51.狼煙
お今晩は。
今回はベンジェフと一三の道中のお話になります。
「・・・ベンジェフ騎士団長、あれを」
とある山岳地、武装して防寒着を着込んだ百人足らずの人間達が断崖絶壁の中腹に存在する、僅かばかりの幅しかない険しい道を静かに移動していた。
彼等はその道中、彼等が移動している山岳地よりも下方の山々の中を、人型の≪魔獣≫がラーゼント王国へ向けて移動しているのを携行型の小型望遠鏡で確認した。
「・・・成程な、あれがカーバイエットでの戦闘で突如側面から現れた≪魔人≫か」
ベンジェフ達は四足の≪魔獣≫と人型の≪魔獣≫を指揮系統で混同しない様に、人型の方に≪魔人≫と言う呼称を付けたのだった。
そして、ベンジェフは≪魔人≫を観察して気になった点を挙げて行った。
「見ろ、≪魔人≫共は抜き身の武器を持って移動している。移動時に周囲に在る石にぶつけてもお構いなしだ。付着している血もそのままだな、進路をふさいでいる植物を除去するために振るっている武器も、細剣だろうと関係なく振り回している。斧等の適切な装備を持っている個体も刃を立てていないから実質金属を叩き付けてへし折って進んでいるな」
ベンジェフは彼等との戦いに備え、ここから確認できる情報から少しでも彼等の戦い方を理解しようとしていた。
「なかには、折れた武器をそのまま使用している個体もいるな。・・・ふむ、折れた武器を使用しているにも関わらずしっかりと当てているな。≪魔人≫はしっかり相手と自分の距離、そして獲物の長さをしっかり認識できているのだな。それに気になるのは弓兵の存在だな。あのような道具の使い方にも関わらず使いこなす事は可能なのか?」
移動しては足場の良い所で停止して≪魔人≫の動きを確認しながら、ベンジェフが推察していると横から声が入る。
「恐らくですけど運用はまともに出来てない様ですよ」
その声をベンジェフが見ると一三が裸眼で≪魔人≫のいる方を見ていた。
人の形に戻ってからというもの、彼女は徐々に人間らしい反応や受け答えをするようになって、自分の意見をちゃんと言える様にまでなっていた。
彼女は自分がその考えに至った情報をベンジェフに説明した。
「背負っている矢筒の矢ですが、あっても二~三本しか残ってません。殆どが空の矢筒を背負って弓を手に持っているだけです」
ベンジェフは≪魔人≫に関して喋っている一三を見て驚きながら問いかけた。
「・・・視えているのですか?ヒトミ様・・・?」
「え・・・あぁ、そうですね、視えています。なんだかどんどん人間離れしていって本当に人間じゃなくなってしまったんだな・・・って改めて自覚させられますね」
ベンジェフは自身の不用意な発言にしまったと思い、謝ろうと頭を下げようとして一三にそっと頭に手を添えられて制止された。
「・・・謝らないで下さい。人間で無くなっているのを自覚するのは悲しいですけど、それで誰かの役に立ってるなら私は嬉しいんです」
そう言われてベンジェフは立つ瀬がなく、顔を上げざるを得なかった。
顔を上げた彼は一三の顔を間近で見てしまった。
彼女のは顔は自身の思いが嘘偽りでも無い様に、本当に嬉しそうだであった。
そして自身の言葉に気恥ずかしさを感じたのか、顔を少し赤らめている様にベンジェフには見えた。
・・・余談ではあるが、ここは雪こそ降ってはいないが、防寒着が必要な程度には低い気温である。
そしていくら人間離れした能力を獲得しているとはいえ、人体は寒さをしのぐため体内から発熱する際に多くが赤面してしまうというメカニズムはしっかり残っているのだ。
つまりはそういう事である。
そして、自分の妹や戦える鋼の様な精神の持ち主の女性ぐらいしか免疫の無かったベンジェフは、顔を赤らめた優しい女性という完全なる未知との遭遇ともいえる衝撃を精神にダイレクトアタックされていたのである。
空気を切り替える様に一三はコホンっと咳を一つして、≪魔人≫についての考えを発言した。
「恐らくですが、≪瘴気≫は接触した生物の筋力そのものの強化は出来ても、思考力等の複雑且後天的な獲得物は補強できないのではないでしょうか?恐らくアレは≪瘴気≫もしくは≪魔人≫が武器の使い方を見て、それを真似しているだけだと思います」
その言葉にベンジェフは顔を王国の方向へと視線を移して呟いた。
「・・・成程、確かにその通りかもしれませんね、でしたら今王国の守備に回っている者達の生存率は大分高くなりますよ」
「どうしてですか?」
一三は素直に疑問に思ったので、ベンジェフに問いかけた。
それに対してベンジェフは胸を張って答えた。
「あそこに居る多くの者が、老兵と区分されるお歴々です。そして、今日まで現役で戦い続けた方々で、彼等の様な存在は勝利する事こそ生き残る事に直結するとして、勝利する事に知恵を絞ってきた方々になりますね。・・・私達が一番敵に回したくない一種の化け物の集団があそこに居るのですよ」
そう言ってベンジェフは目的地の方角へ振り返り、歩き始めた。
一三もそれに倣ってベンジェフの後ろをついて行く。
彼等が歩み始めたと同時に王国の方角から狼煙が上がった。
ラーゼント王国西門戦
開戦である。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます!
いよいよ開戦です!
次回は西門戦になりますので戦闘?描写有りありですので頑張って書き上げます!
(尚、上手くいくかは源五郎の文章力次第)
次回もお楽しみに!
では!




