選択
「これが天界大戦のおおよその流れです」
フィーネは言った。
最後の方はどこか悲しそうだった。
心からルシファーを信頼し、尊敬していればこその表情だろう。
「知らなかったとはいえ酷い事を言ってしまってたんだな。すまなかった...」
俺は、そう言うしかなかった。
いまだに信じられない事ではあるが、そんな事情があったとは思いもしなかった。
「謝らないで下さい。」
フィーネは優しい表情になっていた。
「最後だけを見ればそう思われても仕方ありません。これは誰が悪かったというものではありません。」
フィーネは諭すように言葉にした。
それは自分を諭すようでもあった。
「なぁ、1つ聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
単純な事だが、気になったことがあった。
「ルシファーは今もコキュートスにいるのか?ホワイトが敵のスパイなら、今がその来るべき時だと思うんだが...」
「今もコキュートスに閉じこもってらっしゃいます。戻られるタイミングは私にもわかりません...」
ルシファー。
実際に言葉にするとやはり実感が湧かなかった。先程までは悪魔と思っていた、実は大天使が実在しているなんて、夢を見てるようだ。
「それで、これからどうす...」
そこまで言いかけて俺は重要な話を聞いていない事を思い出した。
「いや、その前に俺が転生しているとか何とか言ってなかったか?あれはどう意味なんだ?」
そう、俺は5000年前から転生を繰り返しているというトンデモ理論。こればっかりは信じられなかった。
「あっ、その事を言ってませんでしたね!」
フィーネは、ついうっかり!みたいな言い方をしていた。少しは打ち解けてきているんだろうか?
「貴方が、というよりは貴方の根幹が生み出されたのはルシファー様がコキュートスに閉じこもられた後になります。」
フィーネの説明が始まった。
「世界が一度滅びルシファー様さえ閉じこもってしまった後、神は原因を考えられました。結果、自分の対応が遅かった事、そして天使達の精神的な弱さが原因だと結論付けられたのです。」
天使達はそんなに悪くはなかったような気がするが、俺は黙って話を聞き続けた。
「そして神は天使故に精神が脆かったと考えられました。ルシファー様も含めてです。」
フィーネは悔しそうに言った。
「そして神は思いました。人間は精神の強い生き物であると。何度罰を与え心を折ろうとも、何度でも立ち直る。だから防衛に関しては天使には任せず別の器を作り、人間の世界で過ごさせようと決意されたのです。」
「ちょっと待ってくれ。じゃあ天使はもう聖光を使えないのか?防衛に関しての力を失ってしまったのか?」
俺は青ざめながら聞いた。
「いえ、そういうわけではありません。守護する者は多い方が良いですから。ただ、天使だけで対応はさせないというだけのことです。そして防衛専用の器を作りました。それが貴方がたです。」
「がた?他にもいるのか?」
「当然いますよ。それも大勢。他の方にも私のように天使が送られています。」
当然といえば当然か...。
「話を戻しますが、人間の寿命は短いものです。死ぬたびに器を作る、となると膨大な手間が発生します。なので神は器を転生させる事にしたのです。こうする事で、器は力を保ったまま世界を循環し、その時が来たら天使と共に戦うように作られたのです」
大体はわかった。
「つまり俺はあくまで俺で、俺の中に世界を守る為の力がある。そういう事だな?」
「おおよそ、その認識で正しいです。貴方の中に器が宿ったと考えてもいいでしょう。あるいは、器に貴方が宿った。どちらも同じ事です。重要なのは守る力なので、前世の知識といった物は残されません。」
「そうするとなると、俺は今から何をすれば良いんだ?春からは大学も始まるんだが...」
俺に何か出来るとは到底思えなかった。
これから学校やバイトで何かと忙しくなる。そもそも防衛なんていっても、戦いの経験なんてあるはずもない。
「俺に出来る事なら手伝うけど、正直あまり期待しないで欲しいんだが...」
俺はフィーネにそう伝えた。
手伝える事なら手伝いたい。それは本音だ。だが難しいだろう。
それに対しフィーネは軽い口調で
「そうですね...さしあたっては大学とバイトは諦めて下さい。」
そんな事を言ってきた。
本当に軽い口調で。
「いやいや、無理に決まってるだろ⁉︎人生を棒に振れってのか⁉︎」
俺の当然の反応に対して
「棒に振れとは言いませんが、世界が終末を迎えたらそれこそ人生どころか全てを棒に振ることになりますよ?自分の未来と世界の未来。どっちを選びますか?」
フィーネは急に真顔になってそんな事を言ってきた。
究極の二択のような感じではあるが、当たり前だが、世界が終末を迎えれば何もかもが終わる。
遠回しの強制であった。




