職場10 和気藹々
壱可は笹熊さんと楽しそうに話している。
内容は社食のメニューについてだ。
俺は美加さんの手作り弁当を味わいながら、二人の話に耳を傾けていた。
肥える前のデブタは、そこそこふくよかな体型で、何処と無く幸裕兄さんに雰囲気が似ていた。
悳司さんは昔から、ふくよかで幸裕兄さんは父親に似たのだろう。
惠美がデブタに親近感を覚えるのは仕方無い事なのかも知れないが、必要以上に親しくなるのは阻止しなければならない。
惠美は女性関係に問題のある男に何故だか好かれる傾向があるようだ。
誤解されないように言っておくが、俺は違う。
俺は害虫共が惠美に群がらないように駆除をしているに過ぎない。
デブタが惠美に目を付ける理由が分からない。
何故、よりにもよって惠美なのか?
独身の女性社員ならば他にも居ると言うのに──。
俺のクッションに、ブヒブヒ言いながら汚い油汗が浮かぶ汚い鼻を擦り付けようとするデブタをどうしてやろう……。
典雄
「──二人は本当に仲がいいね。近所で家族付き合いをしているなら、本人同士も結婚を意識して交際していてもおかしくないのにね」
愛
「ところが、瀬戸瀬は結婚を前提に付き合ってる彼女が居る! 薗野さんはフリー。行くしかないっしょ! 一九歳なら恋に恋する年頃し、此処は大人の魅力で──」
克慈
「大人の魅力で、薗野さんに何する気?」
愛
「やだ、恐い顔するなよ、瀬戸瀬〜。瀬戸瀬の女じゃないだろ。薗野さんのボディーガード的なのは卒業して、彼女との新婚生活の事でも考えてろよ〜」
克慈
「薗野さんの両親には昔から世話になってるの。嫁入り前の薗野さんに悪い虫が付かないように見張るのは、恩返しみたいなもんなの」
愛
「何よそれ! 彼女の居る男の余裕? 悪い虫が付かないように、俺が薗野さんのボディーガードになってやるからさ〜、そろそろ薗野さんを幼馴染みの鎖から解放してあげたらどうよ?」
克慈
「誰が鎖だよ。深江さんにアタックするんじゃないのか? 薗野さんより深江さんの方が──」
典雄
「ハハハ、瀬戸瀬君は心配性だね。薗野さんの父親みたいだね。……いや、兄貴な? 親近感を感じるよ」
鳴くなよ、デブタ。
黙って目の前の餌を貪ってろ。
典雄
「ハハハ、僕にも妹弟が居るから瀬戸瀬君の気持ちが分からなくも無いよ。小さい頃から近所付き合いしてると、兄妹みたいな感覚になるって、友人も言っていたからね。その友人は“幼馴染みは俺の女。俺は彼氏だ”って勘違いしていた訳だけど……。瀬戸瀬君はその心配は無さそうだね。婚約している彼女が居るみたいだし」
愛
「へぇ〜。笹熊さん、その痛過ぎる友人はどうなったんです? その後が知りたいなぁ〜。瀬戸瀬も知りたいだろ?」
克慈
「別に……。ストーカーで逮捕されたんじゃないの?」
典雄
「そうでも無いんだ。
{彼氏が出来たと報告に来た幼馴染みを孕ませてね、そのまま籍を入れたそうだよ。今では四児の父親で、今年の冬に五人目が産まれる予定だって、連絡が来てるんだ}」
愛
「……男って恐い!!」
克慈
「お前も男だろ」
典雄
「幼馴染みへの執着が強過ぎたんだろうね。その点、彼女が居る瀬戸瀬君は安心だよ。友人のような非道徳的な暴挙には出ないだろうし」
……このデブタはどういうつもりだ?
壱可と惠美を付き合わせようとしてるのか?
遠回しに惠美から距離を置けと言ってるのか?
愛
「瀬戸瀬〜、頼むから寝盗らないでくれよ? 薗野さんとの関係を温かい目で見守ってくれよな☆」
克慈
「……言ってろ」
昼休みが終わる曲が社内中に流れる。
愛
「おっ、もう一五分前か。話してると時間を忘れちゃうよな〜。急いで戻らないと──」
克慈
「お先に」
食べ終えた弁当箱をランチバッグに入れ、席を立つ。
壱可が『待ってくれよ〜』と情けない声を背後で出しているが、俺はお構い無しに足早に食堂を出た。




