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29.ミリス・ネイバー


 お今晩は。

 予想以上の難産でした。

 

 今回は人によっては気分を害される内容だったりしますので、そういうの無理だという方は申し訳ありませんがご遠慮下さい。


 後、いつもより気持ち長めなので支離滅裂な部分がいつもより多くなっているかもしれません。 

 本当に申し訳ありません。


 それでも良いという方はどうぞお楽しみ下さい。


 私の名前はミリス・ネイバー。

 ネイバー商会の長女として生を受けた。

 尤もこの出生も意味は無いのだけれど・・・。


 私には腹違いの二人の兄がいた。

 長男のアーネスはいつも笑顔だけどしっかり者の優しいお兄さん、次男のトリファーは私が怪我をしたり、病気になった時に家族の中で一番に駆けつけて、心配しながら看病してくれる優しいお兄ちゃん。

 でも後に、私は知る事になる。


 ネイバー家の歪みを。

 

 今から三年前に私達の父が他界した。

 父の死後、私は王都で騎士団への入団試験を受けていた。

 結果だけ言うなら惨敗だった。

 武術に関しても本格的に学んだ事の無いのだから当然と言えば当然だろう。

 ただ、それ以外の体力や座学の点では問題無かった為、試験官からの推薦で王都勤めの兵士の道を歩む事が出来た。

 そうして私は今も所属しているこの分隊に入隊する事が出来たのだ。

 兵士になれたのは良いとして、不満を挙げるとすれば上司に関してだった。

 

 バークライド・ファーリン。

 分隊長である彼とはここで出会った。

 冴えない表情に無精髭の中年一歩手前、これが彼の第一印象だった。

 剣術や戦術論等彼から学ぶべきことは多くその点に関しては尊敬できるのだが・・・、如何せん女性にだらしがない。

 彼のそんな評価は今も変わらない・・・と思う。


 兵士としての職務にも慣れた頃、長距離移動訓練として地元の近くを訪れた時に事件は起きた。


 野営中私と同僚の隊員が火の番をしている時、薄っすらとだが苺に近い甘い匂いが風に流れて来た。

 嗅いだことのある匂いで、自分の脳内が警鐘を鳴らしていた。

 それは医療用に作られたお香型の睡眠薬の匂いだと分かった。 

 私は咄嗟に口や鼻を左手で覆い、可能な限りそれ以上その空気を吸わないようにし、周囲を警戒しながら光源の焚火から距離を取り、草に紛れる様に身を屈めた。


 だが同僚の方はその事を知らなかった様で、焚火の側で昏倒していた。

 そこに暗闇の中焚火の明かりで照らされてそいつは姿をみせた。

 抜き身の細剣で武装したそいつはローブで顔を隠していた。


 倒れている同僚の側にそいつは近づき剣を向けた。

 そいつは何も言わなかったが言いたい事は分かった。

 私がどうするべきか考えを巡らせていた時。


 視つけた。


 少し驚いたが、一呼吸して私は武器を解除しそいつに投降した。

 身振りで手の覆いも解除する様に指示され、私はわざとらしくため息をついて左手を下げてその後意識を手放した。 

 


 気が付いた時はどこかの家の中でベッドに縛られていた。

 口の中に微かに残った鉄の味を感じながら周囲を確認するとそいつが立っていたが、同僚はどこにも見当たらなかった。

 そいつがどこかで聞いた事のあるような笑い声を上げながら近づいて来て、月明りの下その顔が露わになった。


 トリファー・ネイバー

 襲撃者は私の兄だった男だ。


 彼は長男のアーネスに次期商会長としての座を快く譲り、地元に駐留する常駐兵士になった。

 当時は品行方正で兵士よりも騎士になった方が良いとも周囲に言われていた。

 そんな評価に、トリファーは微笑みながら首を横に振った。

 曰く、「騎士は誇り高く武勇にも優れた者が行くべきで、自分にはその資格は無い」っと。

 トリファーの周りの人間は何て謙虚なんだろうという評価だった。


 私が知っている兄もそんな人物だった。


「トリファー兄さん!何故このような事を!」


 私は驚愕しつつも、拘束から脱出するため身じろぎしながらトリファーに問いただした。

 その声にトリファーは笑いながら答えた。



 ・・・兄として信頼していた人物から聞かされた答えはひどく陰鬱な内容だった。



 トリファーは強姦の常習者だった。

 地元にいる貧民の女性を襲い自身の快楽の赴くままに貪る野獣だ。

 常駐兵士になる事で地元にいる被害女性に睨みを効かせて密告を防ぎ、そして溜まったら発散しに行くという暮らしをしていたらしい。

 

