救いたくば:ベアトリス
とある建物の前に馬車は止まる。
そこは純白で豪奢であり、その建物に向かう人々の多くが白の装飾を身に纏っていた。
「ベアトリス様」
扉が開けられ手を差し伸べられる。
「父上にはなんて?」
話しかけられた相手は専属執事であるカイル。
見た目は、隙のない黒の燕尾服を着こなしており、銀髪、眼鏡の知的な美青年。姿勢が良く、一礼する姿だけで絵になるやつだ。
「聖女活動と」
「いつも通りだな」
思わず前世の砕けた口調が飛び出た。
「お嬢様!言葉遣いが……」
予想していた通り厳しく注意された。
私はその手を取りながら馬車から降りて手を軽く振る。
「ごめんあさせー。あんたの前くらい、いつも通りでいたいわ」
嘆息してから階段を登る。
カイルと会ったのは私がこの世界に来て数ヶ月した頃だった。
当時は戸惑いがまだ強く、今のようなお嬢様口調もままらなくて、結局は目も当てられない問題行動や、自身の名前すら忘れてしまったことを高熱等による記憶喪失と処理されて貴族教育を一からさせられていた。
それに対するストレスが半端なく、ヒロキを想って泣いたとしてもなにも解決しなかったため、誰も来ない裏庭で盗み出した小麦粉の袋相手にボクシングをしていた。
汗をかきまくり怒声を吐き捨てながらそうしていた私に、五歳年上のカイルが木陰から恐る恐る話しかけてきたのだ。
「お嬢様……いかがなさいました?」
当時は執事見習いだった彼は話しかけて良かったものか戦慄いていたものだ。
当時の私はキッと睨みつけたものの、彼に当たるのは筋違いだと理解していたため舌打ち混じりの嘆息をした。
「その"お嬢様"な、マジで腹立つわ。ちょっと、その手に持ってんのは水瓶?」
カイルは震えながら頷く。
「ありがとう。まあ、こっちに来なさいよ」
カイルはうやうやしく隣に座りに来て、水を注いだコップを渡してくれた。
「ガチサンキュー。ほんと疲れてんのよ私」
一杯飲んで、天を仰ぐ。
カイルは黙って私の顔を見ていた。
「記憶ないのはほんとでさ。私は私じゃないのに、それを強要されて、過去の私はいらないって言われて……腹立ってさ……ムカっ腹立って、誰かと喧嘩したいけどそんなんできるわけないだろ?ここは……」
段々、前世の口調に戻っていく。
「意味が分からんだろ。なんで私がそこまでせなあかんのか……」
腹が立つんだよ……と、つぶやいて俯いた。
ヒロキに会いたかった。
とてつもなく淋しい。
孤独な私を救ってくれた彼に会いたい。
黒い艶やかな髪をワシワシと手で乱す。
「ごめん。アンタからしたら意味わからんよな。私も、アンタのお嬢様になれるよう努力するから、今日のことは父親には黙っといてくれ」
コップをカイルに戻して私はそう言う。
すると、カイルはなぜか正座をして目を輝かせ、私に熱烈に言ってきた。
「お嬢様は何か、他の方たちと違いますね!」
眉根を寄せた。
「何が?」
馬鹿にされているのかと思ったが、そうではなく彼は純粋にそう思っているらしかった。
「私はいくつもの屋敷を巡ってきました。しかし、お嬢様のような方とはお会いしたことがありません!」
「そりゃあそうだろうさ」
と、私は一つ頷く。
ヤンキー令嬢が他にいてたまるものか。
「どうか!私を頼ってください!貴方様のお役に立ちたいのです!」
今より幼い彼はそう私に言ってきた。
私の何が彼に刺さったのか知らないが、とにかくこんな珍しい令嬢を気に入ってしまったらしく、それから私はカイルを専属執事として雇った。
ヒロキのことも前世のことも、全て話した上で彼は戸惑いは見せたものの受け入れた。
特にヒロキのことについて驚いていた。
こんな私が一途に思いを寄せる相手がいたことに驚いていたのだろう。
頻繁に「仕方ないですね」「諦めます」と、独りごついていたのを聞いていた。
何に諦めたのかは知らないが、秘密を明かしている唯一の人間でもあるカイルはとても頼りがいがあり、前世のノリで愚痴が言えるのでストレス発散に付き合ってくれることも多い。
