克慈宅3 キッチン
階段を駆け降り、真っ直ぐキッチンに向かう。
椅子に掛けていたエプロンを身に付け、ホットケーキミックスを探す。
……なんか、金目の物を探す為に部屋を漁ってる泥棒みたいだな〜……とか思ってしまう。
別に泥棒をしている訳ではなくて、あくまでホットケーキミックスを探しているの!
キッチン以外に用は無いし、当然、泥棒するつもりなんて更々ない。
惠美
「おおっ、あった〜☆ ホットケーキミックス、みっ〜け♪ ……う〜ん、普通に玉子と牛乳なんて詰まらないよね〜? 折角作るんだから、もっと違うの入れたいよね〜。何かいいのないかな〜?」
冷蔵庫を開け、何かいいのないかな〜……と探すんだけど、う〜ん、無いですな。
さっき使っちゃったから、あんまり残ってないや。
惠美
「──あ〜っ、タラコがあるじゃないですかー!! ラッキー♪ タラコをほぐして入れちゃおうかな〜? ……タラコ入りホットケーキって美味しいのかな??」
ちょっとした冒険だね☆
……いや、止めとこう。
惠美
「シーチキンとかどうかな〜? チーズ入りホットケーキが美味しいのは分かってるし……。シーチキン入りホットケーキか〜」
美味しいのだろうか?
──いや、作ってもみないで、食べてもみないで、頭で『あーだ、こーだ』と決め付けるのは違うよね?
惠美
「よし、作ろう! 味見は克ちゃんにしてもらえばいいや☆ レトルトカレーの仕返しって事で☆」
私は克慈の言う通り、子供なのかも知れない。
別にいいよ、そんなの!
克慈に『う゛』と言わせられるならねっ!!
素っ気ない克慈に『う゛』と言わせてやるのだぁぁぁあああああ!!!!
惠美
「うふふっ、普段から私を馬鹿にする克ちゃんが悪いんだもんね! そう、これは報いなのですよ!!」
克慈
「……惠美、声が大きい。独り言なら心の中だけにしときなよ」
惠美
「──え? あれ〜……何時から居たの〜??」
エヘヘ、惚けてみたりしてみる。
克慈
「喉渇いたから降りて来てみれば……。はぁ、本当に子供だね、惠美は……」
何だか、全てを諦められたような、哀れむような目で私を見詰める克慈の左手には、電気ポットが握られており、右手には湯呑みを置いているオボンを持っていた。
惠美
「それ、部屋に持ってくの?」
克慈
「ああ、いちいち飲みに来るのもの面倒だからね。お湯を沸かして持って来てくれるでしょ? 痛い子の惠美ちゃん」
惠美
「ちょっ、克ちゃんってばっ、どさくさに紛れて私を痛い子呼ばわりしないでよ! あ……、私の湯呑みも持って行ってくれるんだ?」
克慈
「まあね。優しいでしょ、俺」
惠美
「フンッだ! 湯呑み如きで、私のご機嫌取れるとか思わないでよね!」
克慈
「ふぅん? 嬉しいくせに。顔が赤いのは俺の気の所為?」
惠美
「ばっ馬っ鹿じゃないの(////)
見間違いだよ! 赤くなんかないもんねっ!! もうっ! 早く部屋に戻ればっ!! お湯を持ってけばいいんでしょ!」
克慈
「はいはい、こわいこわい。──ハハハ」
克慈ぇ゛~~~マジ、バロス!!!!
二階に上がった克慈を確認した私は、流台下の戸棚を開け、やかんを取り出す。
水道の蛇口を回し、やかんの中に水を入れ──、コンロに置いて、火を着けた。
惠美
「……はぁ」
……溜め息ばっかりだ。
克慈の彼女、大変だな。
いやいや、彼女の前ではあんな嫌な奴じゃないかもよ?
……『後は自分からプロポーズするだけ』って言ってたし。
プロポーズする前に嫌われちゃったら、今迄の交際期間も、貢いだ金銭も全部水の泡だもんねぇ?
……克慈って彼女に貢いだりしてるのかな?
