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31.敗走


 お今晩は。


 今回は前回同様、他人称視点(三人称視点)→バークライド視点→ミリス視点での進行になります。


 血の描写が少しありますので、苦手な方はご遠慮した方がよろしいかと思います。


 それから今回でバークライドとミリスでの進行は終わりになります。

 さみしくなりますねぇ。


 では、ごゆっくりお楽しみください。


―カーバイエット盆地防衛線本陣―


 数刻前まで、ここには防衛線本陣と野営テントに簡易拠点施設としての大型のテントが所狭しと点在し、多くのラーゼント王国兵士が居た。


 しかし、現在の光景にその名残はあれども元の光景とは違う様相をしていた。


 周りには大小さまざまなテントの残骸、辺り一面に飛び散った人間の血液と死臭を振り撒く兵士の死体。

 武器を手に前進してくる人型の≪魔獣≫とその間を縫う様に襲って来る獣型の≪魔獣≫


 そして、地獄の様なこの場所で傷だらけにもなりながら今だ武器をふるい続ける兵士達。


「盾で受けるなっ!躱せっ!」


「敵の剣戟に直角で弾けっ!真っ直ぐ受けるなよっ!」


 敵の動きや特性を理解した上官が檄を飛ばしながら指示を出す。


 しかし、戦線の崩壊したこの状況では焼け石に水である。


 開戦時、足止めの湿地帯に大半の敵が引っ掛かったものの、側面の山々から人型が出現、直接本陣に侵攻してきたのだ。

 本陣への侵攻により前線の部隊は弓兵達の援護射撃が無くなり接近戦を余儀無くされた、だけでなく、本陣に侵攻してきた人型の一部による後方からの攻撃、更に湿地帯を超えて来た≪魔獣≫共の攻撃、これにより前線部隊は挟撃されてしまったのである。


 そうして本陣でも人型の侵攻による弊害が徐々に表れ始めたのだった。


「弓兵からの援護はどうしたっ!?」


「矢がもうありませんっ!!」


「物資保管テントが無くなって補給が無いんですっ!」


 物資保管テントには兵糧だけでなく、剣等の武器や矢等の消耗品もこの戦いを十分に乗り切る程度は搬入されていた。

 しかし、人型の侵攻で早々に陥落された事により補給もままならなかったのである。


「師団長!!もうここに居る部隊しか残っていません!」


「師団長!指示をっ!!」


「師団長っ!!」


「お、おのれぇっ!≪魔獣≫共がぁぁぁぁぁぁっ!!」


 絶望が支配する戦場で師団長の慟哭が響いた。


 部下が上官が同僚が、有象無象の区別なく圧倒的物量と膂力で蹂躙され、多くの兵士が故郷へ帰る事が出来なかった。


 前線部隊の全滅から半時もせずに本陣で奮戦していた兵士達も、どれだけ仕留めても一向に減る事の無い魔獣の群れに成すすべなく磨り潰されていったのだ。


 カーバイエット盆地防衛線は大敗という形で幕を閉じたのだった。

 

 そして、前線からほんの少しだけ離れた場所で繰り広げられていた死闘も終わりを迎えようとしていたのだった。



―バークライド視点―



「これで、十六体っ!!」


 相手の人型≪魔獣≫からの攻撃に合わせて下に回避し、ブロードソードを振っていた腕が通り過ぎ、頭が露になった瞬間、顔面に突きを叩き込んでやった。

 これで眼前にいた≪魔獣≫の掃討を完了。


 人型の≪魔獣≫を確認してから、そいつらの後方から更に三十の人型≪魔獣≫が出て来やがったが何とか倒すことが出来た。


「分隊長、こちらは終わりました」


 周囲に≪魔獣≫が居ない事を確認したミリスが報告して来た。


「ネイバーか。こちらの損害はどうなっている?」


「・・・一名が打撲、二名が切り傷ですが、三名とも軽傷です」


 ミリスが不満そうに顔を少しだけ歪めて報告した。


 ・・・分隊が上げた戦果や損害に不満があるのかもしれない、だが現状を考えると十分に戦えている。

 こいつなりに分隊の事を考えての事だろうが、やっぱり気を張り過ぎだな。


 といっても≪魔獣≫の追撃が来ない今の内にここを離れよう、いくら損害は軽微と云っても無理は禁物だしな。


「わかった。それじゃあ、俺達も補給部隊を追って撤退するぞ。本国へ敵の事を伝えないとな。ネイバー先頭を頼むぞ俺は後方を警戒するから他の隊員(ヤツ)の軍馬に相乗りさせてもらうから」


「!・・・分かりましたっ!」


 ・・・ミリスにメッチャ睨まれてる。

 やっぱり戦果に不満が有ったみたいだな。

 

 ・・・本土決戦になったら恐らくここに居る奴らも女だろうが否が応でも参加してもらう事にもなるだろう。

 そうなって欲しくは無いがその時にしっかり暴れて・・・


 ヒュッ!

 

 そんな事を考えていた時、俺の視界の右端で一発の矢が飛んで行ったのを捉えた。


 

―ミリス視点―



 っつぅっ!!


 分隊長の言葉に反応してつい分隊長を睨んでいたら左目にブツッ!っとした音と共に激痛が走った。

 激痛の後、視界が真っ赤に染まる。


 視界の向こうで森から更に人型や獣型が出て来ると、同僚の三人の兵士が私の前方、分隊長の後方に壁を作るように集結したのが見えた。

 そこへ私に分隊長が駆け寄ってきた。

 

 視界が半分無い。

 見えにくいけど・・・分隊長は顔を青くして私に何か言っている。

 初めて見たかも。 

 分隊長があんなに取り乱した姿。

 

 そんな不安そうな分隊長の顔を見ていると、わたしは悲しくなった。

 

 そんな顔をしないで。

 大丈夫です。

 少し痛むだけです。

 だからそんな顔をしないで下さい。


 分隊長が私の左から延びる何か(・・・・・・・・)を短く切って、傷口に触れないように応急措置をしてくれた。

 その後私を抱き上げて、他の隊員に包帯でくくり付けられた。


 その時確かに聴こえた。

 分隊長の声で。


「ミリスを頼む」


 ・・・頼むってどういう事?

 

 ・・・何で?


 ・・・分隊長は?


 一緒じゃないの・・・?


 イヤ。


 イヤだ。


 イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだっ!


 一緒じゃなきゃ嫌っ!!


 行かないでっ!!

 

 私だけにしないでっ!!


 もう、私には誰もいないのにっ!!


 一人にしないでっ!!


「バー・・・イド・・・い・・・いで」


 振り絞って出した声は掠れて言葉にならなくて。

 

 私がどんどん離れて行った。


 私に残った視界の向こうで、私と分隊長を≪魔獣≫が放つ矢を食らいながらも護っていた同僚が、一人また一人と身体から鮮血を撒き散らしながら絶命した。


 そして、バークライドも手足に矢が突き刺さった。

 それでも眼前に寄って来た≪魔獣≫共を切り伏せていく。

 

 だが、多勢に無勢。

 バークライドがバスターソードを振り抜いた直後に側面から獣型が首筋に食らいついた。

 飛び散る鮮血。

 群がる獣型。

 それに続くように人型共が、ブロードソードを振りかざし・・・。



 わたしの視界と意識はそこで途切れてしまった。 


 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 次回は土日中には上げる予定ですので、よろしくお願いします。


 では!

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