また、父親への言い訳も毎度カイルが上手く作ってくれていて、彼のおかげでヒロキの情報集めが格段に楽になっていると言っても過言ではない。
そう、私自身そこまで評価する人間は珍しいな、と感慨深く思いながら階段を登っていく。
すれ違い人々みんな私を見れば、深々と頭を下げる者、蔑んだ者、嫉妬の眼差しを向ける者、色んな感情を私に向けながらも道を開ける。
ここは神殿だった。
ほぼほぼ毎日、私は神殿に足を運び、病気のもの怪我を負ったものを治療しに参っていた。
そのついでにヒロキについて少しでも知っていそうな人がいれば懐柔したり、親交を深めたりして情報を探っていた。
「ベアトリス様」
老人の神官がうやうやしく歩み寄ってくる。
「ごきげんよう。いかがなさいましたか?」
この老人の名前はなんだったろう、と内心首を傾げているとすかさずカイルが耳打ちしてくれた。
「ムエル様ですよ……」
ああそうだ、と内心手を打つ。
「実は、魔物討伐に向かっていた騎士の一人が平民を庇い重症を負っていまして……」
「なるほど。今すぐ向かいましょう」
笑みを浮かべて胸を撫で下ろしているムエルという神官のあとをついていく。
真っ白な天使の彫像が笑みを浮かべて見下ろしている。
色とりどりのステンドグラスが太陽に透けて、廊下を花びらの道のように飾る。
いくつかの扉を抜けて、挨拶をしてくる人に頭を下げ返しながら着いた先は怪我をしたものが休養したり、治療する場所。
ちゃんとした名称はないが、大体の人からは『ヒールシェルター』と呼ばれている場所だった。
シェルターにはベッドがカーテンで仕切られており、奥に行くほど重症者になっている。
「ああ……!聖女様!お久しぶりでございます」
怪我人たちが手を合わせてベアトリスに挨拶をする。
「ごきげんよう。神のご加護がありますように」
内心、頬がひきつってきて笑うのをやめたいが、そうはできないので我慢しつつ手を振った。
奥の扉を越えると、消毒の匂いがさらに増した。
一つのベッドの周りに幾人の大きな体格をした男たちが声を張り上げて囲っている。
「ジョン!しっかりしろ!」
「目を閉じちゃダメだ!」
こういう光景は珍しくないが、正直そこにいられたら邪魔だ。
看護師たちも大男たちの圧に怯えて手出しし辛そうで、口の中だけで舌打ちをする。
「失礼。お通し願います」
大男たちを何とか退かしながら患者の前に立つ。
「あっ?お前は誰だよ」
一人の男にガンを飛ばされた。
「私はベアトリス・ラ・ヴァルデンと申します。光魔法を扱えますので、この方の治療に参りました」
それで大多数の人たちが状況を察して耳打ちをし出した。
「……あれだ、宰相の娘の……」
「……ああ、荒くれ者の聖女か……」
実に光栄な言い草だ。と、イライラしながら重症者を見下ろした。
「騎士の名は?」
誰ともなく尋ねると、カイルが率先して答える。
「王宮付き騎士団、第一部隊のジョン・ネルソン様です。魔物の牙に太もも及び、二の腕を貫かれたようです」
手首に指を当て脈を測り、言われた傷跡を観察する。
魔物の牙には毒がある。
それに貫かれれば、全身が燃えるように痛みだし特に貫かれた場所が成長痛の十倍濃くしたような激痛に見舞われるという。
ジョンは冷や汗をかき目も虚げだ。
痛み止めで何とか耐えているようだが、それでもどうしようもない痛みが止めどなく傷跡から溢れ出しているのだろう。
「今から治療魔法をかけさせていただきます。それから十秒もすれば痛みは引いていくでしょう。しばしの辛抱です」
そう声をかけつつ、まず太ももに手を翳して魔法をかけた。
紫色から黒色に変色していた傷跡は、血道から光を発して目に見えて治っていく。
紫色の血は皮膚から浮き出て宙に浮く。それはまるで蜂蜜のようで、滑らかに輝いている。
