職場11 行方知れず
愛
「──つぁ〜〜〜!! 今日も仕事、終了〜〜〜ッッッ!! 定時で帰れる〜〜♪♪♪」
克慈
「壱可、お疲れ」
愛
「瀬戸瀬も、おっつ〜。──あれ? 八崗は?」
克慈
「ああ……、そう言えば見てないな?」
愛
「まさか──、サボり?!」
克慈
「さぁな。昼休みから戻ってないならサボりかもな」
八崗が居ようが居まいが俺には関係無い。
俺は早々と机の上を片付けると鞄を持った。
これから雑務課のある九階へ行く。
定時に終われれば、俺は必ず惠美を呼びに行く。
克慈
「九階に行くついでに深江さんに八崗の事を聞いみるか」
愛
「薗野さんの所に行くんだろ? 俺も行く! 八崗の事も気になるしさ」
克慈
「八階で降りろよ。俺は九階へ行くから」
愛
「一緒に八階で降りようぜ。あ、薗野さんも一緒の方がいいよな。先ずは九階、次は八階だな☆」
克慈
「……勝手しろ。俺は行く……」
愛
「一人で行くなよ~! 仲良く行こうぜ~」
壱可は陽気に俺の背中を叩くと、俺の隣を歩く。
エレベーターに乗り込み、九階のボタンを押す。
九階へ着くと俺はエレベーターから降り、雑務課に向かった。
克慈
「薗野さん、帰るよ」
雑務課に顔を出した俺は、惠美の姓を呼ぶ。
同僚とお喋りをしていた惠美は、俺に気付くと同僚に手を振り、駆けてきた。
惠美
「瀬戸瀬さん、お待たせしました」
克慈
「もういいの?」
惠美
「うん。話は明日の確認してただけだから。あれ、えと……壱可さん??」
惠美が壱可に気付いた。
気付かなくてもいいのに。
惠美
「どうしたんですか? 雑務課に用ですか?」
愛
「薗野さんに会いたくて来ちゃったんだよ」
惠美
「え? は、はぁ……」
克慈
「ほら、行くよ」
俺は惠美の鞄を持つと雑務課を出る。
そうすると惠美は慌てて俺を追い掛けて来る。
まるで親ガモの後ろをついて歩く子ガモだ。
この様子だと壱可は車までついて来そうだ。
三人でエレベーターに乗り込むと、壱可が八階のボタンを押す。
惠美
「八階? 八階にも用があるんですか?」
愛
「ちょっちね。八崗がさ、午後の仕事をサボったんだよね。深江さんに聞きに行くんだよ」
惠美
「深江さん? デザイン課の深江夕美さん?」
愛
「あれ、階が違うのに知ってるんだ?」
惠美
「雑務課は色んな課へ出入りしますから。深江さんは男性社員から人気ありますよね。『清楚で可憐な感じがそそるね〜』って話してるのをよく聞きます」
愛
「……へぇ、よく聞くんだ? 女の子の前で言う言葉じゃ無いな〜。薗野さん、耳栓をした方がいいよ……」
惠美
「そうなのかな〜」
克慈
「八階に着いてるんだけど。壱可、さっさと降りろよ」
愛
「おい、瀬戸瀬も行くんだろ? 深江さんに会いたくないのかよ?!」
克慈
「興味無い。行くよ、薗野さん」
俺は壱可をエレベーターから押し出すと、扉を閉じるボタンを押す。
壱可が何かを言いたそうな顔で俺を見ていたが、無視する。
俺は早く帰りたい。
惠美
「……克ちゃん、良かったの?」
克慈
「いいよ。壱可に任せる。それより、車に乗る迄は“瀬戸瀬さん”でしょ」
惠美
「……ごめんなさい」
克慈
「お詫びに俺の夕飯、作ってよ」
惠美
「えぇっ?! 昨日も作ったじゃんか。何で今日も克ちゃんの夕飯を作らないといけないの〜!」
案の定、物凄く嫌な顔をする。
そんな惠美をその気にさせるのは割りと簡単だ。
克慈
「ほら、また言った。決め事もちゃんと守れない薗野さん、作ってくれるでしょ?」
惠美
「うぅ……。分かりましたよ〜。作ればいいんでしょ〜」
克慈
「いい子だね。楽しみにしてる」
俺は如何にも“期待してる”という笑顔を惠美に向け、頭を撫でてやる。
そうすれば、嫌そうな惠美は満更でも無い顔をして『もうっ、しょうがないな』と折れる。
単純な惠美は扱い易い。
克慈
「玄関で待ってな」
惠美の頭に手を乗せ、髪をワシャワシャしてからエレベーターを降りる。
惠美は髪を直しながら小言を言うが、聞こえない振りをする。




