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☀ イストリゲ~ム  作者: 雪*苺
   【 職場 】
110/156

職場1 笹熊典雄

 

 昨夜、克慈から“あんな話”を聞いたけど、幸いな事に私は夢の中で魘される事は無かった。

 

 私は今、職場のエレベーター扉の前に立っている。

 

 部署に行く為にエレベーターに乗るからだ。


 

「おはよう、薗野さん。今日は一人?」

 

惠美

「あ、おはよう御座います、笹熊さん」


 

 気さくに声を掛けて、挨拶してくれたのは、ささくまのりさん。

 

 克慈と同じ部署で働いている、克慈の同僚だ。

 

 同僚と言っても、克慈よりも六歳年上で、職場の先輩だと克慈からは聞いている。

 

 私は笹熊さんに挨拶をして、ペコリと頭を下げる。


 

惠美

「途中迄は瀬戸瀬さんも居たんですけど、女性に呼ばれて……」

 

典雄

「ああ……、瀬戸瀬君は朝からモテるね」

 

惠美

「あはは、モテるんですか? 信じられないですけど」


 

 私は可笑しくて笑ってしまった。

 

 だって、克慈がモテるとか!!

 

 見る目が無いよね?


 

典雄

「ハハハ、独身だからね。うちの部署の女性社員なんて、露骨に瀬戸瀬君にアピールしてるよ」

 

惠美

「あはは、本当ですか? ウ〜ケ〜るぅ〜。彼女の居る瀬戸瀬さんにアプローチして何になるんですか? 略奪愛ごっこが流行ってるんですか??」

 

典雄

「ハハハ、ごっこか! 確かにね、見ていて飽きはしないね」

 

惠美

「他にも独身の男性社員って居ますよね? 瀬戸瀬さんに夢中だとか、勿体無いですよね?」

 

典雄

「そうだよね。此処にも独身男性が居るのにね」

 

惠美

「本当ですよね〜」


 

 笹熊さんは年上だけど、話し易い。

 

 冗談を言っても笑って返してくれるし、リアルお兄さんだし。


 

惠美

「あのですね、お兄さんって、妹からどんな呼び方をされたら嬉しいですか? えと、例えば『お兄ちゃん』とか『お兄ぃ』とか『兄さん』とか色々あると思うんですけど。どんな呼ばれ方をしたら、グッと来ますか?」


 

 ここはやはり、リアルにお兄さんの笹熊さんに聞くべきではないだろうか?


 

典雄

「グッと来る呼ばれ方ねぇ? ……まぁ、無難だけど『お兄ちゃん』じゃないかな? か弱い妹から頼られてるって感じがするし」

 

惠美

「か弱い? 『お兄ちゃん』って呼んだら、か弱い妹に見えるって事ですか? こう、守ってあげたくなっちゃう的な??」

 

典雄

「まぁ、人それぞれだけど、僕はそうかな。実際に歳が離れているし、二人共まだ学生だからね。生意気だけど、可愛いのは変わらないからね。経済面でも助けてあげたいと思うよ」

 

惠美

「そうなんだ〜。妹さん達って学生なんですか?」

 

典雄

「そうだよ。一人は高校生だし、一人は中学生。ああ、中学生の妹は双子でね、弟も居るよ。弟は思春期真っ直中だよ」

 

惠美

「へぇ、弟さんも居るんですね! 弟さんからも『お兄ちゃん』って呼ばれてるんですか?」

 

典雄

「いや、弟は『兄貴』って呼んで来るよ。何処で覚えたんだろうね、本当に」

 

惠美

「友達からですかね? 私は一人っ子だから、妹弟の居る笹熊さんが羨ましいです」

 

典雄

「ハハハ、そうなの? 僕のお嫁さんになれば、妹弟が出来るね。義理だけど」

 

惠美

「あっ、本当ですね!」


 

 なんて話してる間にエレベーターがやっと来た。

 

 此処のエレベーターって来るの遅いんだよね〜。


 

「薗野さん!」

 

惠美

「はい?」


 

 笹熊さんとエレベーターの中に入ろうとしたら、後ろから腕を掴まれた。


 

惠美

「えっ??」


 

 後ろに強く引っ張られた私は、エレベーターには乗れず、扉は閉まってしまい私を置いて上がって行ってしまった。


 

惠美

「──も、もうっ! 何なんですか、急に!! エレベーターに乗れなかったじゃな──……克ちゃ──……瀬戸瀬さん?!」


 

 吃驚した。

 

 だって克慈ったら、両肩で大きく息をしていて、何だか今にも泣きそうな顔をしてるんだもん。


 

惠美

「……あの、瀬戸瀬さん? だ、大丈夫ですか?」


 

 職場では“克ちゃん”と呼ばないようにしている。

 

 ご近所で、職場が同じだから通勤時は車に乗せて貰っている──って事にしている。

 

 “付き合ってる”って思われると色々と面倒事になりそうだもん。

 

 休憩中や仕事終わりに会社裏とか人気ひとけの無い場所に強制連行されて集団リンチとか嫌だもん!!

 

 女も集団になると恐いんだ。


 

惠美

「……体調が悪いなら医務室に行った方が──」

 

克慈

「薗野さん、笹熊さんと何の話してたの?」

 

惠美

「えっ? 別に──、ああ……、瀬戸瀬さんは部署の独身の女性社員にモテモテだよって話をしてました」

 

克慈

「……そう」

 

惠美

「……えと、本当に大丈夫??」

 

克慈

「何でもない。薗野さん、笹熊さんとは親しくしないように」

 

惠美

「は? 親しくも何も部署が違うんですけど?? 階が離れてるし、親しくなりようが無いと思うんですけど?」

 

克慈

「それでも。笹熊さんとは関わらないようにして。いい?」

 

惠美

「……う、うん。努力する」


 

 どうして克慈が朝っぱらから笹熊さんと親しくする事に反対するのか分からないけど……、昨日の今日で、堅智さんの事もあるから取敢ず克慈に言われた事には頷いた。

 

 笹熊さんって、四人兄弟妹のお兄さんだし、いい人だと思うんだけどな?

 

 う〜ん……、同じ部署じゃないと分からない事もあるのかも知れないね?

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