30.獣ニシテ獣ニアラズ
むぉぉぉぉ、予定通りにいかないをぉぉぉ。
はい。
今回は他人称視点(三人称視点)とバークライド視点、ミリス視点の順で変わっていきます。
視点がコロコロ変わって申し訳ございません。
「・・・ぼちぼち、見えてくるぞ」
カーバイエット盆地の湿地帯を挟むように存在する険しい山々、その一角にて第一防衛線の斥候部隊が敵である≪魔獣≫共の接近を警戒していた。
≪魔獣≫共の接近を確認した際に、狼煙を上げて本陣へ伝達するために待機しているのである。
そんな彼等が複数の物体が移動する際に生じる僅かな振動を感じていた。
現在その存在の有無を確認するためにその場にいる十名の斥候兵達は目を凝らせているのだ。
「・・・確認しました」
一名の斥候兵がその場にいる全員が聴こえる程度の最小限の声で報告した。
その直ぐ後から確認出来る数が次第に増えていった。
そこで彼等は狼煙を使用して本隊への伝達を始めたのだ。
狼煙を上げて本陣への合流準備に入った時、移動までの間≪魔獣≫共の監視をしていた一人の斥候が異様に気付き。
「っ!なんだ・・・何だあれはっ!?」
彼は驚愕の声を上げた。
―カーバイエット盆地防衛線本陣―
「・・・!斥候部隊からの合図を確認!」
「全部隊に通達せよっ!我々はこれより防衛戦を開始するっ!!」
この場にいる三万余りの兵達に緊張が走った。
≪魔獣≫の群れがやってくる。
無数の咆哮が重なり合い、不協和音で大気を震わせ、縦横無尽に津波の様に押し寄せてくる。
彼等はそれぞれ覚悟をしていた。
自身の命を以ってしてでも必ず此処を死守するという覚悟を。
しかし、どれだけ覚悟を決めたとしても、いくつもの死を積み重ねたとしても。
地獄の様な未来を変えられるとは限らないのだ。
―カーバイエット盆地防衛線・物資保管テント―
「・・・狼煙が上がった」
補給部隊の物資引き渡し中、バークライドは斥候部隊の上げた狼煙を確認した。
「はぁ、・・・ネイバー!」
彼は溜息を吐いた後ミリス・ネイバーを呼んだのだった。
「はい、何でしょうか分隊長」
「あれを見ろ」
バークライドはそう言うと、顎で狼煙の方向を指した。
「!・・・全隊員で引き渡し作業の補助を行います。終了次第補給部隊と一緒に本国への帰還準備を開始します」
「ん。・・・頼む」
ミリスも狼煙を確認した後、直ぐに分隊の役割を確実に遂行するために、作業の終了を優先する旨をバークライドに説明した。
バークライドもそれに同意し自分は本陣へ帰還の手続きを行いに本陣へ向かった。
―数十分後―
バークライドは本陣で手続きを済ませると、本国への書状を託された。
その内容に関して、バークライドは感づいていた。
前線から本陣へ届いてくる戦況は開戦段階では間違いなくこちらが優勢だった。
だが、暫くして前線の各部隊からの被害報告が一気に増加していった。
自軍の損耗率もその速度も当初の予想を上回っている。
バークライドは部下達のいる物資保管テントへと急いだのだった。
物資保管テントでは引き渡しが終了したのか、補給部隊と部下達も帰還準備を始めていた。
「・・・!バークライド分隊長、先程引き渡しが終了したので帰還準備を開始したところです」
バークライドに気付いたミリスが帰還準備に掛かる残り時間を報告をした。
「分かった。・・・それから補給部隊に荷車は置いていくように伝えてくれ、積荷はもう無いし少しでも移動速度を上げたい」
「了解しました。・・・そんなにマズい状況なのですか?」
「まだ確定ではない、だが嫌な感じはする。各自の作業も急がせるぞ」
「!・・・はいっ!」
バークライドの指示と彼が吐露した言葉から言い知れぬ不安を感じたミリスは、指示通りに補給部隊へ荷車の放棄と帰還準備を急ぐように伝えたのだった。
その後、急ピッチで進めた作業は十分もかからず終了し、補給部隊とバークライド分隊は帰還を開始したのだった。
そして、帰還を開始してから半時程経過した時、後方から何かが接近して来る音を感じ取ったのだった。
―バークライド視点―
・・・!
何かが来る。
数は・・・?
いや、なんだ?足音がおかしい。
「バークライド分隊長!後方の、それも側面の山から何かが来ています!」
真後ろの本陣からじゃ無いって事は≪魔獣≫共が迂回して来たって事だよなぁ・・・!
