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52.ラーゼント王国西門戦・開戦


 ラーゼント王国西門の城壁上部に設けられた歩廊で二人の老体が≪魔獣≫と≪魔人≫の侵攻具合を確認していた。

 彼等は二言三言と言葉を交わすと、お互い納得したように頷き王国の内側へ振り返った。

 そして、片方の老兵士が声を張り上げた。


「全員!傾聴(けいちょう)!!」


 よく通る声で城壁全体に彼の声が響き渡った。

 彼の声を聴いた全兵士と全騎士が作業の手を止めて、彼ともう一人の老騎士の方に顔を向けた。 

 老兵士と老騎士はこの西門での戦闘の副指揮官と指揮官として任命された人物達であった。

 全員が注目したのを確認して、老騎士の方が一歩前に踏み出し先の副指揮官にも劣らない声量で声を上げた。


「ここにいる全ての兵士、騎士諸君!・・よくぞ志願してくれた!」


 彼は嬉しそうに、心底嬉しそうな声で話し出した。


「皆も知っての通り今回の作戦は我らが王国を防衛する防衛戦では無い!我らが成すべき事は唯一つ!全力で≪魔獣≫共と≪魔人≫共を駆逐するのが目的だ!」


 その言葉を聴いていた者達にも笑みが零れた。 

 酷く獰猛な笑みが。


「狩場は我らが王国内!ここに奴らを招き入れ、徹底的に倒しつくす!今より一刻後、西門戦を開戦する!その後奴らの頭に血が上った頃に西門を開門する!ありとあらゆる手段を使ってこれを一掃する!」


 言い終わると静かに老騎士が息を吸い込みその場に居る全員に告げた。


「全員奮起せよっ!!」


 その声の後に彼が全員に向けて敬礼を行った。

 全員がそれに応える様に即座に指揮官に敬礼しそれぞれがただ一言声を上げた。


「「「「「「了解っ!!」」」」」」


 その光景を確認した指揮官は誇らしげに頷くと門の外へと振り返った。

 それと同時に全兵士、全騎士が作業を終わらせて所定の位置へと戻っていった。


 そして、ラーゼント王国に残った彼等は開戦の狼煙を上げたのだ。


 ≪魔獣≫と≪魔人≫の大元である≪瘴気≫が存在する場所、バクランズ連邦国へと向かったベンジェフ達に知らせる様に、そして自分達の遥か後方であるオールデン領へ避難したラーゼント王国全国民と、今なお息を潜めてその時(・・・)を待ちわびている彼等に届くように。

 彼等の生き様と死に様が響き渡るように。


 “生き残り達”の最後の大舞台が開幕したのだ。



―狼煙から二十分後―



「弓ーっ、構えぃっ!」

 

 城壁の歩廊で待機していた弓兵部隊総勢百二十名が号令と共に城壁外へと構える。

 彼等の構えのその先には≪魔獣≫が速度を上げて迫って来ていた。

 跳ね橋は下げて相手を直線上に誘導するから≪魔獣≫の動きは一方向。

 横風はなし、傾斜はこちらが上、視界は良好、的は選り取り見取り。

 引き絞った弓は≪魔獣≫の動きを捉える、跳ね橋前で仕留めるように≪魔獣≫を引き付け・・・


「放てぇーぃっ!!」


 号令と同時に百二十本の矢が一糸乱れぬタイミングで、各々が狙った≪魔獣≫へ向けて飛来する。

 矢の全ては≪魔獣≫を射抜き半数以上は完璧に仕留めていた。

 残りの半数も生きては居る者の射抜かれた所為でその動きは制限された。

 そして、仕留められた物も仕留められなかった物も後続の≪魔獣≫共の進路を妨害する事になってしまい、すぐ後ろの個体は足踏みをせざるを得ない、そしてその更に後ろからは同族が全力で追従しているので、彼等は前方の死屍累々の同族と後方の猪突猛進してくる同族の板挟みに遭い、その多くが圧死無いし骨折等の負傷を受ける事となった。


 そして、その隙に弓兵は第二射、第三射と次々に放てって行き、着々と≪魔獣≫の数を減らしていく。

 しかし、それでも尚≪魔獣≫の侵攻は途切れる事無く続いていき、やがて屍の山を越えてくる個体が出始めていた。

 そして、歩廊からの矢の雨を潜り抜け数体の≪魔獣≫が門を通過した。


 が。


「特殊弓兵、放てぇーいぃ!!」


 その号令と同時に西門直線上に造られた簡易バリケードと馬房柵の向こうから何かが水平に風を切って飛翔して来た。

 先程の弓兵の放った矢とは違いその長さは短く、太く、そして高速で射出されたソレは≪魔獣≫と頭部を穿ちながら深々と刺さった。

 その直撃の後、堰を切った様に残りの≪魔獣≫に向けて同様の物が雨あられと打ち込まれて行き、西門を超えて来た≪魔獣≫を一掃した。


 ≪魔獣≫を仕留めたこの特殊な矢はボルトと呼ばれる物で、通常の弓で使用される物ではなくクロスボウと呼ばれる、石弓を小型化した特殊弓で打ち出すのだ。

 その威力は一射一射が通常の弓矢の威力を上回る程である。

 しかし、難点としてボルトのセットに時間が掛かる為、多くの敵に一斉に攻め込まれれば一溜りも無いという点だろう。

 故に、西門の跳ね橋を利用し≪魔獣≫にわざと動線を与えて指向性を持たせ、更に絶対数を減らすために弓兵が歩廊から可能な限り射抜いていき、それを超えてくる≪魔獣≫をクロスボウの餌食にすると言う戦法である。

 


 数は劣勢、されど戦況は優勢。


 火蓋は切って落とされたばかりなのだった。 

 


 今回もここまで読んで頂きありがとうございます!


 ここで少し補足です。

 クロスボウを特殊弓としてますが、これは通常の弓との区別をつける為に勝手に名付けた物で実際はそんな呼ばれ方では無い為、その辺りのご理解をどうか宜しくお願いします。

 ※特殊弓兵も同じくです。


 次回も西門戦の続きになる予定ですので、宜しくお願いします。

 ではっ!

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