蝋燭の日に照らされて紫は、数秒私の周りを回ったあと徐々に赤色に色が戻っていく。
「ヒール」
呟いた時、宙に浮いていた血溜まりは大人しくジョンの傷跡に戻っていく。
細胞が手を伸ばすように開いた傷跡に蓋をしていき、瞬く間に太ももは何もなかったかのように傷は完全に塞がった。
続いて二の腕もしていく。
宙に浮く変色した血は、魔物の毒によって汚染された血で、宙に浮くのはそれを取り除いて浄化しているからだ。
空気中の埃や菌がつかないよう、魔法が自動で保護して「ヒール」と呟くことで浄化が完了する。という仕組みらしい。
私は全然知らなかったが、聖女について記されている書にそうあった。
そして治療を終えるころには、ジョンは穏やかに寝息を立てていた。
「お疲れ様です」
カイルが消毒された冷たいタオルを渡してきた。
「ありがとう」
そのタオルを畳んで二の腕と太ももを拭くと、仕事は終わりだ。
そして、呆気に取られている大男である騎士団たちに振り向くと苛立ちを滲ませている笑みを向けた。
「さあ、少しお話をお聞かせください」
騎士たちは顔を見合わせたが、仲間を救ってくれたことで信頼はしたのかおとなしく首肯した。
続いて、部屋を移動して落ち着ける場所に行った。
三人の代表者が私の前に座り、カイルが注いだ紅茶が目の前に置かれていた。
「それで、どういう状況だっのですか?」
騎士たちは目を見合わせた後、そのうち一人がこたえる。
「とある村に魔物が出現したというので、そこに向かったのですが……魔物がどうも獰猛で……」
あっ。ダジャレだったらしい。
横二人が噴き出した。
何が面白いんだ?と思わず眉根を寄せて凄む。
「なにか?」
「いえ!なにも……すいません」
ふざけてしまったことに萎縮したようだったが、横二人はまだ笑っている。
男のノリという物なのだろうか?
ウザい。
「それで……ジョンが平民を庇ってああなりました」
カイルがメモをしている。
「そこにいた平民で、眼鏡をかけて黒髪で東の国にいそうな容姿をしたものは?もしくは、異世界転生者など」
三人は顔を見合わせる。
「いえ、いなかったと思います。外人がいたら流石に目につくと思うので……」
それはそうか、とため息をついて首を横に振った。
「確かにそうですね……ご協力いただきありがとうございました。お疲れでしょう。お気をつけてお帰りください。神のご加護がありますように」
流れ作業のようにそう言い放ってから立ち上がる。
騎士たちも立ち上がる。感謝の言葉を言おうとしたのだろう、敬礼した。しかし、そこで扉が勢いよく開いて一人の男が現れた。
その男は、荒々しく扉を蹴り開けるようにして入ってくる。
身の丈は二メートル近くありそうな巨躯。鋭い眼光に、首元や頬にはいくつもの古傷。身につけている甲冑は上質なものだが、手入れの行き届いた王宮騎士というよりは、修羅場をくぐり抜けてきた野武士のような苛烈な圧力を撒き散らしていた。
ただ見た目は、眩いばかりのプラチナブロンドの髪に、涼しげなアイスブルーの瞳を持つモデルのような美男子。
女子からはとてつもない人気を誇っていることでも知られている、それは王宮付き騎士団第一部隊隊長、レオナルド・ヴァルク。
中央の生ぬるい貴族ではなく、魔物と隣り合わせの殺伐とした辺境から実力一本で成り上がってきた、筋金入りの叩き上げだ。
「おい、どいつだ。ジョンの治療をした奴は」
低い声が室内に響く。部屋にいた三人の騎士たちが一瞬で緊張し、直立不動になった。
「ベアトリス様だ……! 聖女様がジョンを救ってくださったんだ!」
臣下の言葉に、レオナルドは鼻で笑うように息を吐き、ズカズカと私に向かって歩み寄ってきた。上から見下ろすその瞳には、隠そうともしない蔑みと不信感が満ちている。
「ハッ、貴族の温室で育ったお嬢様がか? 冗談だろ。どうせ怪しい薬でも使って、上っ面だけ治したように見せかけてんじゃねぇのか」
こいつ、私の名声を知らないのか?
