寺社6 メール
私は携帯を開けて受信メールを見た。
……善朋からだ。
メールの内容を読んで、私は涙が止まらなくなった。
だってっ……、こんな事ってあるの??
どうしてっ、━━━━が!!
……、昨日の通行止めの理由が判ってしまった。
私は、また……大切な人……友達を失ってしまったんだ……。
惠美
「━━ふえっ……くぅ……ふっ……うぅ……」
体が震える。
声を出さないように押し殺しても出来なくて……、声が口から漏れてしまう。
礼仁
「ん? 惠美ちゃん、どうかしたか?」
私の声に気付いたのは木土さん。
克慈は利樹さんと何かを話している。
涙、拭かなくちゃ……。
何でもない振り、しなくちゃ……。
惠美
「な……何でも、ないで……すから……」
出ない声を絞り出した。
礼仁
「何でもないわけ無いだろ? 体、震えてるしさ」
木土さんに肩を掴まれる。
木土さんはチャラっぽい見掛けによらず力が強かった。
私はされるがままに────
克慈
「木土! 惠美に触るな」
────は、ならなかった。
木土さんと私の間に入って来た克慈が木土さんの手を払ったから。
克慈
「惠美、どうした?」
惠美
「克ちゃん……」
克慈の顔を見た私は我慢が出来なくなって、克慈に泣き付いた。
克慈の服にファンデーションが付いてしまうのに、克慈の迷惑も考えないで大泣きした。
私が泣き止む迄の間、克慈は私の背中をずっと優しく擦ってくれていた。
利樹
「原因はコレか。……友達が亡くなったんだな、オノちゃん」
克慈の胸に埋めていた顔を離したて、私は利樹さんを見る。
……あ、私の携帯電話だ。
克慈に泣き付いた時に落としちゃったんだろう。
私の携帯電話を開いて、画面をジッ……と見ていた利樹さんは『ほら』と短く言うと私の携帯電話を克慈に手渡した。
私の携帯電話を右手で受け取った克慈は、画面を見ている。
多分、受信した善朋からのメールを読んでいるんだろう。
克慈はメールを読んだにも関わらず表情を変えない。
代わりに克慈の背後から画面を見ていた木土さんの方が騒がしい。
克慈
「木土、煩い。後ろで喋るな」
携帯電話を閉じた克慈は、私の名前を呼ぶと携帯電話を返してくれた。
克慈
「お祓いしてもらったのにな。効き目なかったみたいだな」
そうだよ!
智沙に案内された神社は、TVでも話題になった事のある有名な神社だったらしかった。
『霊感の一番強い神主さんが、お祓いをしてくれたんだ』って、智沙も自慢気に言ってたくらいだ。
……金欠だった私は、お祓いしてもらってないけど……。
有名な神社で、霊感の一番強い神主さんにお祓いしてもらったのに、事故死しちゃうって……どういう事なの?
意味わかんないっ!!
利樹
「お祓い? セット、何処でお祓いなんかしてもらったんだ?」
お祓い“なんか”って……。
惠美
「お祓いを馬鹿にしたような言い方をされるんですね……」
利樹
「ああ、まぁな。職業柄な……。気に障ったなら謝る」
惠美
「いえ、そんなつもりで言ったんじゃなくて……ごめんなさい」
利樹さんに失礼なこと言っちゃった。
利樹
「家は寺社だけど、お祓いの類いはしないんだ。気休めにしかならない事に金銭を貰うわけにはいかないからな……」
惠美
「……えと、お祓いも仕事の一部なんじゃないですか?」
利樹
「家は商売で寺社をしてる訳じゃ無いんだ、オノちゃん。お祓いは一時凌ぎの気休め的行為だ。効き目は確かにあるが、それが長続きする訳じゃない。効き目が消えれば、別の現象(苦厄)で現れる。原因を知り、解明が出来ない事には本統の解決にはならないんだ。家の寺社は調査と供養を専門にしているから、呪い的行為は一切しないんだよ、オノちゃん」
惠美
「……お祓いの効き目ってどれくらいなんですか?」
利樹
「人に依るな。信じる度合いとか心掛けとか。ピンからキリまでな」
惠美
「……じゃあ、お祓いしたのに翌日に亡くなっちゃうのは、お祓いを信じてなかったから? 心掛けが悪かったから? それで──は、死んじゃったの??」
利樹
「友達が全て悪い訳じゃないよ、オノちゃん。お祓いをする側の霊感の強さや、信じる度合い、心掛けも関係してるからな。追究しても人間に理由は分からないよ。考えるだけ時間の無駄さ」
惠美
「そんな……」
克慈
「惠美、事故は警察に任せればいい。可哀想だけど、運が悪かったんだろ」
惠美
「克ちゃん……、私の友達なんだよ! そんな言い方しないで! 運がどうとかそんな言葉で片付けないでよっ!!」
克慈
「惠美……。……悪い」
……っ、初めて克慈に謝られた。
克慈も謝ったりするんだ?
