84話 探偵、魔王とナルリスの攻略法を語る 5
“――”で始まる文章は過去の話からの引用です。
「魔王のスミは『人を操るアイテム』だ。すると、次の3つのことが分かる。
1.ある人物の秘密
2.魔王への行き方
3.宝石人の救出方法
まず、1から話すが……」
そこまで言うと、俺はアマミとルチルを見渡して、こう続ける。
「2人とも、1の『ある人物の秘密』が何かは、もう気づいているんじゃないか?」
俺は問う。
謎の難易度で言えば、1がこの中では一番簡単だからだ。
が、アマミもルチルも分からないようである。
俺はさっさと答えを言うことにした。
「ナルリスだよ」
「え?」
「ナルリスはユニークスキルを持っている。なんだったか覚えているか?」
「えっと、たしか……『アイテム発動』です」
「そうだ」
俺は昨日、神の祝福を使って情報屋を呼び出し、こう依頼した。
――(ナルリスのユニークスキルが知りたい)
そして、ナルリスが『アイテム発動』というスキルを持っていることを知ったのだ。
それだけではなく、情報屋はスキルの効果も教えてくれた。
効果の内容は既に昨日説明しているが、改めてもう一度書こう(全文は長いので、今重要なところだけ抜粋する)。
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『アイテム発動』
亜人限定ではあるが、触れた相手に対し、覚えたアイテムの効果を瞬時に発動できる。
このスキルを使うには、まずアイテムを覚える必要がある。
覚えたいアイテムから30センチ以内の距離に近付き、手をかざすことで、覚えることができる。
覚えたアイテムは1ヶ月間、亜人相手に発動できる。
発動方法は、亜人に触れて力をこめるだけ。それだけで、アイテムの効果が瞬時に発動する。
たとえば回復薬を1個覚えておくだけで、1ヶ月間、何度も触れた相手の傷を回復させることができる。
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要約すると『覚えたアイテムの効果を、亜人に触れるだけで瞬時に発動できるスキル』である。
「さて、ここでナルリスがした行動を思い出そう。ルチルの故郷である宝石人の村をナルリスが襲った時、やつは具体的に何をしたか?」
「……宝石人の皆さんを次々と操っていきました」
アマミは『ある人物の秘密』が何か気づいたのかもしれない。
何とも言えない表情で、静かに答える。
アマミの返事に、俺は「そうだ」とうなずく。
事実、ルチルは、ナルリスに襲撃された時の様子を、4日前にこう説明している。
――そうして何もできないでいるうちに、1人、また1人とナルリスに触れられ、操られていく。
「では、どうやって操ったか? 普通の方法じゃないのは確かだ」
ルチルと出会った時、俺はこう言っている。
――何しろこの世界には、そんな風に人を操る手段など存在しないと考えられているからだ。
「となると考えられるのは、ナルリスが一般には知られていないレアなスキルかアイテムで、宝石人を操っていたということだ」
実際、俺は昨日、こう言っている。
――ナルリスが宝石人を操る方法として考えられるのはこの2つ。
――1.ナルリスは人を操るレアなアイテムを持っている
――2.ナルリスは人を操るレアなスキルを持っている
「そして、ナルリスのレアスキル……いわゆるユニークスキルは『アイテム発動』だ。亜人達に触れるだけで、瞬時にアイテム効果を発動させるスキルだ。
一方で、ルチルの村を襲った時、ナルリスは亜人である宝石人達に触れるだけで、瞬時に操り状態にしていった」
――ナルリスが宝石人達を襲撃した時、彼に触れられた宝石人達は、たちまち操り状態になってしまった。
「となると、どう考えるのが一番自然だ?」
「……ナルリスが人を操るアイテムを『アイテム発動』で覚えて、ルチルさん達に発動させたということです」
「そうだ」
もちろん、ナルリスがアイテム発動ではなく、アイテムを直接使ってルチル達を操ったという可能性も一応あるが、いずれにせよ『人を操るアイテム』を使ったという点では同じである。
「じゃあ、『人を操るアイテム』ってなんだ? これまでに『人を操るアイテム』は何が出てきた?」
「……魔王のスミです」
「つまり?」
「……ナルリスは、魔王のスミをアイテム発動で覚えて、ルチルさん達を操ったということです」
「その通りだ」
俺はうなずいた。