額に青筋を見せるところだったが思い出す。
レオナルドは騎士の中でも特に剣道を極めているため、それ以外のことについては全く記憶がないのだ。特に、ゴシップや著名人の話題。そういう俗なものに一切興味を持っていないやつなのだ。
そう冷静に思考できるようになったことをヒロキに褒めてほしいな、とか思いつつレオナルドに向き合う。
「……何か問題でもございまして? レオナルド隊長」
私はニコリと極上の淑女の微笑みを貼り付けたまま、静かに一歩を踏み出した。
レオナルドは私のその笑顔を「ビビッて愛想笑いをしている」と勘違いしたのか、さらに調子に乗って顔を近づけてくる。
「大ありだね。俺の部下に万が一があったらどうすんだ、おままごと聖女様よ。貴族の道楽で騎士の命を弄んじゃねえ」
ギリリ、と歯軋りする。
拳を固く握って深く深呼吸をした。
「そんな覚えはありません。貴方のその目で私の行いを見たわけでもないのに勝手なこと言わないでいただきたいのですが?」
段々語尾も強くなる。
「はっ!貴族の令嬢が良く言うじゃねえか。我儘に育っても誰にもなにも言われなかったかも知れねえがな、俺には通じねえんだよ!」
レオナルドは見下し嘲笑し、私の額に指をつけつけてきた。
「ご令嬢が、俺に物申すなんて世間を知らねえんだな」
「このガキが」
そして、気づいた時にはカイルに出させた棍棒で思いっきりレオナルドの脇腹を殴り飛ばしていた。
怒りで記憶が飛んでいたらしく、棍棒に血がついていたが私がそうしたという覚えがなかった。
「あ!しまった!」
周りを見てさらに私は嘆息する。
止めようとしてくれたらしい三人の騎士も床に伏して悶絶していた。
カイルの方を振り向く。
カイルの顔は蒼白のまま笑顔が浮かんでいる。
そして、口端から血が滲み出ていた。
ストレス性の胃痛のせいだった……
「申し訳ありません……胃薬を飲まさせていただきます」
言いながら吐血して、カイルは胃薬を飲む。
私は「ごめんなさい」と謝りつつカイルを癒してから、伏している四人の騎士に振り返った。
まず、止めようとしてとばっちりを受けてしまったら三人の騎士に歩み寄り謝罪する。
「すいません。カッ!となると、いつもこうなるんですよ」
幸い打撲だけで済んだようだが、彼らは完全に私に怯えている。
「べっベアトリス様は……一体」
そんなことを言われる始末。
私はバケモノとでも言いたげだ。
失敬な!と反論したかったが、記憶がなくとも私がどうやって彼らを殴り飛ばしたかは理解できるので言葉は謹んだ。
続いて、屈辱そうに顔を歪めているレオナルドに歩み寄る。
「お前……ただの令嬢ではないな」
「ただの令嬢にそんな口聞く馬鹿になにか教えるとでも?」
棍棒を杖代わりにしゃがみ込み前髪をかき上げて、レオナルドにガンを飛ばす。
「一旦ケジメつけろや。女にする口の聞き方じゃねえよな、それ。改めろ」
しかし、レオナルドはプライドが邪魔してそうはできないらしく歯軋りして黙る。
「女に負かされたのが悔しくて、謝罪もできんのか?恥ずかしいやつやな。騎士道一回やり直せボケが」
もう一回、彼の顔を棍棒で殴り飛ばして立ち上がった。
そして、下がってくる前髪をかき上げ他三人に振り向き言う。
「お前らの兄貴ちょっと紳士的に教育しなおせ。こちとらわざわざお前らの部下治したんやからな」
戸惑いで返事すらしない男どもに、さらにイライラを募らせて怒鳴りつける。
「なあ!訊いとんじゃ!てめえらの耳は飾りか!」
「はっはい!」
と敬礼して三人はレオナルドを連れて部屋をあとにした。
そして、胃を抑えているカイルに振り向く。
「調査開始するぞ」
カイルは顔を蒼白にさせているが何とか笑みを保って頷いた。
「はい……ベアトリス様……」
ーーー
後日、また神殿に行きヒロキらしき人物がいないかどうか情報収集をしていると、看護師から騎士団長が庭で待っているという伝言を受け取った。