 気持ちの悪い男だ


 しかし、トリファーがこうなったのにも理由があった。

 原因は私を生んだ母だ。

 母は一種の児童性愛者で、トリファーはその被害者だった。

 歪んだ愛情はトリファーの人格を歪ませた。

 日々続く筆舌に尽くしがたい淫猥な行為の前にトリファーはどれほどの正気を削らされていたのだろうか・・・。

 

 しかし、拷問の様に続けられていた行為は突如として終わりを迎えた。


 私が八つの頃である。

 夜、帳簿を記入していた父が二階の母の部屋から物音がした事に気付き様子を見に行ったところ、薄暗がりの部屋の中、人影が窓から飛び出していたところだった。

 父が急いで窓の方に向かって外を覗いたが人影はどこにもいなかった。

 そこで母がこの部屋で眠っていた事を思い出した父はベッドの方を見やったところ、ナイフで一突きにされ既にこと切れている母がそこに居た。

 その日、私は母を失い、トリファーは自由を得た。

 

 だが、それまで受けて来た行為は少年だったトリファーの心を取り返しがつかない程に歪めていた。

 彼は義母から受けた行為の被害者だったのだから加害者になれる権利がると言う考えを持ってしまったのだ。

 そうしてその考えの下、彼は行動した。

 なまじ自分の義母がどのようにして父に自分の被害を隠していたのか知っていたから。

 それを応用して周囲からの評価を高める事により、他社からの信頼の中に自身の犯した犯罪自体を隠していたのである。


 しかし、自身が弄んだ女性は心労が祟ったのかそれともエスカレートしていく行為に耐えられなかったのか、自宅のベッドで孤独の中に命を落としたのだと言う。

 今私が縛られているベッドの上で。

 その女性の死を隠蔽する為に死体は地下室の地面に埋めたものの、自分の≪おもちゃ≫を失ってしまった事によって、トリファーは飢えた。

 自身の中で溜まっていくそれを吐き出す場所に、人間に、女の身体(からだ)に飢えていたのだ。


 そうして見つけた。

 いや、気付いたのだ。

 自身の最も身近なところにいた者を。


 それが私だったのだ。


 本当に気持ちの悪い男だ


 私は周囲を見回した。


 何としてでも現状から脱出する手段を探す為に。


 否、私が連れ去られる際に見つけた≪あれ≫を私に示した男を探す為に。


 トリファーが私に近づいてきた。


 私は凝視した。


 自身のズボンを下ろしながら私に近づいて、下卑た笑いを頭に付けたけつの穴からブリブリと吐き出すトリファーに・・・ではなく。


 今まで見た事も無い、強いて言うなら鬼の様な形相でトリファーをその真後ろから睨みつけているバークライド分隊長に。




 トリファーの拘束後に分隊長から聴いた話だと、直ぐ様異臭に気付いた分隊長が布で鼻と口を覆い気配を消して外に出たところ、トリファーが同僚を人質にしている現場に遭遇。

 敵の人物像も背後関係も不明な為、私をそのまま持って帰らせてその後に分隊全員で襲撃して一網打尽にする。

 それを行うには敵の拠点を割り出す事と眠らされているであろう隊員達を起こさなければならない。

 故に分隊長は私に自身の手に噛み傷を作って見せる事で、同じ事をさせて滴らせた血を足跡として使ったのだ。

 

 その後、他の隊員達が周囲の警戒から帰って来た。

 その中に眠らされていた同僚もちゃんと居て私は安心した。

 同僚にはそこで凄い謝られたけど、私としては無事な姿を確認出来た事が嬉しかった。


 夜が明けた後、私と分隊長は拘束したトリファーを引き連れて、トリファーが所属していた常駐兵士の詰所に向かった。

 そこに所属していた兵士には、最初は信じられないといった態度だったものの、そもそも現場で捕縛されている上に被害女性の遺体の発見、並びに彼女が隠していた手記が見つかったのだ。