「じゃあ、ここから言える事実はなんだ? 簡単さ。もう気づいているだろう? そうさ、ナルリスのやつは魔王の居場所を知っていたんだよ。やつは、魔王のところまで行って、スミを覚えていたのさ。
そして、これこそが『ある人物の秘密』……つまり、ナルリスの秘密だ」
ナルリスは魔王の居場所を知っていることを、周囲には秘密にしていた。
エルンデールの町を訪れた日、町の住民はこう言っていた。
――「魔王が具体的に遺跡のどこにいるかって? さあ、誰も分からないねえ」
「町の名士として有名人であるナルリスが魔王の居場所を知っていることを公表していたら、住民は『誰も分からないねえ』だなんて言わねえだろう? ナルリスは、自分の知っていることを秘密にしているのさ」
俺の説明に、アマミとルチルは黙った。
様々な感情が脳裏に渦巻き、何と言えばいいのか分からないようだった。
しばらくしてルチルが口を開いた。
「……反論してもよいじゃろうか?」
「ああ。さっきも言ったが、反論は大事だ。いくらでもしてくれ」
「ではお言葉に甘えるのじゃが……魔王のスミ以外にも、何か別の『人を操るアイテム』があって、それをナルリスのやつが利用して、わらわ達を操ったという可能性はないじゃろうか?」
「その可能性は極めて低い」
昨日、書庫で俺とアマミは「人を操る効果のあるアイテムはかなり珍しい」という話をした。
そして、次のような結論に達した。
――ここまで珍しいとなると、そんな珍しい効果のあるアイテムが2種類も3種類も存在する可能性は低いからだ。アマミの言う通り、世界中を探しても1種類しか見つからない可能性が高い。
――であれば、今後もし人を操る効果のあるアイテムが何か1つ見つかったら、それこそがナルリスが使っているアイテムである、と考えてよいだろう。
激レアである『人を操るアイテム』が2種類も存在する……しかも、ナルリスが覚えに行くことができるほど近くにまとまって複数存在する可能性など、極めて低い。
ゆえに、もし『人を操るアイテム』が見つかったら、それこそがナルリスが使っているアイテムと判断してよい。
そう結論づけたのだ。
「じゃ、じゃが、ナルリスが魔王のスミ以外のアイテムを使っている可能性も、完全にゼロではないのじゃろ? 1万に1つか、10万に1つか、ともかく可能性はあるのじゃろう?」
「ああ、それゆえ保険はかける」
俺は昨日、こうも言っている。
――無論、「実は2種類以上存在していました」という可能性ももちろんある。
――だから、そういったケースにも備えて、対策は立ててはおく。
具体的な保険の内容は後で話すが、ともあれ対策は考えてあるのだ。
「だから安心しろ。たとえナルリスが、魔王のスミ以外のアイテムを使っていたとしても、お前との約束は果たすさ」
「約束?」
「ルチルの仲間の救出さ」
4日前、俺はルチルにこう提案した。
――「俺にルチルの仲間救出を主導させる気はねえか?」
そして、彼女は俺に「お願いするのじゃ」と頭を下げた。
「その約束は絶対に守る、ということさ」
「っ! そ、そうか……保険をかけてまでわらわとの約束を……ありがとうなのじゃ……改めてありがとうなのじゃ……」
ルチルは様々な感情があふれ出た顔で、何度も感謝の言葉を述べた。
◇
ほどなくして落ち着くと、ルチルはまた反論をぶつけてきた。
「4日前、ナルリスはわらわを茂みに捨てた後、『魔王を探しに行く』と言っていたのじゃ……よく覚えているのじゃ」
「言っていたな」
ルチルと初めて会った時、ナルリスは傷ついたルチルを茂みに捨て、こう言っていたのだ。
――「ゴミ掃除も終わりましたし、町に帰りましょうか。帰ったら町で魔王を探さないといけませんしね。さあ、出発ですよ、皆さん」
「この時ナルリスは、自分の周りには、操っている宝石人しかいないと思っていたはずじゃ。じゃから、嘘をつく理由などない。本気で魔王を探す必要があると思っていたはずじゃ」
「そうなるな」
「じゃが、この時点で既にナルリスは、宝石人達を魔王のスミで操っておる。つまり、魔王の居場所も、この時点で知っているはずじゃ。知っているのなら、魔王を探しに行く必要はないのではないじゃろうか?」
「良い反論だ」
俺は感心した。
「反論の答えは簡単だ。地下迷宮の構造は定期的に変わる。だから、魔王の居場所も定期的に探す必要があるのさ」
町に着いた時、住民は地下迷宮(地下遺跡)について、こう言っていた。
――「遺跡の構造は定期的に変わるのよ。音もなく自動でいつの間にか、通路の構造も全部変わっちゃうの」
では、最後に構造が変わったのはいつか?
