61.赤い絵の具
今回は一三の一人称視点での過去話になります。
一三の記憶
私達家族が住んでいた家が無くなってから、お母さんは私の手を引いて、変わりきった街の廃墟を隠れながら進んでいた。
私達の持ち物は背負っているリュックサックに入っている物で全部。
中身は包丁や缶切り、食器代わりに使う傷だらけの弁当箱、それから僅かに手に入れる事が出来た缶詰等の保存食に、地面から突き出ていた水道管から辛うじて飲料可能な水道水が出続けていたので、ペットボトルや水筒に入れたもの、そして数枚の無事な服が入っている。
持ち物はリュックも併せて全て道中で拾った物。
使える物、食べられる物を色々と拝借したけれど、食料等の生きる上でどうしても必要な消耗品は到底足りない。
だから私達はそれらが有りそうな場所を目的地として歩いていた。
街には多くの人が生活していた、しかし道中で私達は他の誰かに会う事は無かった。
行けども行けども周囲には瓦礫と廃墟が広がり、私達の息遣いや足音だけが、音の無い空間の中に溶けていく。
この静けさは、私の心に不安を植え付けた。
そして、不安は徐々に恐怖へと形を変え何処までも続く廃墟を進むにつれてゆっくりと、確実に大きくなる。
私達の進む先が、絵本で見た恐ろしいお化けの居る世界への入り口に思える程に。
お母さんに手を引かれて歩いていると、奇妙な臭いを私は感じた。
気になってしまった私は周囲に目をやると、道々で真っ赤な液体が放射状に広がり、まるで花が咲いている様に広がっていた。
どうやらお母さんは最初こそ、私の視界にそれらが触れない様にと自身の身体で視線を遮ったり、道中で私の目に触れない様にしていた様なのだった。
だけど私はソレの方を見てしまった。
私の脳はソレを正しく認識しようと、私の記憶からそれらしい物の情報をピックアップしていった。
やがて私の中で朧気な情報は確信へと変わり、その認識を確定する様に私が口を開け、声を発する為に息を吐く・・・しかし声は出なかった。
正確には出そうとした瞬間に、私の肩を優しくお母さんに抱きしめられたから。
吃驚した私は一瞬だけ動作から思考までストップした。
そんな私の耳にお母さんの微かに震える声が聞こえた。
「・・・きっと誰かが赤い絵の具を零しちゃったのよ」
っと、ぎこちない笑顔を私に向けてこう言った。
お母さんの言葉は私の思考を中断させた。
突拍子もないその内容に私の意識はそちらへと移った。
お母さんの言葉に、私の思考は『何故』っと、お母さんに問いかけようと振り返った。
私の視界に移ったお母さんの目は震えていた。
だけど、その震える瞳は私の姿をしっかりと捉えている。
私はその瞳の奥に、私の為に強くあろうとするお母さんの優しさの様な何かを感じた。
私の中では既にソレに対して思考する意思はなく、ただ私を抱きしめてくれている温もりと、お母さんの優しさを求める欲求が私の中を満たしていた。
そして、お母さんと私が一緒に歩き始めてから一日が過ぎようとしていた頃、目的地の配給施設に着いた。
ここは普段私達が食料の配給等を受け取る為に訪れる場所だった。
私達がここを目指していた理由は、もしかしたら生き残っている人が私達と同じ様に食料等を求めて集まっているかもしれないと云う考えからだった。
そして、例え誰にも会えなくても食料等が残されているかもしれないと考えて私達は歩いていた。
けれども現実は簡単にそれらの希望を崩す。
私達が到着した場所には配給施設だった残骸が潰れて鎮座している。
至る所に真っ赤な絵の具を零して。
此処まで読んで頂きありがとうございます!
いやぁ、何と言いますかぁ・・・本当に執筆が遅れてすみませんでした!
しかも相変らず短っ!!
こんな筆者の作品ですがこれからもお付き合い頂けると有難いです。
次回は一三の中に入って来たこの作品のTS要員の一視点での過去話になります!
良ければ見に来てください!
ではっ!!




