職場12 車内
玄関を出て、駐車場に向かう。
朝からの土砂降りは相変わらずで、傘をさしているにも関わらず、靴もスーツも濡れてしまう。
代わりの靴もスーツも有るからいいけど……。
車に乗り込み、惠美の待つ玄関へ車を走らせる。
車に乗る時に、惠美が少しでも濡れないようにと車を停めるのは、惠美に対する思い遣りや優しさでは無く、美加さんへアピールする為だ。
小さな気遣いが惠美を通じて美加さんの耳に入る。
薗野家の大事な娘を任されている俺は、薗野家の家長である悳司さんから信頼されている。
悳司さんの信頼を失う訳にはいかない為、ポイント稼ぎも忘れない。
克慈
「薗野さん、お待たせ」
乗り易いように助手席のドアを開けてやり、声を掛ける。
惠美
「有難う御座います、瀬戸瀬さん。お願いします」
惠美が車に乗り込み、ドアを閉め、シートベルトをしたのを確認してから、車を走らせる。
車を走らせてから数分後、惠美はウトウトしている。
何時もの事で、いちいち気にはしない。
眠たいのなら家に着くまで寝かせている。
安心しきっているのか、俺を男として意識してないのか、単に眠気に勝てないだけか──、俺には分からない。
俺を警戒する事も無く、気を許しているという事だろうから悪い気はしない。
態々車を路肩に停めて、無防備な惠美の寝込みを襲うような事はしない。
そんな事をしたら、今まで築き上げて来た俺の信頼度は0になる。
二度と薗野家と関われなくなるだろう。
そうなれば、俺の細やかな楽しみである美加さんの手作り弁当も食べられなくなる。
そんなのは、ごめんだ。
美加さんの寝顔が見れないのは残念だが、惠美の寝顔で辛抱する。
似てるし。
こういう、ふとした時に、悳司さんになりたいと思う。
美加さんの寝顔を間近で見られるのは夫の特権。
夫婦による夜の営みによって此処にいる惠美を見ては、脳裏の片隅で二人の共同作業を思い浮かべる。
経験は無いが、知識ぐらいはある。
……男子校だったし。
自分にその気は無くとも嫌でも耳に入る環境だった。
……済んだ事を想像しても虚しいだけだな。
隣の惠美は静かに寝息を立てて、気持ち良さそうに夢の中だ。
どんな夢を見てんだか。




