克慈宅1 克慈宅
惠美
「克ちゃん! パソコン持って来たよ〜!」
克慈の家のドアを開け、中に入る。
玄関で靴を脱ぎ、トタトタと廊下を早足で歩く。
電気の点いたダイニングキッチンには、エプロン姿の克慈が立っていた。
惠美
「克ちゃん、何してるの?」
克慈
「何って、お腹が空いたから食べるの作ってるんだけど?」
惠美
「何作ってるの? 私も食べた〜い♪」
克慈
「自分で作りなよ。冷蔵庫の中にあるの、好きに使っていいから」
惠美
「ええっ?! 私の分は作ってくれないの〜」
克慈
「俺が作ってるのは一人分だよ」
惠美
「ムキ〜!! 何時も作ってあげてるのに〜!!」
克慈
「何時も? フッ、よくもまあ、そんな事が言えるもんだね」
惠美
「鼻で笑った?! 今、鼻で笑ったよね! 酷いっ!!」
克慈
「何が酷いの? ほら、俺は済んだから。惠美も食べたいの作りなよ」
自分で作った料理を上手に皿に盛り付けた克慈は、皿を持って私の前を通り過ぎ、テレビの前にあるテーブルの上に皿を置くとテレビのリモコンを掴み、ソファーに腰を下ろす前にテレビの電源を入れた克慈は、エプロンを外し──。
克慈
「ほら、惠美。これ使いなよ。服くらい着替えてこればいいのに。俺のジャージ貸すから着替えて来なよ」
惠美
「……やだ。克ちゃんのジャージって私には大きいじゃん。ダブダブでしょ!」
克慈
「大きいなら捲ればいいでしょ。脱衣所に置いてあるから、着替えな」
惠美
「や〜ですぅ!」
克慈
「惠美、此処は俺の家。今は俺がこの家のルールだから。ほら、行く」
惠美
「……フンッだ! えっらそうに〜!」
とは言いつつも、素直に脱衣所に行く私……。
別に克慈が恐いとか、ご機嫌を損ねたくないからとかじゃなくて……、あんな意地悪な克慈のジャージを着たいから……って、そんな訳ないからね!!
脱衣所に入った私は、置かれている紺色のジャージを手に取った。
……あれ?
このジャージはもしかして!
私が一昨年、誕生日にって克慈へプレゼントしたジャージじゃないかな!
克慈ってば、ちゃんと着てくれてたんだ。
沢山ある中から選んでくれたのは、お母さんだけどね。
……へへっ、かなり嬉しいかも♪
私は着ていた衣服を脱いで、克慈のジャージに袖を通した。
着替え終えた私は、椅子に掛けといたエプロン──さっきまで克慈が使っていた──を着ける。
克慈
「ふーん、そうやって見ると部屋に閉じ籠ってるニートに見えるね。似合ってるよ」
惠美
「に゛?! ニートって酷い!! そんなの褒め言葉じゃない!!」
克慈
「別に褒めてないよ。なに、俺に褒めて欲しいの?」
惠美
「な゛?! そんな訳ないしっ!! 今から料理するんだから邪魔しないでよね!」
克慈
「はいはい。しないしない」
惠美
「その返事、ムカつく!!」
憎まれ口を叩いた私は、 冷蔵庫を開ける。
何を作ろうかな〜。
冷蔵庫の中の物は何でも使っていいって言ってたから遠慮なく使わせて貰おう。
野菜を使った肉巻きにしよう!
冷蔵庫の野菜室から野菜を出し、冷凍庫から薄切り豚肉を出した。
切り終わった野菜を、解凍して味塩胡椒をふった豚肉に巻いて、小麦粉をまぶす。
惠美
「よし、後は焼くだけ。味付けは何にしようかな〜?」
私はフライパンを温めながら考える。
隣のガス代には片手鍋でシチューを煮詰めている。
逸そ、シチュー煮込みにしようか?
ん〜でもなぁ、シチューとシチュー味の肉巻きってのもちょっとねぇ?
惠美
「あっ、そ〜うだ。ドレッシングがあったよね。ドレッシングをかけよ〜と♪ 何れがいいかな〜?」
熱したフライパンに肉巻きを入れ、冷蔵庫まで歩き、冷蔵庫のドアを開けてドレッシングを選ぶ。
克慈はドレッシングが好きじゃないんだよね。
冷蔵庫に入っているドレッシングの殆どは私専用なのだ。
選り取りみどりで迷っちゃうな。
酸味が効いた梅肉ドレッシングがいいかな〜?
克慈は辛酸っぱい梅干しが苦手で、甘い梅干しじゃないと駄目だったりするんだよね。
辛酸っぱい梅肉ドレッシングで味付けしたら、克慈に横から摘まみ食いなんてされないだろう。
私は梅肉ドレッシングを冷蔵庫から取り出して、いい具合に炒まっている肉巻きの上からドレッシングをかけ、肉巻き全体に味付けする。
う〜ん、何とも言えないいい香り〜♪
食欲をそそる香りがたまらない。
肉団子入りのシチューもいい具合に煮詰まってるし、そろそろ食べ頃かな☆
早く食べたくてウキウキしながら食器棚から、箸,スプーン,皿を取り出してテーブルに置く。
フライパンの中の肉巻きを菜箸で掴み、皿に盛り付ける。
シチューをシチュー皿に注いでから、御飯を茶碗に盛る為に、テーブルを離れた。
克慈
「ふぅん、旨そうに出来たね。意外じゃん」
さっきまでソファーに横たわり、テレビを見ていた克慈がキッチンに現れた。
案の定だ!!
