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第十話 「風によって塵となり、雷の華は咲き誇る」

「じゃあいったんお前らを孤児院まで跳ばすから、そのあとは春菜に治療を頼んでくれ」

「分かった」

 行くぞ、と前置きをして大地は自身の能力のうちの一つ瞬間移動能力テレポートを発動した。シュン、と空気を切り裂く音がしたと思うと二人の姿は消えていた。

 二人を跳ばしたことを確認すると大地は敵と向かい合うようにノアの隣へと並んだ。未だ怪物と化した敵はさっきの雷のせいで体が麻痺しているのだろう。一切動く気配がない。

「ノア、とっとと終わらせようぜ」

「分かった」

 ノアの返事が聞こえたのかどうかぐらいで大地はすでに能力を発動させて、風を身に纏っていた。大地の体を渦巻く風は鋭く、コンクリートの地面を切り裂いている。

 大地の隣に立つノアも返事をした直後に膨大な魔力を紫電へと圧縮変化させ、右手に纏わせている。バチバチッ、と漏れ出る雷が地面へと奔っている。

「これで」

「終わり」

「「風塵雷華!!」」

 大地の放つ無数の風の刃に、圧縮された雷が乗り、龍と化している。その龍は敵に当たると同時拡散した。風の刃と紫電が咲き誇る花のように周りへと消えていく。

 いきなりの大技で絶対に敵を倒したと思った二人は少し油断していた。だからこそ自分たちの勝利を疑わなかった。


その慢心が、油断が、己の身に降りかかるのも知らずに。


「っ!? ぐぁぁぁぁああああああああああああ!!」

「っ!? 大地!!」

 いつの間に近づいたのか、気付けば大地は左腕の肘から先を喰われていた。夥しいほどの血液が傷口からあふれ出ていた。幸か不幸か、それでも大地は永続的にくるひどい痛みに意識を失うことなく保っていた。隣に立つノアが崩れそうになる大地の体を支えている。

「ガアアアアアアアア!!」

「まずいっ!! ノア!!」

 大地は突進してくる相手に気付き、痛みに耐え能力を行使した。かろうじて跳べた距離は横方向にわずか数メートルだけだ。それでも回避することには成功した。それが残っていた唯一の力を使い果たし、大地は意識を失った。

 ノアは慌てて倒れこむ大地の体を支え、ゆっくりと横にした。そして屹然と敵と対峙した。心の内では油断していた己を叱責している。しかし合体技である『風塵雷華』をくらっても少しのダメージしか通っていない敵をノア一人でどう倒すというのか。

「咲き誇れ、雷の華!! 『雷華、招来』!!」

 風塵雷華よりも原型である雷華を放つものの全く効果というものは見られない。しかし雷華をくらった怪物は、その動きを止めた。そしてゆっくりと口角を吊り上げた。

「やっと言うこと聞きやがったか、このじゃじゃ馬が。

 おぉ待たせたな、嬢ちゃん。今からゆっくり遊んでやるから待ってな。あと少しで全部掌握できるから、よ!!」

 男が怪物の額から顔だけを出して笑顔で告げた死刑宣告にノアは恐怖した。初めて感じる恐怖という感情に困惑しながら怯えるノア。

 そしてそれを楽しむかのようにげらげらと下品な笑い声を響かせる怪物。

 両者の間は段々と、しかし着実に狭まっていた。ノアは恐怖に耐えきれずに膝をつき、目を閉じ、耳を塞ぎ、怯えている。そこにいるのは天使などではなく一人恐怖に怯える少女だった。そして覚悟した、自分の死を。


 それから数分、いや数十分かもしれない。死を覚悟した少女は一向に来ない衝撃に不思議に思い、閉じていた目を開いた。そして驚愕することになる。

 そこに立っていたのは一人の青年。

左腕を喰われ、ノアを庇い、先ほど気を失った青年。驚くべきは左腕が復活している、という点だろう。どういう力を使い、回復したのか。全く不明だった。分かっていることは―――

「大丈夫か、ノア」

 ―――彼が無事ということだ。

 大地の無事を確認できたノアは、先程の恐怖が嘘のようになくなったことに驚いた。大地がいる、ただそれだけなのに驚くほどの安心感がノアにはあった。

「大地、そっちこそ大丈夫なの?」

「問題ないな。

 嫌な奴にはあったけど」

「嫌な奴?」

「まあ、いつか話してやるよ。

 今はあいつを倒すのが優先だ」

「分かった」

 先ほどと同じように怪物と対峙する二人。

 しかし先程のような油断は微塵もなかった。敵を倒す、ただそれだけに集中している。その二人の頭に突如声が響いた。

――二人とも。大丈夫か?

