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58.一三の中の日本


 複数の足音が平原を踏み越えて行っていた。

 その足元は今の季節なら青々とした草原が広がっている頃だ。

 だが、現在の平原は多くの足跡で踏み荒らされ、土が草を覆う様に土色の大地が広がっていたのだった。

 

「これは・・・酷い・・」


 一三達一行の一人である騎士が眉間に皺を作り、ポツリと呟いた。

 

「・・・この辺りは一面の草原に一本だけ通った大きな交易道があったんです。ただの道ではありません、ここは私達の国と他国との交流の橋渡しを担っていた場所なのです」


 ベンジェフが一三にもわかるように騎士の呟きの意味を補足した、その表情に何処か哀愁を漂わせて。


「・・・ここは、この世界の異なる国同士が共に歩んできた絆が込められていたものなのですね・・・」


 一三もまた彼のそんな表情に答える様に呟いた。

 彼女の眼はこの光景に対しての哀しみと同時に、自分の持つ記憶への空虚ともいえる感情を湛えていた。

 

 一三は自身の故郷である筈の日本の思い出を持っていなかった。

 彼女が持つ両親と兄との最初の記憶は地下都市での生活。


 ≪インセクタス≫との戦いに敗北した人類は、地下鉄として利用されてきた施設から更に地下へと掘り進め、生き残った者達がそこで細々と生活をしていた。

 各国との繋がりも絶たれ、地上での生活圏はその(ことごと)くが失われていたからだ。

 生きる為、新たに組み上げられた人類の生活圏。

 大地を穿ち、手に入る資源を使って拡張しながら大きくなっていった地下都市国家。

 それが≪インセクタス≫によって敗北し、形を変えた≪日本≫の姿だった。


 そんな環境下で生物が生きていくには、必要な物は多く足りないものだらけだった。

 食料は人工栽培用の施設で、大豆等を筆頭に過食可能な野菜が育てられていたが増加する人口に対して完全に足りていたとは言えず、更に医薬品なども一部の物は原料の都合上、地下と言う閉鎖空間ではおいそれと生産する事が難しかった。

 発電は地熱や雨天時のみではあるが貯水槽に流れ込む水の流れを利用した水力発電等で賄っていたものの、それらの管理などに必要な電子機器と何よりもそれを構成する為のレアメタル等も不足する事が起きていた。

 

 そんな状況下でも生きる為に人類は資源を求めて行動を開始した。

 未だ居るかもしれない≪インセクタス≫の眼を掻い潜り地上へと探索と採取を行っていたのだった


 ≪インセクタス≫との戦いに敗北して数十年後、敗北前の逃走時に崩落させた地下鉄を上へと掘り進み地上への出入り口が造られた。

 彼等が行動に出たのは物資の不足もそうだが、残された時間が少ないということでもあったのだ。

 それは技術を継承できる者が年老いていく事に起因する。

 彼等が存命の内に必要な物資を回収し、出来得る限り後世の子供達に伝えるという意味合いも含まれていた。

 

 彼等の探索は成功した。

 何故なら地上の何処にも≪インセクタス≫どころか彼等が使っていた兵器も見当たらない、それどころか長期間地上は放置されたように植物が繁茂し、自然が大地の大半を呑み込んでいたのだった。

 だから、探索に向かった人間は怪我も無く、劣化等はしていたものの必要な物資又は素材などを手に入れる事が出来た。


 それ故に彼等は油断をしていたのだった。


 目に見えるものが全てではない。

 空の上、星に紛れた衛星の眼が人類の存在を捕捉したのだった。


 資材を大量に搬入するため、拡張してしまった(・・・・)出入り口。

 空の眼は、静かに彼等を見詰めていた。


 本日もここまで読んで頂きありがとうございます!


 安定しない投稿の上に短めの内容ですいません!

 

 今回は一三が住んでいた日本の姿を描いてみました。

 次回も引き続き過去話になりますので、苦手な方はすみません!


 それから忘れてはいけないのですが、暫くリアルが慌ただしくなりますので投稿が一週間毎になるかも知れません。

 それでも宜しければ、これからも書き続けますので何卒宜しくお願い致します。


 では!

 

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