 トリファーが自分に何をしてきたかが書かれた涙の滲んだ手記が・・・。


 これで私達の仕事は終わり・・・な訳が無かった。

 トリファーが使用した睡眠薬、私はあれを知っていた。

 ネイバー商会で私の兄であるアーネスが取引をしていた工房。

 そこであれは造られていた。


 私がその事を知ることが出来たのは偶然だった。

 父が亡くなる少し前、アーネスが上機嫌で家に帰って来た。

 取引先との研究で匂いを暫く嗅いだだけで睡眠を促すことの出来るお香型の睡眠薬だった。

 この睡眠薬は患者に合わせて分量を変える必要が無いと教えられた。

 その時微かにアーネスの服から甘い匂いが残っていて、それがその睡眠薬の匂いだと教えられた。

  

 そして、この匂いと効果を知っている人物がもう一人いたのだ。

 その人物はバークライド分隊長だった。

 

 数週間前から王都で複数の拉致事件が発生していた。

 その内一件、訓練の三日前の事件で出所不明の睡眠薬が押収された。

 どうやら拉致の際に使われる予定だったらしい。

 その睡眠薬は燃焼する事で空気に溶け込み、苺に似た甘い匂いを発するという情報が分隊長に伝わっていたらしい。

 

 私が知っている睡眠薬と出所不明の睡眠薬との共通点、そしてトリファーが睡眠薬を手に入れることが可能と思われるルート、それらの事からネイバー商会が捜査の対象となったのは言う迄も無いだろう。

 

 その後の捜査の結果、アーネスが取引していたのは人身売買を生業にしている組織だったこと、トリファーの事件のもみ消しに関与していたことなど様々な法に触れる物証が出て来たのだ。

 そしてアーネスとトリファーの取り調べにより、アーネスという人物像について改めて知ることになった。

 

 私は当然としてトリファーも知らなかった事だが、アーネスもトリファーと同じく私の母の性欲の捌け口になっていた。

 尤もトリファーとは違い、自分の意思でそれを望んで行ったらしい。


 アーネスは義母の死後、自身の安らぎをの場所を求めていた。

 最初はトリファーが女性を痛めつけている様をみながら無聊を慰めていた。

 だが、それでは自身の心からふつふつと沸いてくる欲望に足りずに、あの手この手で色々やらかしていたらしい。

 そうやって自分の心が最も救われたと思えたのが・・・人身売買だった。

 

 人を物の様にカネで売買する。

 訳も分からず無理矢理連れて来られて、自分の意思に関係無く、知らない人間の所に連れて行かれて、消費される。

 その事を知った商品の俯いて絶望した顔、憤怒に染まった顔、悲鳴を上げながら震えて怯えた顔。

 その顔を見る事でアーネスはひどく満ち足りていたらしい。


 その後二人は王国法に則り、ネイバー商会は取り潰し、アーネスは絞首刑、トリファーは犯罪奴隷として死ぬその時迄酷使され続けるらしい。


 そうしてこの事件は幕を下ろしたのだった。


 この事件で私は自身の生家の歪みを知った。

 だからこそ、もう司法に準じる兵士という立場ではいられないと思っていた。


 だけど私には特に何もなかった。


 その事を疑問に思い分隊長に尋ねた。

 そうしたら・・・


「兵士団は人手が足りなくてな、悪いがお前を辞めさせる訳にはいかないんだ。退団は諦めてくれ」


 悪びれず、気だるげにそんな事を言われてしまった。

 

 多分その時からだと思う。

 分隊長にもっとしゃんとして欲しいと、自分の口で指摘できるようになったのも。

 私がこの人の隣にいても釣り合う様になりたいと思うようになったのも。






 だから正直ホッとした。


 私がこの事件について私だけが知っている事を隠し通せて。

 母を殺したのは夜盗ではなく父であるという事を。

 そして私がその父を殺した事を。

 

 あんな母親だと最初から分かっていればこんな面倒な事にならなかったんだけどな・・・。

 でもある意味では感謝している。

 そのおかげで私は気の知れた同僚とやる気の無いお人好しの分隊長に出会えたのだから。

 

 


  

  




 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 ・・・主要キャラより濃くねぇ?この子・・・。


 まま、エアロ。

 

 次回は戦闘描写・・・まで行けるといいなぁ。


 では!

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