53.斬獲と狙撃
―ラーゼント王国西門・城壁―
「次の矢持って来いっ!?」
「いま届けますっ!」
ラーゼント王国西門の城壁上部の歩廊にて、次々と補充の矢が運ばれてきていた。
相手の数が数なので、矢は何本あっても困らないのだが、それでも資源は有限である様に、彼等の使用する矢も有限なのであった。
「残りの矢はどのくらいだ?」
司令官の老騎士が矢を補充に来ていた兵士に尋ねた。
「はっ!!残存する矢の本数は約9000本になりますっ!」
「ふむ、既に準備していた分の半数を消費してしまったか・・・」
≪魔獣≫との開戦から30分が経とうとしていた。
地平線から延びる軍勢は≪魔獣≫と≪魔人≫で速度が違うせいで、前後で間隔は開いているものの未だ≪魔獣≫ですら屠りきってはいなかったのである。
「我々が未だに順繰りに屠れているのも、≪魔獣≫間でも個体によって速度に差異が有るおかげだな・・・副司令!弓兵部隊の矢の使用頻度を減らせっ!ここからは特殊弓兵と歩兵部隊で持たせるっ!」
「了解しましたっ!」
司令官は矢の残存数を確認すると、僅かばかり思考した後に副指令へと指示を飛ばした。
敵の後方では未だに≪魔人≫が存在しており、それを残した状態で弓兵による遠距離攻撃手段を失う訳にはいかなかったからだ。
対して特殊弓兵が使用するクロスボウのボルトは未だ四分の一も使用しきっていなかった。
≪魔獣≫の侵攻具合も同族の死体等で足場が限定される事で一遍に突撃される事も少なくなっていた。
それらの考えを根拠として、司令官は消費の多い矢の使用を控えさせ、今だ残存保有量の多く有るボルトを使用する特殊弓兵と歩兵部隊による白兵戦を組み合わせた防御陣を展開する判断を下したのだった。
副司令官である老兵士もその事を察したのか直ぐ様了解し、担当する兵士達と騎士達に指令を伝えた。
―ラーゼント王国西門・城下―
「・・・という訳だ。待機ばっかりで身体が鈍っちまう所だったな」
「はっはっはっ!違いありませんな」
白兵戦用の槍やハルバードにロングソード等各々取り扱いやすい武装を手に軽口を叩くのは、歩兵部隊として残っていた老兵や老騎士達であった。
但し、彼等は老体と云っても鍛え抜かれた肉体は現役の騎士や兵士と比べても遜色なく、少年の様にギラついた双眸からは長年掛けて研ぎ澄まされた殺気が溢れていた。
そんな彼等に対して特殊弓兵の者達も彼等の軽口に便乗する様に彼等に話し掛けた
「では、我々は歩兵部隊の皆様が取り溢した分を頂くとしましょうか」
これに対して歩兵部隊の隊長らしき人物は笑いながら答えた。
「ほぉ、それは有り難い。なれば我々歩兵は後ろを顧みる事無く思いっきり暴れらるなっ!!」
彼の言葉に歩兵部隊の全員が笑いながら肯定した。
そして、特殊弓兵の隊長へしっかりと目を合わせ言葉を向けた。
「我らが最期の華舞台、とくと飾ってみせましょう」
「ならば歴史に残る活躍を、世界に残して逝きましょう」
特殊弓兵の隊長もその言葉に答える様に返した。
彼等はお互いに笑い合った。
ここに集まった者は皆、同じ考えであったと再確認出来たからだ。
そして彼等の笑い声の中、一際大きな声が飛び込んで来た。
「来たぞっ!!」
ただ一言だ。
その一言が聴こえて来た途端、彼等の殺気が一瞬で膨れ上がり大気が鳴動するような錯覚を辺りに撒き散らした。
彼等は先程まで頬を緩める様に笑っていたが、今では頬を引き上げてまるで引き裂けんばかりの笑顔をした。
「あぁ!来たぞっ!!」
彼等はバリケードも馬房柵も越えて≪魔獣≫の進路に立ちふさがった。
「こいつらは・・・」
彼等は武器を振りかぶり声を荒げて絶叫した。
「俺達の獲物だっ!!」
歩兵部隊は前進し、≪魔獣≫共を次々に屍へと変えていく。
己が屍にならぬかぎり、ただひたすらに、嬉々として≪魔獣≫を屠って逝くのだった。
そして彼等が屍に成るには今しがた時が掛かる。
何故ならば、彼等の後方から彼等の動きの外の敵を、静かにそして確実に射抜いていく射手達がそこに居るのだから。
「逃しはせんぞ≪魔獣≫風勢がっ!!」
彼等の戦いは更に激化する。
その時が来るまで。
今回もここまで読んで頂きありがとうございました!
という訳で今回も古参の兵士と騎士の話でした。
渋いおじ様orおじい様というのはなかなかに難しく、結果的に子供の頃の童心を忘れない殺意マシマシな方々になってしまいました!(●´ω`●)ゞエヘヘ
何か気になる点、ここが分かり難い等ございましたtwitter、若しくは感想でも構いませんのでお知らせ頂けると嬉しいです。
次回も戦場でお会いしましょう!
ではっ!




