34.一三の向かう先
お今晩は。
今回は他人称視点(三人称視点)で進行します。
聖女である一三が目を覚まし、自身の身体を覆っていた殻を破ってから半時程。
一三の身体は召喚時の姿や人間の姿とも違った様相をしていた。
顔や身体の正面等はこの世界の人間の姿をしていた。
だがその背中からは昆虫を想わせる翅が、人の背中に融合している様に生えていた。
現在ここにはエノール女官長をはじめ、マリー達聖女付きの女官達も集合した。
一三が目を覚ましてその直後に発生した身体の変化を直接見ていない者達は、先程身体から剥げたと思われる殻を見せられたものの、自身の常識とはかけ離れた特異な情報に脳がフリーズしたのだ。
そのフリーズからいち早く脱出したマリーは、突如変わった一三に戸惑いながらも疑問に思った事を質問をするのだった。
「あ・・・あのぉ、お、お聞きしたいのですが、聖女様・・・で・・・いらっしゃいますか・・・?」
普段の快活さはどこへ行ったのか、まるで借りて来た猫のように恐るおそると言った具合のマリーに対して、聖女改め一三は苦笑しながら答えた。
「そう・・・ですね。聖女・・・という自覚は無いんです。あ、あと、私の名前・・・一三って、言います・・・マリーさん」
一三がマリーの名を呼んだあと、はにかみながら顔を赤らめていた。
この時、一三とマリーを除いたその場にいた全員の考えが一致した。
・・・しゃべった・・・!?
と、・・・否、一名は違っていた。
そもそも一三の方を見ていない。
彼女の名はエルナ、薬師としてその素材を吟味するかのように彼女が見ているのは一三の抜け殻の方のみである。
凄く失礼である。
驚愕の後の沈黙、皆が呆気にとられている中で、マリーは驚きながらも続けて一三に尋ねた。
「せいっ、ヒトミ様っ!・・・私の名前・・・憶えて・・・いらっしゃるんですか?」
「・・・はい。私にこの世界の文字を・・・一生懸命に教えてくれた・・・、笑顔の明るい・・・、とっても素敵な方・・・です」
マリーは不安を感じていのだ。
聖女である一三の姿が別人の様に変化し、それと同時に記憶も変化したのではないか・・・と。
しかし、一三はマリーの名前と、一緒に勉強をした事を憶えてくれていた。
その事を知ったマリーも顔を赤くして、興奮やら歓喜やらそれらの感情がごちゃ混ぜになった顔になった。
対して一三も、久しく他者との会話と云うものをしてこなかった。
故に何を話すべきなのか等、考えが纏まらずに自身の正直な言葉が出てしまったのである。
その結果マリーの問い掛けを答えた後、彼女は恥ずかしくなり顔を赤くして下を向いている状態なのである。
そんなお見合いの様な空気の中、そんなもの眼中にないと言わんばかりに、鼻息荒く興奮した状態で顔を上気させ目を爛々と輝かせて空気を読まずに一三へ質問する者がいた。
「ヒトミ様っ!こ、この抜け殻っ!!頂いても宜しいでしょうかっ!?」
エルナが興奮を抑え切れない様子で一三に訊いて来た。
あまりの熱気に一三は一歩引いてしまったが、何とか持ち直した彼女はエルナに答える。
「はい・・・、どうぞ。差し上げます・・・エルナさん」
しどろもどろで一三は肯定を示した。
直後にエルナは「ッシャァッ!」とガッツポーズを取り、頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございますっ!ヒトミ様っ!!」
彼女の奇行(?)に、正気に戻った面々は直ぐ様、顔を赤くして呆けているマリーと暴走しているエルナを無理やり跪かせ、自身達も一緒に一三へ跪いた。
そうして彼女らを代表して、エノール女官長が口を開けた。
「ヒトミ様、起きて間も無い内に我々女官が騒々しくしてしまい申し訳ありません」
凛とした声でエノール女官長が謝罪をした。
急に眼の前で謝罪された事で一三は驚いたものの、マリーと初対面の頃に似たような展開出会った事を思い出した。
吹き出しそうになるのを堪えて、一三は答えた。
「・・・大丈夫です。えっと・・・、謝罪を・・・受け入れます。ですから・・・顔を上げてください」
一三が人として過ごしていたころに使い慣れていない言葉遣いに、途切れ途切れになってはいたものの、しっかりと謝罪に対して答える事が出来た。
その言葉に安堵するようにエノール女官長は微かに息を吐き、頭を上げたのだった。
「ありがとうございます、ヒトミ様。さぁ、皆も顔上げなさい」
そう言われ、マリー達も頭を上げた。
それを確認したエノール女官長は一三に対して言葉を続けた。
「遅れて申し訳ありませんが、おはようございます。一三様。お眠りになる前よりもお元気になった様でこのエノール、安心しました」
この言葉に一三は目を細めてうれしそうに、そしてその後申し訳なさそうな顔で答えた。
「・・・おはようございます。・・・皆さん。・・・それと・・・ご心配を・・・お掛けして、ごめんなさい」
「ヒトミ様・・・。どうか私共の事はお気になさらないで下さい」
一三は自身の心からの謝罪を述べた。
その事がしっかりとエノール女官長にも伝わった様で、苦笑いでその謝罪に対して答えた。
エノール女官長の言葉に偽りがない事を感じた一三は少しだけ驚きながらも、包み込むような優しさを感じる声に記憶の中にしかない母の面影を感じた。
一三はそんなエノール女官長が纏っている空気に名残惜しさを感じながらも、それを振り払う様に改めて背筋を伸ばし女官長に話し掛けた。
「・・・エノール女官長、・・・私は・・・行かないといけない・・・所があります」
一三の言葉にその場にいる全員が何か覚悟の様なモノを感じた、と同時に改めて姿勢を正した。
エノール女官長がただならぬ雰囲気を纏った一三に尋ねる。
「その場所とはどこでしょうか?」
一三は一呼吸置いてから、しっかりとエノール女官長を見据えて答えた。
「・・・私の・・・家族が遺した物が・・・ある場所、・・・私が・・・召喚された・・・場所です・・・!」
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
・・・え?
今回は一三ちゃん以外がメインの筈では?ですって?
・・・ん~?何の事かなぁ?
ドスっ!!(鳩尾を殴られる音)
ん゛っっ!!
ドサっ!(倒れる音)
ズズっ・・・ズズーぅ(引きずられていく音)
・・・では!