「そう言うお前はどうなんだよ、鉄」

 そう、頭に響いた声の正体は鉄雄だった。まだ息は荒いが、能力を使えるということは少し落ち着いたのだろう。大地の言葉に苦笑いしつつ、鉄雄は念話で答えた。

――問題ないとはいかないが、幾分かは落ち着けたよ。

  それで奴の弱点だが、おそらくは首の後ろ側、うなじの辺りだろう。

「弱点探れていたのか」

――まあ割とギリギリだったのだがな。奴の皮膚がそこだけ異様に硬くなっていた。おそらくダイヤモンドよりは硬いと思う。

「オリハルコンじゃなきゃ問題ない」

――ははっ。じゃあ確かに伝えたぞ、大地。あとは頑張ってくれ。

「了解」

 大地の冗談に軽く笑った鉄雄は、ブツッという音と共に念話を切った。おそらく気が緩んで気絶したのだろう。それだけの疲労を抱えながら大地たちに情報を提供してくれたのだ。大地の心は今までにないくらいに燃えていた。

「ノア、さっきの話は聞いていたな?」

 こくりと頷き、ノアは大地の問いに肯定の意を表す。

「まず雷華で動きを止めてくれ、俺がうなじの皮膚を剥ぎ取る」

「分かった。……咲き誇れ、雷の華」

「作戦会議は終わったか?

 だったらいかせてもらうぞ!!」

 それまで黙っていた怪物は、もう待てないとばかりに大地たちへと突撃してきた。しかしノアは慌てることもなく、静かに詠唱を続ける。

「彼の者の足を止める楔となれ、『雷華』!!」

「その技は効かないと先ほど分かっただろうが!! っ!?」

「さっきの雷華とは違う。それは相手の動きを制限することに特化した雷華。それを解くのには少なくとも2分はかかる」

「くそがぁぁぁぁあああああ!!」

「油断大敵だぜ、怪物。さっき嫌というほど分かったからな、これからは油断なんてしない。少なくとも俺は力に頼っている節があったからな。それを教えてくれたことには感謝しているよ」

 礼を告げ、右手に風を纏う大地。次第にそれは龍の頭の形へと形状を変える。思いっきり振りかぶると相手のうなじへと撃ち出した。

「風塵龍!!喰らい尽くせぇえええええ!!」

「っがぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 あまりの痛みに咆哮をあげる怪物。皮膚が剥がれ落ちるのと同時に大地はノアへと叫ぶ。

「ノア腹から思いっきり雷華を叩き込め!!」

「分かった!!」

 声をかけた大地は右手に風を纏い、思いっきり後ろに引いた。そしてノアは残りの神力の全てを使い、右手に雷を纏う。そして二人は同時に右手を敵へと叩きつけた。

「これで終わりだ!! 風塵…」

「雷華!!」

 先ほどの風塵雷華とは比べ物にならないほどの大きさの風が吹き荒れた。そして怪物の体はことごとく塵に変わっていく。

「ッガァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

「「うおぉおぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 相手の全身が塵になるまで攻撃を続ける二人。そして敵の体が崩壊すると同時に雷の華は咲き誇り、二人はいったん距離をとった。

 塵へと変わった怪物の中から一人の人と黄色の宝石が姿を現した。男が拾った時には光を放っていた宝石は光を失い、地面へと転がっている。

 それを拾い上げたノアは封印処理を施すと、ケースへとしまった。そして大地の方に向き直り、笑顔で告げた。

「まずは一つ目、だね」

「そうだな。

 あー疲れた。帰ろうぜ、ノア」

「うん」





まずは一つ目、人の欲望をかなえる宝石を手に入れたノアたち。

残る宝石は六個、はたして無事にこの依頼を終わらせられるのだろうか。

 


お久しぶりです。

だいぶ間があいてしまいました。申し訳ないです。


週一でいきたいのですが、これから自動車学校やらで忙しくなるので厳しくなるかもしれないです。


諦めず頑張ってみるので読者の皆様これからもよろしくお願いします。

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