利樹
「オノちゃんの様子だと、親しい友人を亡くしたのは初めてじゃないみたいだな。他に誰か居るのかい?」
惠美
「……私の友達は二人目です。あ、一人は自殺未遂をして……今は意識不明で入院しています……」
話すべきか迷ったけれど、利樹さんは“あの”克慈が慕っているの先輩だから、思い切って話してみた。
利樹
「二人目? 一人は自殺未遂で意識不明か……」
惠美
「あの、利樹さん? どうかしましたか?」
黙って考え込んでしまった利樹さんを見ていたら不安を感じた。
……“自殺未遂で”なんて言わないで、“意識不明で入院中です”にしとけば良かったかも知れない。
余計な事を言っちゃったのかな。
口の軽い女って思われたかも……。
利樹
「……セットの相談と同じ内容だな。最近、他部署の上司が亡くなった……とかな」
惠美
「……え? 克ちゃん、利樹さんに遺さんの事を相談したの?」
利樹
「ん? オノちゃんの知り合いかい?」
惠美
「はい、私の上司でした。……民間のヘリコプターが三機、サービスエリアに墜落した事故です。……あの日は遺さんに誘われて……」
礼仁
「デートか? 亡くなった上司は惠美ちゃんの彼氏だったのか?」
惠美
「ちっ違います! 彼氏とかじゃありません!! 遺さんは唯の職場の上司で……」
礼仁
「そっか〜、良かった〜! 惠美ちゃんに彼氏が居たらショックだからな」
惠美
「……どういう意味ですか、それ? 私に彼氏が居たら駄目なんですか?」
礼仁
「駄目じゃ無いさ。惠美ちゃんがフリーなら、俺が彼氏候補として意識して貰えるチャンスもあるだろ?」
克慈
「ない! 用事は済んだし、帰るよ惠美」
惠美
「克ちゃん、もう帰っちゃっうの??」
克慈
「先輩、次は木土の居ない日に来たいんですけど」
利樹
「ああ、連絡するよ。俺が家に行こうか?」
克慈
「それは助かりますけど、忙しいんじゃないですか?」
利樹
「ん、ついでだよ。前日には連絡する」
克慈
「有難う御座います、先輩」
惠美
「利樹さん、克ちゃんの家に来た事あるんですか?」
利樹
「ああ、近くを通った時に泊めて貰ってたからな。俺的に居心地が良くて、通ってた時もあったんだ。近々、寄らして貰うつもりだったんだ」
惠美
「近々って?」
克慈
「依頼だよ。蒔邑寺社が受ける依頼は、調査と供養だからね」
利樹
「此処から通うより、時間の短縮になるから助かるよ。帰るなら駅まで乗せてやるよ」
克慈
「有難う御座います。惠美、行くよ」
惠美
「……あ、うん。木土さん、さよなら」
礼仁
「惠美ちゃん、またね! 俺のこと考えといてくれよ!」
惠美
「……ど、努力してみま━━きゃっ?! それじゃ……」
木土さんと話していたら、克慈に腕を引っ張られてバランスを崩してしまった。
木土さんへの挨拶も出来ないまま、私はそのまま克慈に部屋を連れ出されてしまった。
惠美
「克ちゃん! 急に腕を引っ張るの止めてよ! 吃驚して転んじゃうかと思っちゃったんだからね!!」
利樹
「二人に妬けたか?」
克慈
「まさか。木土に妬くわけないですよ」
利樹
「そうか〜。必死だったぞ?」
克慈
「俺がですか? 無いですよ」
利樹
「まっ、そういう事にしとこうか」
克慈
「先輩、いい加減にして下さい。──惠美、なにモタモタしてるの? 早く来なよ」
惠美
「……は〜い」
克慈の機嫌が悪いんだけど……、利樹さんと何を話してるんだろう?
玄関で靴を履いて寺社を出る。
克慈が腰に手を当てて、私を待っていてくれた。
克慈
「グスグスしない。ほら、荷物貸して」
克慈に手持ちの荷物を引ったくられた。
大事な物が入っているのを持って行かれると、妙にハラハラしてしまう。
克慈が持ち逃げするような人じゃないって分かっているけど落ち着かない。