貢ぐって言っても、誕生日プレゼントとかクリスマスプレゼントとかバレンタインデーとか付き合った記念日とかにって意味なんだけど。
克慈って彼女にどんなのプレゼントするんだろう?
やっぱり、彼女がねだって欲しがる物を買ってあげるたりするのかな?
……いいなぁ、私なんて克慈からプレゼントらしき物なんて何も貰った事ないよ……。
あげてはいるけどねっ!!
──ってか、私より給料が多くて年上なのに、年下の私に毎年プレゼントをタカるとか何なの?
こんな事って有り得るの?
ないよ、ないない!
女にねだる男はカッコ悪い!
女にタカる男はもっとカッコ悪いんだから!!
給料が少なくて、年下の私にプレゼントを催促する克慈はやっぱり最低だ!!
彼女だって働いているんだろうから、彼女にこそタカればいいのにね!
ほら、彼氏の特権ってやつを振り回して?
……彼氏って、そんなに偉いんだろうか?
付き合ってるってだけで王様みたいに偉ぶられても困ると思うんだけどな……。
俺様みたいな彼氏とか、絶対に無理だな〜。
鼻の骨をへし折ってやりたくなっちゃうんだもん。
近くでウロチョロされたら目障りだよ、俺様彼氏なんて!
……克慈は彼女にお揃いのジャージとかパジャマとか買ってあげたりしてるのかな?
……はぁ、阿呆らしいかぁ。
克慈が自分の彼女に何をプレゼントしてるかなんて、どうでもいいじゃん。
おっと、お湯が沸いてる。
惠美
「……こんなに近くに居るのは私なのに、……遠いなぁ」
────ハッ!?
なに言っちゃってんの、私ってばっ!!
まるで私が克慈を好きみたいじゃない!!
ああっ、そうだった〜、ホットケーキを作るんだったよ!
……すっかり忘れちゃってた〜。
まあ、いいか〜。
先に沸いたお湯だけ持って行こうっと。
やかんを克慈の部屋まで持って行き、ポットにお湯を入れ、私は直ぐに部屋を出ると階段を駆け降り、キッチンへ戻った。
冒険は止めて普通のホットケーキを作ろうと思う。
でも、やっぱり(?)私だから、何か入れたくなって、人参をすりおろして入れる事にした。
人参ホットケーキだ。
南瓜は美味しかったからね。
ふふっ、南瓜ホットケーキは、お父さん,お母さんにも好評だったんだもん♪
もみじおろしは甘いし、ホットケーキに合うかも知れない。
ボールに入れたホットケーキミックスに玉子,牛乳を加えて混ぜる。
更に、すりおろした人参を入れてサックリと混ぜる。
私ってば、料理をする度に『作り方が雑ね』て言われるんだよね。
『調理学校に通ってたんだから、もっと丁寧に料理しなさいよ〜』って、お母さんから小言を言われたりダメ出しされる。
……私は丁寧にしてるつもりなんですけどね。
────あ、そう言えば……、お父さん,お母さんが何か言ってたかも。
大事故のニュースを見ていた時に──、なんだけど。
何て言ってたっけかな〜?
ホットケーキを焼きながら、ニュースを見ていた時の事を懸命に思い出してみるんだけど……。
……、……、……あ〜っ!
思い出した〜〜〜!!!!
ホットケーキを作り終えた私は、使った調理器具を手早く洗い、急いで────。
いや、別に急ぐ必要も無いんだけどね?
ホットケーキが乗った皿を持って階段を駆け上がり────。
駆け上がる必要も無いんだけどね〜。
でもでも、スッゴい情報だから(?)一秒でも早く克慈に話したいの。
私の話を聞いたら、克慈は吃驚するかな?
だってだって、こんなに身近に────、なんだもん!
ふふっ、ちょっとだけ優越感かも〜♪
克慈の部屋の前に着いた私は、落ち着く事にした。
深呼吸をして、呼吸を整えて──っと。
平常心、平常心だぞ、惠美。
ドキンドキンと高鳴る胸が煩いけど、手を伸ばし、部屋のドアを開けた。




