職場9 相席
愛
「いつ見ても旨そうな卵焼きだよな〜。懐かしい赤ウインナーのタコさんに、日替りの野菜のお浸し。今日のメインは豚肉の生姜焼き、白い御飯にはハートの桜デンプンが飛び交ってる。毎日、愛を感じる弁当だよな〜」
克慈
「そう見える?」
愛
「見える、見える。これで見えなきゃ、愛妻弁当を食べる資格は無いね! 俺が食べて──」
克慈
「食べなくていい。コラ、卵焼きを取るな」
愛
「いいだろ〜、一つくらい。ケチケチするなよ! 斜めに切ってハート型にするなんて、薗野さんも好きなんだねぇ」
克慈
「そう思う?」
愛
「思う、思う。思わないなら、愛妻弁当を食べる資格は無いね! 俺が食べて──」
克慈
「食べなくていい。コラ、箸を入れるな」
愛
「いいだろ~。タコさんくれよ。豚肉でもいいけど」
克慈
「取るな。自分の食べろ」
愛
「俺の豚ションやるから、薗野さんのと取り換え──」
克慈
「しつこい」
……全く、壱可はいつもこうだ。
冗談なのか本気なのか分からない事を言う。
美加さんの手作り弁当を他人に分けるわけ無い。
?
「壱可君,瀬戸瀬君。二人で昼食なんて珍しいね。八崗君はどうしたんだい?」
食事中の俺達に声を掛けて来たのは──、笹熊さんだ。
片方の手でトレイを持ち、片方の手でハンカチを持ち、汗を拭いている。
今日は汗を掻くような暑い日では無いと思うが……、体格がいいからだろう。
デブタは体温調節が難しいのかも知れない。
典雄
「壱可君,瀬戸瀬君、一緒にいいかな?」
愛
「どうぞ、どうぞ。いいよな、瀬戸瀬?」
克慈
「ああ。どうぞ、座って下さい、笹熊さん」
典雄
「座る席が無くて困っていたんだ。助かるよ」
デブタは、ホッとしたのか表情を緩めると壱可の隣に座った。
壱可がズレた事で、俺がデブタと向かい合う形になる。
愛
「珍しいですね〜、笹熊さんが社食なんて。今日はどうしたんですか?」
典雄
「ああ、いつも弁当を作ってくれる妹が風邪を引いてしまってね。社食なんて久し振りだよ」
デブタは『ハハハ』と額に浮かぶ汗を拭きながら壱可の質問に対して丁寧に答える。
デブタの餌(弁当)は妹の手作りなのか。
妹の策略か、俺達が入社した頃よりもデブタは確実に肥えている。
そのデブタが事もあろうに俺の目を盗んで、俺のクッション(惠美)に、汚い涎を垂らそうと(求愛)して来た。
幸いにも危機一髪、俺のクッションは涎を垂らされずに済んだ訳だが、これは許し難い事だ。
俺のクッションを汚していいのは、世界中で唯一人──。
典雄
「瀬戸瀬君の弁当は、いつ見ても美味しそうだね。薗野さんは料理上手だね」
克慈
「笹熊さんの弁当には敵いませんよ」
愛
「瀬戸瀬と来たら、俺に一口もくれないんっすよ。俺達の同僚愛は何処に行ったんだよ」
克慈
「別に愛してない。卵焼きをくすねたろ」
愛
「くすねて無いだろ! 誤解されるような事を言うなよな!」
克慈
「黙って自分の分、食えよ」
愛
「酷いでしょ、笹熊さん! 八崗は八階の夕美ちゃんと仲良くランチしてるんですよ! 夕美ちゃんの手作り弁当を食べるとか。狡いですよね〜」
典雄
「ああ……、深江夕美さんか。部署は違うけど、彼女も薗野さんと同年だったね」
愛
「そうなんですよね~。一九歳なんて可愛い盛りですよね。八崗の何がいいんだか?」
典雄
「壱可君は深江さんが気になっているのかい? まあ、二人が付き合う関係じゃなければ望みはあるよ」
愛
「そうっすか? 俺も頑張ってみようかな~」
克慈
「ストーカーにはなるなよ」
壱可
「ならねぇよ!!」




