第九話 「『暴食』、暴走」
2/22 編集しました
大地たちが姿を消し、一人残された『傲慢』のセブンズシードであるプライドはその小さな肩を揺らし、声もなく笑っていた。
「あれがあいつの言っていた、霧島大地か。
たしかになかなか面白い男だ。……他人のために全力を尽くす、か。
なんだか昔の自分を見ているようで嫌だな、むしろ思わせるのがお前の目的か、ゼウス」
「何じゃ、気付いておったのかの?」
声がしたかと思うと、プライドの睨みつける先の空間に亀裂が生じ、一人の老人が姿を現した。その老人、かつて大地の元にも現れた神であるゼウスは口元に苦笑いを浮かべ、昔のことを思い出すかのように遠くを見た。
「そうじゃな、確かにお前たちにも昔のように他人のために尽くす存在に戻ってほしいと思わなくもない。もともとはセブンズシードはそのために作ったんじゃからな」
ゼウスの言葉に反応したプライドがふざけるな、と言いたげな表情で怒りを露わにする。
「いくらなんでも人間は強欲すぎる。
あれもこれもとすべてを求め、自分の器に収まらないものすら手に入れようとする。
その結果が今の現実じゃないか。
他者を蹴落とし、助け合いの心を忘れ、金に執着し、醜く生きようとする。そんな人間を誰が助けたいと思うんだ!
だから俺はお前を手伝うといったんだ、人の心を変えるために」
「そうじゃったの。
他のセブンズシードたちには辛い思いはさせないと、そう決意してお前は先に世界へと降りていった」
「気づいていたのか!?」
「知っているに決まっているだろう。
色欲の能力の全力とはいえ生みの親であるわしに分からない訳がないだろう」
「そうか、じゃあ偽装工作は無駄だったってことか。
いや、わし以外は気づいておらんかったのでな。そのままにしておいたのじゃ。
そして今回お前の思惑を成功させるべく、セブンズシードを地上へと落とした」
そうか、とどこか寂しげな表情で納得するプライド。しかし、と頭を切り替え霧島大地に対する印象をゼウスへと伝えた。
「あいつは人間の中でも他人を思いやれる数少ない人間だと思う。
確かに世界単位でみれば他人を思いやれる人間はいると思うが、圧倒的に少ないだろう。結局人間は自分さえよければそれでいい生き物だからな」
「確かにの。
わしは彼を神にしようと考えておる」
そのゼウスの発言はプライドを驚かせるのに十分なものだった。
人間を神にする。
それはかつて行われ、失敗したことだった。神は全知全能、すべてを見守ってくれていると思われがちだがそうではない。たしかにすべてを見ることはできる。しかし管理しなければならない神々にとってはただ見ることしかできない。抑止力は世界が破壊から免れようとする反発力だ。それは世界に任せるしかない。しかしその抑止力を自分たちで作ろうとし、人間を神にした挙句に待っていた結末はひどいものだった。
五つの世界が滅び、十一個の世界が崩壊の危機に瀕した。それは神になった人間の欲深さが原因だった。それから人間は日に日に欲深くなっていく。そうして神をつくる計画は永久的に凍結されることになったのだ。
「それを、今さらなぜ!!」
驚きから回復したプライドが、前回の結果を知っているために本気で怒っている。
その様子を見たゼウスは穏やかな笑みを浮かべ、我が子を見守るかのような優しげな視線でプライドを見つめる。それを不可解に思ったプライドは少し落ち着いた様子でゼウスを問い詰める。
「何だその眼は?
そんなことよりも神を創る事には反対だ。前回それで一体いくつの世界が滅んだと思ってるんだ」
「そんなことは分かっておる。
しかしな、奴を見ていると思いだすのだよ。
他人の願いのために全力を尽くし、自分の苦労を厭わず、他人が傷つくことを極端なまでに嫌っていたお前にな。
それに、おまえは分かっているのだろう?あいつはお前と同じだと、あいつなら大丈夫なのではないか、とな。
だから行かせたのだろう?」
ゼウスの的を射た指摘に反論もできずにプライドは口を閉ざした。その様子を見たゼウスはまたな、というふうに手をあげ、元の亀裂へと戻っていった。
また一人になったプライドは先ほどのゼウスの言葉について思い返していた。やがて口に笑みを浮かべて、ゆっくりとだが歩き出し、彼は街の中へと消えていった。
*****
「こいつなんなんだよ!?」
意味の分からない攻撃方法をとる敵に対し、鉄雄は困惑し決定的な一撃を決められずにいた。敵はただ、口を開閉しているだけなのである。
(それなのにどうして何の前触れもなく空間が抉れるんだよ!!
遠隔系の能力者か、だとすれば偉く厄介な敵だな…)
「ちっ。ちょこまかとすばしっこい奴だな。
とっとと俺に食われろ!!」
「ふざけるなっての!!
食われろと言われて食われる奴がいるか!!」
意味不明の攻撃を仕掛けてくる敵に対して、決めかねている鉄雄は確かに防戦一方だったが、敵も敵で鉄雄の動きについていけず、攻撃を当てることができなかった。そのせいでイライラが募り、ただでさえ杜撰な狙いも余計にひどくなっていき当たる物も当たらないのである。
「はやく来いよ、大地。時間稼ぎはするが、俺ではこいつを倒すことはできん。
まあだが敵の弱点、能力の解析ぐらいはしておくか」
「………がぁぁ、くそがぁぁ。
っがあぁぁぁぁかぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」
「なっ、なんだ!?」
鉄雄が獣のモノとも思える咆哮を聞き、さっき敵がいた方向を向くとそれ(・・)はいた。人間の三倍はあろうその体躯、百獣の王を思わせる雄々しき毛並み。それを見た鉄雄は驚きで一瞬硬直してしまう。
「なっ」
それがいけなかったのだろう。
敵の突進を回避しきれず、壁まで吹き飛ばされた。ただの一撃それだけで鉄雄は戦闘不能になった。肋骨数本が折れ、内臓にまで被害を及ぼし、口から血を吐き、意識をなくさせた。
「ッガァァァァァァァァァァァァァ」
「鉄ちゃん!!」
完全に獣と化した敵と鉄雄の間に入り、彼をかばうように覆いかぶさる穂香。目じりには涙の粒が浮かんでいる。それでも怖い思いを押さえつけ、化け物と化した敵を睨みつける。それに反応するかのように敵は右手を振り上げた。覚悟を決めた穂香は目を閉じ、鉄雄をより一層強く抱きしめた。
「緋槍、『天雷』」
「…っ!?
ッガァァァァァァアアアアアア!!!」
「え?」
突如降り注いだ紫電が轟音と共に獣を貫いた。
「待たせたな、穂香」
「お待たせ」
「っもう!遅いよ、大地!ノア!!」
間に合ったことへの喜びから薄っすら笑みを浮かべ、右手に紫電を纏わせているノア。そして不敵な笑みを浮かべて、風を纏う大地がそこにはいた。
かくして役者はここに揃う。
開幕を告げる宴は今、始まった。
遅れてすいませんでしたm(_ _)m
冬休み中は残念なことにパソコンを使える環境になかったので更新がずいぶんと遅れました。
これからもとりあえず週一ぐらいのペースでやっていくんでよろしくお願いします。