惠美
「ふふんだ! 今回は摘まみ食いは出来ないよ〜。何せ辛酸っぱい梅味にしたんだからね〜だ!」
何時もの仕返しにと、う〜〜〜んと意地悪っぽく言ってやる。
ふふん、食べれなくて残念な顔をしろ〜っ!!
克慈
「あそ、──うん、まぁまぁだね」
惠美
「へ? ──食べた? 今、食べた?! 食べちゃったの、肉巻きをっ!!」
克慈
「食べたけど。惠美にしてはマトモな料理じゃないの」
惠美
「梅味だよ!!」
克慈
「それが何? 梅くらい食べれるし」
惠美
「じゃなくて! 克ちゃん、甘梅しか食べれなかったじゃん! 何で辛酸っぱい梅味が平気なの!!」
克慈
「ああ、小学生の頃だろ? あれから何年経ってると思ってるの? 甘梅はとっくに卒業してるけど」
惠美
「嘘だっ!! この前、言ってたじゃんか! 『梅は食べれないんだ〜』って!」
克慈
「この前って……。何年前のこと言ってるの? 小学生の俺だろ?」
惠美
「……そう、だったかな?? ううん、違うよ! 本当に最近だよ!!」
克慈
「いい加減、梅から離れたら? 折角のシチューが冷めるでしょ」
惠美
「ちょっとぉー!! 克ちゃん、そのシチューは私のなんですけどっ!! 克ちゃんの分は作って無いんですけど!!」
克慈
「俺ねぇ、腹減ってるし」
惠美
「さっき作って食べてたよね! 私の錯覚じゃないよねぇ?!」
克慈
「惠美、五月蝿」
惠美
「はぁ? 五月蝿って何? 今は、九月だよ」
克慈
「『うるさい』って意味。此処は『俺の家』って言ってるでしょ。惠美はやっぱり酉頭だね」
惠美
「馬鹿にしないでよ! ちょっとぉー、それは私の御飯だってばっ!!」
私が持っていた御飯が入った茶碗は克慈に持って行かれてしまった。
私が私の為に作った私の料理を、克慈は悪ぶる風もなく、さも当然の如く、食べ始めやがったのだ!!
惠美
「酷いっ、も〜うっ! 私が食べる為に作ったんだよ! 克ちゃん、勝手に食べ始めないでよ!!」
克慈
「俺んちの食材で作ったろ。俺にも食べる権利はあるの」
惠美
「私は何を食べたらいいのよ! ちょっと、至極当然におかわりしないでっ!!」
克慈
「惠美が食べるのなら、ちゃんとあるから」
嗚呼っ、私の料理が克慈の口に全部入ってしまったよ……。
私、一口すらも食べてないのにぃ……。
空になった食器を流し台に置いた克慈は、戸棚からレトルトカレーを出すとテーブルに置いた。
克慈
「ほら、好きなの食べていいから」
テーブルの上には何種類かのレトルトカレーがバラバラに置かれている。
しかも、全部に半額シールが貼ってありますよ!!
手に取って何気無く期限を見てみると──。
惠美
「克ちゃん、期限が切れてるんだけど……」
克慈
「ああ、買って来てから随分経つからね。元気だけが取り柄の惠美なら大丈夫だろ。レトルトなんてのは期限が切れるまで寝かせた方が旨いんだよ」
惠美
「嘘吐けぇ!! そんな訳あるかぁ!! ざけんなぁっ!!」
克慈の私に対する扱い方の酷さにムカッ腹が立った私は、レトルトカレーが入った箱を思いっきり床に投げ付けた。
両肩で大きく息をする私を見もしないで、克慈はテーブルの上にあるレトルトカレーを戸棚に戻した。
床に叩き付けられたレトルトカレーを拾った克慈は──。
克慈
「これか、なかなか見所あるよ。密封されてるし、熱湯に入れて沸騰させるんだから」
克慈はシチューに使った片手鍋を洗いながら言い、洗い終わった片手鍋に水を入れた。
惠美
「……もしもし、怒ってるんですけど!」
克慈
「ああ、そうだね。惠美が怒っても恐くないけどね」
水を入れた片手鍋をガス代に置き、火を着けた克慈はレトルトカレーの箱を開けて、中のレトルトカレーを片手鍋の中に入れた。
惠美
「もしもし、熱湯になってないんですけど?」
克慈
「ああ、別に水から入れても食べれるよ。沸騰すればいいんだから」
惠美
「克ちゃんって、私に対しての扱いが日に日に酷くなってない?」
克慈
「惠美の反応がいちいち可愛いからだよ」
惠美
「え?! 可愛いって……(////)」
克慈
「ほら、嘘の言葉にその反応とかね。惠美は直ぐに真に受けるでしょ」
惠美
「馬鹿ぁ!! ときめいちゃったじゃんか!」
私は克慈が盛り付けてくれたレトルトカレーを食べた。
克慈は私が外したエプロンを付けて流台で食器洗いをしている。
はあ……、何でレトルトカレー?
本当なら白い御飯と一緒に肉巻きとシチューを食べていた筈なのにな〜……。
克慈
「惠美、グズグス食べない。さっさと食べてくれないと片付かないでしょ」
惠美
「克ちゃんの都合に合わせられないよ! 私にもペースがあるんだからね!!」
克慈
「俺は先に部屋に戻ってるから、片付けたら来るんだよ」
エプロンを外し、椅子に掛けた克慈は、私の頭に手を置くと、私の髪をクシャクシャしてダイニングキッチンを出て行った。
惠美
「酷っ! 頑張ってセットした髪なのにぃ!! 克ちゃんの馬鹿っ!」




