職場2 壱可愛
惠美より前の階でエレベーターを降りた俺は、自分の部署に入る。
出勤のタイムカードをスキャンして自分の机に向かう。
?
「よう、瀬戸瀬! はよっす」
克慈
「ああ、壱可か。はよ……」
親し気に俺へ挨拶して来たのは、同期の同僚の壱可愛だ。
因に壱可の机は俺の右隣だ。
愛
「どうした? 朝からテンション低いじゃん?」
克慈
「……何時もだけど?」
愛
「何時も以上にだろ。朝から何かあったと見るぜ」
克慈
「まあ、そんなとこ」
愛
「当ててやろうか! 車の中で薗野さんと口喧嘩して負けた!」
克慈
「俺が年下に負けるわけ無いだろ。逆に言い負かせる」
愛
「違うのか? そうだな、じゃあ……」
同僚の事は放っておく。
何時もの事だからだ。
俺は何時ものように自分の机の引出しを開ける。
克慈
「……今日もか」
……そして、何時もと同じ言葉が溜め息混じりに口から出る。
俺の私物が無くなっているからだ。
大した物では無い、一寸した文具だ。
初めの頃は嫌がらせかとも思ったが、そうでは無いと知ったのは何気無く回りを見ていたら、女性社員(主に独身の)が、俺の私物を自分の物のように使っていたのを目撃してからだ。
それも一人ではなく、部署内の女性社員の殆どかだ。
驚いたのは部署の違う女性社員までが、俺の私物を持っており、使っていると他部署の男性社員から聞いた時だな。
初めの頃は声を掛けて返して貰っていたが、毎日のように引出しの中から無くなる為、返してもらう為に声を掛けるのを止めた。
声を掛けると嬉しそうにされるし、声を掛けて欲しくて、俺の私物を引出しから持ち出す女性社員も居るという事も知ったからだ。
俺と話す切っ掛けにする為に持ち出すとか、何を考えているんだか。
兎に角、俺から声を掛けるのは逆効果だと知った。
本当に必要な時以外は、俺からは絶対に声を掛けないようにしている。
よって、女性社員には挨拶も俺からはしない。
相手から挨拶をされたり、声を掛けられれば返す程度に留めている。
愛
「あ〜……また無くなってんのか? モテる男は辛いよな」
克慈
「同情するなら、売店で買ってくれ」
愛
「俺の使いかけのやるよ。それそろ新品に変えたいと思ってたんだ。丁度いいじゃん」
克慈
「お前にはだろ。……助かるけどな。サンキュ」
壱可の厚意を有難く受け取る。
使いかけだろうと、有るに越した事は無いからな。
愛
「彼女が居るってのが、逆に女心を燃えさせてんのかも知れないなー。対抗心ってやつ? 略奪愛を狙ってるとかさ」
克慈
「俺が奪われる側かよ。俺は奪う側に居たいね」
愛
「奪いたい彼氏持ちの女でも居んの?」
克慈
「居るわけ無いだろ」
愛
「居たらいいのにな!」
壱可に言われて、脳裏に惠美の顔が浮かぶ。
惠美はフリーだけどな。
今日も、夕飯を作らせてやろうかな。
惠美の嫌がる顔が目に浮かぶ。
克慈
「…………、そうだな」
今から楽しみでたまらない俺は、笑いを堪えて壱可の言葉に返答した。




