしているか? まず『小さい』という点は問題ない」


 魔王のスミは大きくもないし、重くもない。

 レコの記録には、スミについてこう書いてある。


 ――だいたい手桶1杯ぶんくらいの量だ。重量感はさほどない。地面に落ちた時の音から、水と変わらない程度の重さだとわかる。


 手桶とは、人間1人が手で運ぶための桶である。

 魔王のスミの量は、その手桶1杯ぶん。重さも水と同じくらい。

 要するに『1人で持ち運べるくらい小さい』という条件は満たしている。


「2つ目の条件、『武器防具以外』というのも問題ない。さっきも言ったように『一般に武器防具と見なされるものではないこと』がアイテムの条件だが、スミは普通、武器防具とは見なされないからな」


 俺の言葉に、ルチルは「それはそうなのじゃ」とうなずく。


「3つ目の条件、『身につけるもの以外』というものも問題ない。スミを身につけるやつなんていねえし、そもそも身につけられるものじゃねえ。

 これで3つの条件はすべて満たした」

「……ということはつまり?」

「そうさ。魔王のスミはアイテムなんだ」


 スミは『人を操るアイテム』だったのである。


「じゃ、じゃが、しかし、スミが『人を操るアイテム』だと一体どうなるというのじゃ?」

「実にたくさんのことが分かる。

 第1に、ある人物の隠している秘密が明らかになる。

 第2に、第1の答えをさらに突き進めることで、魔王への行き方が分かる。

 第3に、第2の答えをさらに深く検討することで、宝石人の救出方法が分かる」

「な、なんと! そんなにもたくさんのことが分かるのか!? わらわの仲間の救出方法まで……。すごいのじゃ!」


 ルチルは高揚した顔で俺を称賛する。

 俺はひとつうなずくと、謎の答えを説明し始めた。

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