「ミリスっ!今すぐ補給部隊に急いで離脱する様に伝えろっ!後この書状も王都に持って行け!俺がここで時間を稼ぐっ!」
俺はミリスに指示を出した。
「!・・・分かりましたっ!」
ミリスは少し考えた後直ぐに了解してくれた。
頭の良いアイツはちゃんと現状がマズいって事も分かってくれただろう。
・・・頼んだぞ。
さて、それじゃあ俺は自分の役割を果たしますかね。
そうして俺は馬を止めて、≪魔獣≫共を迎え撃つことにした。
俺の装備はバスターソードにバックラー、二本の投擲槍かぁ・・・心許無いなぁ。
正直馬上で複数の≪魔獣≫とやりあえる自身も無いし、コイツは自由にしてやるか。
俺は跨っている軍馬から降りた。
「短い間だったけどありがとな。お前は先に王都に帰ってくれよ」
そう言って俺は持たせていた水や兵糧とかの荷物を降ろしてやって軍馬のケツを叩いて王都へ促した。
軍馬はそれを合図に王都の方へと走っていった。
俺は降ろした水を一口含んで≪魔獣≫共が来るであろう方角を見やった。
≪魔獣≫共が真っ直ぐ俺の方へ移動してきているのを感じたので口の中の水を飲み下し、気合を入れた。
「さぁ、≪魔獣≫共こっちは準備万端だ!いつでもかかってきやがれ!」
そう叫んだ俺は≪魔獣≫共の動きに違和感を覚えていた。
先程聴こえた足音がかなり不規則であり、予想よりも遅い移動速度なのだ。
≪魔獣≫とは言ってもアイツらの基本的な動きは獣のそれと同じである。
だが先程の音は全く四足の獣の足音とは違う。
嫌な感じが頭を駆け巡った時、それがまるで形を成したようにそれは見えた。
真っ黒な外観、側面の山の中から植物をかき分けながら二足の足で駆け下りて、武器を手に持ち俺の前に現れた。
・・・一言で言うなら最悪だ!
≪魔獣≫の筋力で武器を人間の様に振るって、人間の様な恐怖心も無く突っ込んでくる。
目の前には五体だけだが恐らく本陣側の前線にもこいつ達はいるだろう。
どの程度の規模かは不明だが前線の被害が増えているのは間違いなくこいつ等のせいだ。
相手の武装はバクランズ連邦が兵装として正式採用していたブロードソード、国旗をイメージした配色の軽装鎧、つまりこいつらはバクランズ連邦の兵士がそうなった奴だって事だ!
本当に最悪だ。
そうこう考えている内にこいつ等は間合いに入って来た先ずは一体!
バスターソードを上段から叩き切る形で一番先頭のヤツに叩き込む!
ガスンっ!!
相手は左腕の脇から鎧ごとバッサリ逝ったがそれでも突っ込んで来た!
敵は突っ込んできながら左手に持ったブロードソードを振った。
速度は速いが刃は立っていない。
有り余る筋力を使って腕だけで振り回しているだけだ。
左手をバスターソードから手を離し、左腕に付けたバックラーで剣の軌道の直角に弾いてやれば・・・
ガキンッ!!
軌道は簡単に逸れる!
軌道が逸れれば肉体もそれにつられてズレる、後は足を引っかけて・・・
ガッ!
ズサっ!!
体制を崩したら首元に一振りっ!
ザスっ!!
これで一体!
「うらぁ!!次のヤツゥ!掛かって来いっ!!」
こいつらをここに釘付けにして、一体でも多くこいつらここで潰す!
―ミリス視点―
私は分隊長から書状を受け取って、直ぐに補給部隊の部隊長に事の経緯を説明した。
勿論私が動きやすい様に内容を隊を半分に分けて、片方は補給部隊の護りにもう片方は分隊長と合流して時間稼ぎを行うと変えた上で。
同僚達にも補給部隊と同じ事を説明して分隊長から託された書状も彼女らに託した。
そうして残りの半数と私は補給部隊から離れ、道を逆走した。
分隊長を迎えに行く為に。
馬を走らせて直ぐ、分隊長が見えて来た。
対峙しているのは人の≪魔獣≫。
既に一体葬っていた。
同僚達は予想外の状況に驚いていた。
それがどうしたというのだろうか?
相手は敵なのだ、人の形をとっているからなんだと言うんだ?
アレは私のモノに手を出そうとするただの塵でしかない!
私は馬上で弓を構えて、十分に弦を引いてから矢を放った。
矢は分隊長の向こう側、人型の≪魔獣≫の顔面に直撃した。
これで更に一体撃破。
分隊長がこちらを見て一瞬だけ驚いて、直ぐに顔を顰めながら次々に近付いてくる敵へ視線を移した。
同僚達も私が一体沈めた事で正気を取り戻した様で直ぐに軍馬で敵を轢き飛ばしながら隊長の所へ集結したのだ。
「お前らなぁ・・・!」
分隊長が低く唸った。
分隊長の声を聴いて顔が熱くなったが直ぐ様気持ちを切り替えて私はそれを無視するように言い放った。
「分隊長、それより戦闘準備をお願いします。まだあいつ等は生きていますし他にも来るかもしれません」
分隊長は複雑そうな顔をした後、観念したのか
「・・・分かった。だがお前らは誰一人死ぬんじゃないぞ、いいな!」
と言った。
この時の私は多分笑っていたと思う。
私がどうしてこの人に惹かれていたのかわかったから、そしてこの人と一緒にいることができるのだから。
そこが自分の命も容易く踏み潰される地獄の様な戦場であっても。
私は嬉々としてそこへ行くだろう。
だっていまの私は幸せだもの。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます。
当初の予定ではバークライドとミリスの話は30話目で終わる予定だったんですけどね、何故かもう一話続きました。
それもこれも作者の見通しの甘さが原因です。
ですのでもうしばらく彼等の物語にお付き合いください。
では。




