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第三話 「神と天使」

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「協力だって?」

 大地は誘拐の依頼を出したノアが自分に協力しろというのを理解できなかった。そんな身勝手な考えにいら立ちを覚えてさえいた。

「何で俺が誘拐の依頼をしたお前の協力なんぞしなきゃいけないんだよ」

「私たちには時間がないの。だからお願い」

「私たちってことはお前以外にも仲間がいるのか?」

「呼んだかの?」

「っ!?」

 急に背後から掛けられた声に大地は驚愕とともに振り向いた。そこに立っていたのは白いローブのような服を着た長いひげの爺さんだった。気配なく自分の背後に現れたその人物に警戒するが相手には特に敵対心がないようなので一度警戒レベルを下げることにした。

「あんたは誰だ?」

「わしかの?」

「ああ、あんただよ」

 ふむ、と老人はうなずくと自己紹介を始めた。

「わしの名前はゼウス。この世界を管理する神じゃ。それでそっちにいる少女はノア、わしの部下にして高レベルの天使じゃ」

「神と、天使?おいおいじーさんいくらなんでもそれは……」

「信じられんのもわかるが信じろ。わしは正真正銘の神じゃからな。ノア、翼を見せてやるといい」

 ノアはこくりと小さく一度頷くと背中にある一対の白い翼を羽ばたかせた。その羽ばたきで舞った羽が空中に留まる。その光景に唖然とするの大地と穂香だ。驚きを隠せずに口を開けたまま止まっている。

「信じてもらえたかの?」

「……ああ。さすがに信じざるを得ないだろうな。幻覚の類ではなさそうだし」

「信じてもらえて何よりじゃ。ではノア、説明をしてやれ」

 ゼウスの言葉にうなずいたノアは大地たちに向きなおり、説明を再開する。要は地上に落ちた天上界の宝石『セブンズシード』を集めるのを手伝ってほしいというものらしい。

「もし手伝ってもらえるなら願いを一つだけ叶えるぞ?」

「……分かった。手伝おう。それにこんな女の子だけで集めるってのを聞いたら放っておけないじゃんかよ」

「ありがとう」

「うむ、ではノア。あとは任せるぞ」

「はい」

 ノアにそう告げるとゼウスは音もなく立ち去っていった。瞬間移動とは違うその移動方法に大地が少し興味を示していたのは余談だ。

「じゃあとりあえず帰ろうぜ。鉄も心配してるだろうし」

「そうだね、いろいろあって鉄ちゃんに連絡とれなかったしね」

 そういって大地は穂香の手を握る。そしてノアのほうにも手を差し出した。いまいち状況を掴めないノアは首をかしげた。

「他のやつといっしょに瞬間移動をするときは体の一部に触れる必要があるんだよ。別空間のときに離れてしまわないように手を握るようにしてるんだよ」

「なるほど」

 ノアは納得して大地の手を握った。大地よりも一回り小さいその手に大地が内心焦っていたのは言うまでもない。小声で呟いてすらいた。

「小さくてやわらかくて気持ちいいものだな」

「なに?」

「っ!? なんでもない」

 顔を覗き込んできたノアに狼狽する者の表情には出さずにやり過ごした。二人の手を握っていることを確認すると大地は能力を使用してその場を後にするのだった。

 




*****   





「遅いな、あいつら」

 夜はすっかり更けて夏といえどあたりは真っ暗だった。時刻は十二時を過ぎたところである。いまだに帰ってこない大地たちに何かあったのではないかと心配で鉄雄はうろちょろしていた。

「いくらなんでも遅すぎるだろう。何かあってからでは遅い、能力を使うか」

 鉄雄の能力は通信能力

トランス

で、相手を思い浮かべるだけでテレパシーを行うことができるというものだ。少し応用すれば相手の位置情報などもつかむことができる。

「なぜ繋がらないんだ!」

「だってテレポートで移動中だったし」

「うおっ!」

 突然横合いからかかった声に鉄雄は驚いて後方へ飛び退いた。そこにいたのは両側に女の子を連れた大地だった。

「ただいま、鉄」

「ただいま、鉄ちゃん」

「全く遅いではないか、大地」

「いろいろ事情が込み合っててな」

 ははっ、と三人で笑いあうと鉄雄は大地の連れてきたもう一人の少女へと顔を向けた。月夜に映える白い髪、まるで雪のように白い肌。その感情を移さない蒼の瞳は月の光が反射して光り輝いているように見える。

「ところでそちらのお嬢さんは誰だ?」

「月島ノア、天使

・・

だ」

「は?」

「そういえばノアはどこで寝るんだ?」

「どこでもいい」

 なら穂香の部屋だけはやめておけ、と大地は忠告する。

「なぜ?」

「こいつは無類の可愛いもの好きでなお前のことを可愛いと感じてしまったようなんだ。一緒の部屋で寝ると襲われるぞ」

「ひどいな、襲わないよ~」

「お前がカワイイものを十秒以上見続けて理性を保っていたためしがないからな」

「うっ」

 大地の指摘に思うところがあるらしく穂香は顔をゆがめた。ノアはそんな光景を感情の読めない表情で見続けている。そうしたところで大地はもう一度聞いた。

「で、だ。ノアはどこに寝るんだ?」

「………大地の部屋でいい」

「……ん。分かった、じゃあ俺のベッドを使うといい」

 大地のことを信頼しているのか穂香と鉄雄はノアが大地の部屋に泊まることに反対しなかった。ノアも特に異論がないようで頷いた。

「オッケー。じゃあみんな寝ようぜ。いい加減眠い」

 みんなが承諾する中鉄雄はそういえば、と話しだす。

「大地、明日の朝院長が部屋に来いってさ」

「マジで? だるっ!」

 大地はだるそうにしながら部屋へと戻っていく。部屋に入るとノアにベッドで寝るように言い自身はソファに寝転んだ。ノアも文句も言わずベッドで眠りについた。

 大地はソファに寝転びながら今日会ったことを振り返っていた。穂香がさらわれて、神と天使が現れて、協力を依頼されて天使と一緒に帰ってきて。

 異常に濃い一日だったな、と深いため息を吐くと意識を闇へとおとしていった。

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