今日、俺とアマミはこんな会話をしている。
――≪ちなみに、前回迷宮の構造が変わったのはいつだ?≫
――≪4日前の夜明け前……深夜3時くらいに変わったそうです≫
迷宮の構造が変わったのは4日前の日の出前。
一方で、俺が初めてナルリスを見たのは4日前の日中。その時点で、やつはエルンデールに向かっている途中で、「魔王を探さないといけませんしね」というセリフもその時のものである。
時系列をまとめると、
・4日前の日の出前:町の迷宮の構造が変わる
・4日前の日の出後:ナルリスは町に向かっている途中。魔王を探す発言もこの時。
となる。
「要するに、ナルリスが『魔王を探さないといけませんしね』と言ったのは、迷宮の構造が変わった直後ってことさ。
構造が変わるのは定期的だから、エルンデールに住んでいるナルリスは当然、構造が変わる時期を知っている。
知っているからこそ、『ああ、そういえば、構造が変わる時期ですね。町に帰ったら、魔王を探さないといけませんね』という意味で発言したのさ」
ちなみにナルリスは、魔王を探すとは言っているが、魔王を倒すとは言っていない。
パーティーの席上などでは「魔王を倒す」などと景気のいいことを言っているが、周りに宝石人しかいないと思っている状況では一度も「魔王を倒す」とは言っていない。
魔王を倒す気がない……というより戦っても勝てないと思っているのだろう。
ゆえに、探しはするが、倒す気はないのだ。
「ちなみに、魔王をわざわざ探す理由は、『アイテム発動』が1ヶ月しか持たないからだ」
アイテム発動でアイテムを覚えても、1ヶ月経つと忘れる。
1ヶ月経った時点で、アイテム発動の効果も切れてしまうのだ。
――1ヶ月経つと、アイテムを忘れる。
――アイテムの効果が持続型の場合、忘れたタイミングで効果も切れる。
――忘れたアイテムは、また覚え直すことができる。
だから、1ヶ月おきに魔王のところに行って、人を操るアイテムである魔王のスミを覚えないといけない。その時、迷宮の構造が変わっていたら、また魔王を探さないといけない、というわけだ。
「しかし……構造が変わるたびに、そんなに毎回都合良く魔王の居場所を見つけることができるのじゃろうか?」
「迷宮には攻略法がある。どんな構造だろうと、簡単に魔王のところに行ける攻略法がな」
レコは記録の中でこう書いている。
――もっとも今冷静に考えれば、迷宮には攻略法があった。
――つまり、迷宮の構造がどう変わろうと、その攻略法にしたがえば、簡単に魔王のところにたどりつけるのだ。
「ナルリスもこの攻略法を知っているんだろうさ。だから、構造がどう変わろうと魔王のところに行けるんだ」
「しかし、なぜやつは攻略法を知っておるのじゃ」
「可能性はいくつかあるが……たとえばナルリスは、エルンデールに古くから住んでいる一族なのかもしれない」
今日、地下迷宮を案内してくれたタスマンは、こう言っている。
――「うーん、そうッスねえ。噂だと、この町に古くから住んでいる一族の家に、迷宮攻略の手がかりが色々と秘密裏に隠されているって話ッス」
――「どこの家かはわかんないッス。昔この町で大火事があって、その時に色々と記録が焼けちゃったり、どこか行っちゃったりして、よくわかんないッス」
古い一族なら、迷宮の攻略法を秘匿している可能性がある。
「あるいは、その一族を脅して無理やり情報を聞き出したのかもしれねえ。レコみたいに、偶然攻略法を見つけた可能性もある。いずれにせよ、可能性はいくらでも考えられるし、ナルリスが攻略法を知っていても、おかしくねえってことさ」
「なるほどなのじゃ……」
ルチルは納得したようにうなずく。
しかし、まだ反論はあるようだ。
会話の流れを事細かに全部書くと長くなるので、ここからは簡易的に書こう。
<反論1>
「レコとキーロックは魔王と戦って、2人とも死んでしまったのじゃ。それだけ魔王は危険なのじゃ。そんなに危険な魔王のところに行って、ナルリスは無事にスミを覚えることができるのじゃろうか?」
とルチルが反論した。
「大丈夫さ」
と俺は答えた。
理由はこうである。
魔王の攻撃は、スミ、風の刃、破壊の粒子の3つだ。
