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62.行って来ます

今回は一の一人称視点での過去話になります。

 (はじめ)の記憶


 父さんが死んだ。


 目の前にある僕が這い出した小さな穴の中で、右腕と妹の『 』が父さんにプレゼントしたミサンガを残して押し潰されて死んでいる。


 コンクリートで出来ていたプラットフォームは、壁も天井もそして中に居た人間も何もかもが崩れて積み重なって小さな丘の様になり、その隙間からは人間の中から零れる真っ赤な血が滲み出て、小さな川が無数に流れていた。


 僕がこの丘に開いている小さな穴の中から這い出して、一体どれ位の時間が経過したのだろうか?


 気絶から目を覚まして最初に見た時の空は砂埃が舞って周囲を覆ていた。

 そんな視界不良の中であったが太陽の光は朧気に確認出来ていた、傾いては居たものの夕暮れには暫くかかるぐらいの位置だった筈だ。


 既に舞っていた筈の砂埃はその殆どが地面へと落ち着いて視界は開けている。

 僕が改めて視線を上げると、空は青く広がっていたその全体像を黄色や赤が織り交ざった姿へとその色を変え、更に大地の向こうから深い黒が広がり始めている。

 かなりの時間をここでへたり込んでいた事を認識すると、目から頬を沿うようにヒリヒリとした感覚が伝わって来る。

 いつの間にか僕は泣いていたらしい。


 痛みとも取れないこの感覚が、父さんが死んだと云う現実を突き付けているように感じた。


 思考が現実に引き寄せられてから、徐々に身体中から発せられていた信号が脳を刺激して活性を促してくる。

 脳が受け取った信号の中、最も強い信号が僕の思考を占領して来た。

 それは生き物が生きて行く上で必要な欲求に起因する感覚である食欲だった。


 食欲は飢餓感に変換されて僕の脳を支配する。

 そうして僕に飢えを満たせと行動を促す。


 僕の脳はそれに従う様に、僕の中にある食料に関しての記憶を漁っていく。

 プラットフォーム内での事が重点的にフラッシュバックされると、その記憶の中に今直ぐに手に出来る食料が有る事に気が付いた。


 そうして記憶につられる様に僕がポケットに手を入れるとクッキーの小袋が二つ入っていた。

 

 午前休憩に配給されたクッキーで一人一枚ずつ貰った物だ。

 一枚多いのは父さんが、帰ったら『 』と一緒に食べなさいと僕に持たせてくれたからだ。


 クッキーが手元にある事を認識すると、僕の腹はそれに反応する様に音を立てた。

 その音は僕の身体が疲れたり痛めたりしているせいか、普段の音よりも小さく唸るが酷く弱々しい。


 僕は腹の音に従う様にクッキーの袋を開けようとして気付いた。

 僕の口の中は今カラカラに乾いている。

 こんな状態でクッキーみたいな乾燥した物を口に含んだら咽て、せっかくの食べ物が台無しになってしまう。

 そう思った僕は自身の腹を待てと言い聞かせる様に擦って、クッキーの袋をポケットに仕舞い直した。

 それから周囲を見廻し僕は考えた。


 視界が晴れている今なら誰かが持っていた水筒等も見付けられるかもしれない。

 だけど間もなく夜になる。

 そうしたら砂埃の中よりも視界が悪くなって水も手に入れ難くなってしまう。

 だからその前に水を手に入れないといけない。


 そう考えた後に、僕はもう一度父さんの居る穴へ向き直った。

 涙が枯れている為か、胸から込み上げて来るものは在ってもそれが表に出る事はもう無かった。

 だけどもそれが、僕の中ではある種の巣立ちの様にも感じた。

 だからこそ穴の中に居る父さんに向けて、僕は枯れた喉から声を振り絞った。


「行って来ます」


 そうして僕は瓦礫の中を進み始めた。



 


 此処まで読んで頂きありがとうございます!


 なかなか人間一人を追い込むための描写って難しいですよねぇ?

 特に追い詰める手法よりも心理描写ってのが中々苦戦しますねぇ・・・楽しいですけど!


 当初の予定よりも過去編がもうちょっと長くなりそうですみません!


 という訳で次回も過去編になります!

 もし宜しければ次回もお付き合い下さい!


 では!


 ・・・次回は絵を描きたいのでGW以降になるかも知れません。

 

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