42.騎士と聖女
皆様お今晩は。
今回はベンジェフ視点での進行になります。
ではごゆるりとお楽しみください。
「く゛っ、か゛っ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
さっき俺が殴り飛ばした女がけたたましく悲鳴を上げている。
正直五月蠅い。
なぜこの女が悲鳴を上げて俯いているのかと言うと、どうやら俺の妹のマリーが左足を完全に潰したからの様だ。
なぜそうなったかは正直どうでもいい、ただ聖女様付きの女官であるマリーが何故ここに居るのだろうか?
「マリー、召喚の儀式の間で何をしている?」
「え?・・・あ、兄さん!」
「お前は聖女様付きの女官だろう?・・・何故こんな所にいる?」
一瞬だけ自分の中に渦巻いてしまった負の感情の所為で声が低くなってしまった。
マリー以外の皆が顔を強張らせた。
・・・いかんな。
感情をしっかり制御しなければ。
マリーの方は俺の疑問に合点がいったのか、不意に笑顔を見せながら俺に答えた。
「・・・!そうっ!それっ!兄さん良いニュースよっ!ヒトっ・・聖女様がお目覚めになられたのよっ!!」
「・・・は?」
マリーの口から出た話の内容に思考が追いつかなかった。
何?
聖女様がお目覚めに・・・?
数舜程自身の頭が明滅したような不可思議な感覚に陥った。
あれから・・・?
聖女様が・・・?
お目覚めに・・・!
「聖女様はっ!?・・・今どちらにいらっしゃるのだ?」
急いた気持ちが俺の第一声を大きくさせた。
その事に気付いて、慌てて落ち着かせるように言葉を切ってから改めてマリーに尋ねた。
「・・・兄さん。驚かないでね?」
「・・・驚く?」
マリーは俺にそう言った。
どういう事だ・・・?
驚くとは一体何の事だ?
「ベンジェフ“元”騎士団長殿、聖女様はこちらに居られます。」
マリーとは真逆方向である俺の後ろからエノール女官長が声を掛けて来た。
後ろ?
私は聖女様の御姿を確認しようと振り返った、するとエノール女官長とバイセ夫人が先程迄けたたましかった女の近くに立ち、そしてその女の近くで一人の女性がその怪我を見る様に、膝を屈めていた。
その女性の背中には虫の様な翅が生えていた。
・・・この方が?
聖女様・・・なのか?
その女性・・・否、聖女様はそっと目の前の足が潰れた女の傷口へ手を翳した。
すると聖女様の翅がが薄っすらと光り始め、それに呼応するように小さな光の粒が出現して聖女様の周囲で瞬き始めた。
俺はふっと今の光景とオールデンでの出来事に似通ったものを感じて不意に一歩踏み出そうとした。
だが、俺はその一歩を踏み出さなかった。
何故なら聖女様が纏う雰囲気に先の浄化とは全く異なるものを感じたからだ。
言葉で表すなら、オールデンでは聖女様の意思が希薄だった為なのか、身体から放出されていた光の奔流に聖女様自身も飲み込まれていく様に感じたが、今はまるで光が聖女様の意のままにその流れを変えて動いている様に見える。
光の流れがあの女の身体を包み込む。
すると先程俺に殴り飛ばされて受けた傷も、マリーに潰されてグチャグチャになたった左足も、何もかもがまるで最初から何も起こっていなかった様に完治していた。
おれはこの奇跡を知っている。
だがマリーの顔面の傷を癒した時のそれとは格段に強力に感じた。
奇跡を体験したあの女は、先程迄上げていた悲鳴も、恐らく痛みすらも忘れて自身の身体を驚愕しながら確認していた。
聖女様は傷の治癒を確認し、何か納得した様に頷いてゆっくりと立ち上がった。
そして俺の方にその顔を向けた。
聖女様の顔見た俺は、胸の奥、心の臓腑に暖かさと共に懐かしさに似たものを感じた。
それは鼓動を通じて俺の身体を緩やかに巡っていった。
気付くと俺にも聖女様が放っていた光が包み込むように俺の身体を徐々に飲み込んでいった。
そこで俺は理解した。
表面の傷は無くとも、あの地下牢の悪環境にいた事で自身の身体はゆっくりと傷つけられていたという事を。
身体の隅々まで温かさが巡った頃、光は徐々に消えていった。
若干の名残惜しさを感じたものの、何時までもこの暖かさに浸っている訳にはいかないと気持ちを切り替え、俺は聖女様に跪こうとした時、聖女様は仰った。
「ありがとうございます。・・・ベンジェフ騎士団長様」
・・・虚を衝かれるとはこう言う事なのだろうか。
聖女様は俺に・・・俺なんかの為に笑顔を向けてそんなお言葉を下さった。
・・・俺は貴方をちゃんと護れた事等無かったと思っていたのだが・・・感謝される事等無いと思っていたのに。
「勿体ない・・・お言葉です・・・!」
言葉が自分の口を衝いて出る頃には、俺は歳柄もなく涙を流していた。
あぁ・・・、情けないなぁ・・・。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます。
生えた・・・ミリスの足が生えたよっ!(だからどうした)
いやぁ、ベンジェフさんは今まで頑張ってきました。
私が執筆していない所で(おい!)。
それが今!報われようとしています!
次回!果して源五郎は感動シーンを彩る事は出来るのだろうか!?
(無理だな。あとそんな予定無いし)
次回をお楽しみに!!
ではっ!!