このうち、スミは避けやすい。
レコもこう書いている。
――もっとも飛んでくるスミはたいした速度ではない。
――量も少ない。
――簡単に避けられる。
風の刃も問題ない。
ナルリスは風の刃を防ぐリングを持っている。
――「ほら、見てください、このリング。装備しているだけで、私の全身を風属性の攻撃から守ってくれるんです。レコの記録によると、魔王は風の刃を放つそうですが、これがあれば完璧に防げるんです」
破壊の粒子も問題ない。
あれは強力だが、魔王の周囲をバリアのように覆っているだけだ。
レコも、近づいて初めて存在に気づいた、と書いているほどである。
近づかなければ問題はない。
――ほぼ透明で、よく見ると見えるという程度に小さなその粒子は、近づくまでは気づかなかったが、この距離まで来ればさすがに分かる。見る者をぞっとさせる不気味な何かを感じさせる粒子が、魔王の周囲を覆っていたのだ。
おまけに、覚えたいアイテムであるスミは、魔王が次々と飛ばしてきてくれる。
――もっとも、魔王も黙っていなかった。
――距離が300メートルを切ったあたりから黒い液体を口から吐き始めたのだ。
「高レベルのナルリスなら、十分に目的を達成できるだろうさ」
俺がそう言うと、ルチルは、
「む……なるほどなのじゃ……」
と納得した。
<反論2>
「『アイテム発動』は覚えたアイテムの効果を、触れた相手に発動させるスキルじゃ。ナルリスは『人を操る』という効果を持つ魔王のスミを、わらわ達に発動させて操ったのじゃ。
じゃが、魔王のスミには目つぶしという効果もあるのに、こっちの効果は発動しなかったのじゃ。操られた後も、わらわ達の目は見えていたのじゃ。おかしいのじゃ」
とルチルが反論した。
「目つぶしは、スミの本来の目的じゃねえからさ」
と俺は答えた。
アイテム発動では、鑑定した時に『人に使用した時の効果』として表示される効果が発動する。
――本スキル使用時に発動するアイテムの効果は、鑑定スキルをそのアイテムに使った時に『人に使用した時の効果』として表示される効果である。
だが、鑑定で『人に使用した時の効果』として表示されるのは、アイテムの主要な効果だけだ。
飲み薬である回復薬をアマミが鑑定した時も、『人に使用した時の効果:傷を回復させることができる』と表示されたが、人への使い道は他にもある。
目にかければ目つぶしになるかもしれないし(薬品が目に入れば、たいてい目つぶしになるだろう)、傷を負っていない状態でも飲めば水分や栄養の補給になるかもしれないし、体についた火を消すのに使えるかもしれないし、他にも色々と考えられる。
少なくとも『人への使い道が傷の回復以外、一切まったく存在しない』ということはないはずだ。
だが、それらは表示されなかった。
「要するに、アイテムなんて使い方次第で色々な効果があるが、鑑定で表示されるのはアイテム本来の目的……いわば主要な効果だけ。
アイテム発動も、鑑定で表示される効果しか発動しないから、主要な効果しか発動しない。
そして、魔王のスミの主要な効果は、人を操ることだ。だから、アイテム発動でも、それしか発動しなかったのさ」
ルチルは「なるほどなのじゃ……」と納得した。
<反論3>
「これは反論というより、ちょっとした疑問じゃが……なぜナルリスはわざわざ魔王のところに何度も行っているのじゃろう? やつの目当てはスミなのじゃろう? じゃったら、スミを持ち帰ればよいではないか」
とルチルが疑問を投げた。
「可能性はいくつかある」
と俺は答えた。
第1に、魔王のスミが不気味だったから、という可能性がある。
魔王とは強大であると同時に、恐ろしい存在でもある。
S級冒険者であるレコとキーロックですら、魔王を前にして恐怖したとレコの記録に書いてある。
――だが、そんなわたしでも、魔王の存在を前にして、恐怖のあまり固まってしまったのである。
――(中略)
――だが、そんなキーロックも、魔王の姿を初めて見たこの時は、恐怖で顔を凍らせ、固まってしまったのだ。
ナルリスもまた、魔王に恐怖を覚えていてもおかしくない。