一応確認したところ、騎士団長とはレオナルドで間違いないらしい。
面倒だ。と口の中だけでつぶやきながら庭に向かった。
「あれでしたら、私がお相手いたしますが……」
カイルが申し出てきた。
私は首を横に振る。
ダメだ。私はどれだけ斬られても、殴られても治療できるがカイルはそうはいかない。
「大丈夫。私を信じなさい」
念のためカイルに棍棒の用意をさせつつそうこたえた。
カイルの胃痛はさらに酷くなったらしい。
庭に来ると、そこは想像していた庭ではなかった。
どうやら、病気などで身体がなまった者が戦闘の練習をする場所だったのだ。
そんなものを『庭』などと名称するな、と苛立ったもののちゃんとそこにレオナルドは立っていた。
人払いがされているらしく、レオナルドの部下である例の三人の騎士以外いなかった。
レオナルドは甲冑は身に着けておらず、比較的動きやすい服装だった。
「なにかご用ですか?」
腕を組んで尋ねると、レオナルドはあくまで涼しげな表情でこたえる。
「お前に決闘を申し込む」
内心では、ほう。と面白く思ったが、一応建前は言う。
「令嬢で聖女のわたくしにですか?」
「そんな文句通用せん」
一刀両断。
横目でカイルを一瞥してから、レオナルドにこたえる。
「生憎、私は剣を習ったことはありませんの」
「棍棒でいいさ」
「棍棒と剣ですか?」
「俺は拳だ」
「騎士なのに?」
「ただの令嬢に剣など向けられん」
イラっとした。
舐められのが一番癪に障るのだ。
「いいえ。どうぞ、剣をお使いください」
レオナルドのほうが眉根を寄せる。
「私は棍棒でいきますから。どうぞ本気で」
そして、私はカイルに手を差し出す。
カイルはため息を吐きつつ、もう一本の棍棒を取り出した。
それは、棍棒という名の『釘打ちバット』
当たれば剣なみの痛さを伴う私の愛用の武器だ。
レオナルドはその異様な武器に一瞬ひるんだようだが、あちらも舐められるのは癪なのか、立てかけられていた木剣を手に取る。
「スカートでいいのか?」
私はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
そして、身に着けていたスカートの真ん中を払って見せた。
すると、スカートの内部にあったリボンが解け、スカートは風に揺られてマントのように真ん中のみ裂けて、下着が見えると思われたが、しかし中からは黒いズボンが垣間見えた。
「失礼。私はただの令嬢ではないのでね」
見下すようにレオナルドを見て、棍棒を地面につかせた。
レオナルドは戸惑いの表情を隠せないようだが、それでも隙のない構えを取った。
ーーー
レオナルドの部下三人はカイルに心配げに歩み寄った。
「大丈夫なのですか?」
カイルは胃薬を飲み込むと、三人に微笑みかけた。
「ええ。お嬢様は私なんかよりずっと強いので」
三人は訝しみ二人の方を見た。
悠然と立っているベアトリスは異様な棍棒を肩に担ぐと、レオナルドが動くまで何もしない。
すると突然レオナルドが、剣先が伸びていると錯覚するほどの速さでベアトリスに向かった。
ベアトリスが危ない!と三人は目をふさぎたくなったその瞬間、木剣が折れる勢いでその攻撃ははじかれた。
「ケジメはつけたんかお前?」
レオナルドは何が起きたか分からない様子で、木剣の柄を呆然と見つめたあとベアトリスに振り向く。
「5秒以内に謝るなら一発で許す。謝らないなら、内臓の一つくらいとはおさらばするんだな」
アイスブルーの瞳は様々な感情で揺らめいた。
「1」
その瞳には何故か光が灯る。
「2」
そして顔には笑みが。
「3」
木剣も床に落とす。
「4」
なぜか膝をつきはじめた。
「ベアトリス……いや、ベアトリス様。どうか私を配下に加えてください!」
「5」
赤い瞳はその端正な顔を横からバットで殴り飛ばした。
レオナルドは転がり、ベアトリスの表情は冷徹だった。