であれば、そんな恐ろしい魔王の吐いたスミなど持ち帰ってしまったら、どんな害があるか分かったものではない。さっきも言ったように、鑑定ではアイテムの主要な効果しか分からないのだ。
リスクを冒したくない。
だったら、スミを覚えるだけにして、スミそのものは放っておいた方が安全だ。
ナルリスがそう考えても不思議ではないだろう。
第2に、スミの保管が難しい可能性がある。
スミは、魔王の口から吐かれた。なまものである。
食品とは違うかもしれないが、何日も保管できるようなものではないのかもしれない。
第3に、持ち帰ることで秘密がバレることを恐れた、という可能性がある。
ナルリスには仲間がいない。
タスマンはこう言っていた。
――「あの……お客さん達もナルリスには気をつけてください。あいつは本当に誰も信用していなくて、仲間も1人もいなくて、だから自分以外どうでもいいと思っているやつなんッス」
俺自身も、ナルリスに仲間がいないということは別ルートで確認している。
――実のところ、ナルリスへの陰口のようなものは、これまで町中で幾人もの人から聞いていた。彼らは皆、口をそろえて「ナルリスは仲間がいない。誰1人信用していない。自分以外ゴミと思っている」と言っていた。
――大多数というわけではないが、少なくない数の人たちがそう言っていた。証拠を見せてくれた人たちもいた。
――事実なのだろう。
誰も信用しておらず、仲間もいない。
そんなナルリスが、
『日頃から魔王を見つけて倒すと偉そうに宣言している名士ナルリスが、実は魔王の居場所を知りながら倒そうともせず、こそこそと魔王のスミを利用していた』
という重大な秘密を、誰かに打ち明けるはずがない。
当然、魔王のところにはナルリス自身が出向いていたはずだし、そのことを誰にも知られないようにしていたはずだ。
だというのに、魔王のスミなんて物的証拠を持って帰って、そのスミが誰かに見つかったら秘密がバレてしまうかもしれない。
バレるどころか、最悪そのスミを盗まれて利用されてしまうかもしれない。
そんなリスクを取るくらいだったら、まだ定期的に魔王のところに行く方がリスクが低いと判断したって不思議ではない。
万が一、魔王の部屋にいるところを誰かに見られても「魔王を見つけたから情報を集めていたのです」とでも言えば、ごまかせる。そう考えてもおかしくないだろう。
「まあ、色々言ったが、要するにナルリスがスミを持ち帰らなくても不思議じゃねえ。理由はいくらでも考えられるってことさ」
俺がそう言うと、ルチルは「なるほど……」と納得した。
◇
こうして、すべての反論を返し終えると、ルチルは「もう大丈夫なのじゃ。納得したのじゃ」とうなずいた。
「じゃが……」
「ん?」
「ナルリスが魔王のスミを使っていたというのは理解したが……結局それで、どうやって魔王のところまで行けばいいのじゃ?」
「ナルリスは魔王の居場所を知っているだろう? なら、簡単さ」
「簡単って……まさか力づくで居場所を聞き出す気か? む、無理じゃ! ナルリスはアマミ殿より強いのじゃぞ!?」
確かに、昨日ルチルとアマミはこんな会話をしている。
――「アマミ殿はナルリスには勝てぬのじゃよな?」
――「ええ、勝てません」
アマミはハッキリと、自分ではナルリスに勝てないと断言している。
「それとも、ナルリスの後をつけて、魔王の居場所を探るつもりじゃろうか? じゃが、やつが次にいつ魔王のところに行くかなんて分からぬ。ひょっとしたら、昨日すでに魔王のところに行っていて、スミを覚えるという用事を済ませており、当面は行く予定はないかもしれぬぞ?
だとすると、魔王のところに行く前に、またドラゴン退治に行くかもしれぬ。そうなったら……その、自分の話で申し訳ないのじゃが……わらわ達の仲間がまた自爆させられるかもしれぬ……」
俺はこう言った。
「安心しろ。もっと確実かつ安全に魔王の居場所を突き止める方法がある。そして、魔王の居場所を突き止めることこそが、宝石人達の救出につながる」
「そ、そんな方法が……。すごいのじゃ! それはいったいなんなのじゃ?」
ルチルが感嘆と驚きの混じった顔で俺にたずねる。
「それは……」




