アカシックレコード
麦茶が入った容器とコップを持って、部屋に戻るとフィーネは窓から空を眺めていた。
遠い昔を思い返しているようなその姿は、どこか哀しそうに見えた。
「フィーネ、お茶持ってきたよ。」
そう声をかけると
「ありがとうございます。正直少し喉が渇いていたので、嬉しいです。」
フィーネはそうお礼を言ってきた。
一緒にお茶を飲みながら、無言の時間が過ぎる。
「ここまでで何か質問はありますか?」
フィーネが尋ねてきた。
「質問...ね」
聞きたいことは色々ある。
「今聞いた話が、聖書とかで言い伝えられている話と違う理由ってなに?」
俺が聞いた話と違う部分が多かった。
「それはいろいろとあります。伝言ゲームのように伝えられて、どこかで歪曲してしまったり、あるいは悪意を持って歪曲・捏造されたり...」
確かに時間のスケールが違う。
食い違いが生じてもおかしくは無い。
ただ、そうであるなら逆に、ここまでおおよその出来事が正確に伝わっている事のほうが驚きだ。
そしてフィーネが言う
「後は、アカシックレコードを間違えて読み取った事が大きな要因だと思います。」
アカシックレコード?
たまに小説などに出てくるアレか?
「確か世界の全てを記録した物だっけ?実在するのか?」
「アカシックレコードは物体では無いため、実在とは言えないかもしれませんが、そのものは確かに存在しています。」
正直驚いた。アカシックレコードなんて当然フィクションだと思っていたからだ。
フィーネが説明をしてくれた。
「アカシックレコードは正確には(アリアレコード)と(カシアレコード)に分かれています。この2つを総称してアカシックレコードと呼ばれています。」
フィーネは続ける。
「(アリア)は生命や物体といった実在していた物の記録を、(カシア)は出来事などの経験のような記録を取っています。
アカシックレコードは正確には概念と言っていいもので、権限さえ持っていれば、どこからでもアクセス出来ます。
しかし、稀に権限を持っていないにもかかわらずアクセス出来る者がいます。
地球でいうと、モーゼに代表される預言者という存在ですね。
あるいは仏教のブッタもアクセス出来ました。悟りの境地というものです。
そういった方々がアカシックレコードに入り、権限を持っていないからこそ断片的な記録を読み取り、誤った情報を後世に伝えたのだと思います。」
何となく言いたいことはわかった。
つまり、ハッキングして情報の断片を抜き取ったようなものか。そして、その情報を繋ぎ合せた結果、事実と齟齬が生じた。
「ただ、それが悪いことかと聞かれると、そういうわけでもありません。権限が与えられていないだけで、アクセスが禁止されている訳ではありませんので。 例えば、島に行くのに飛行機や船は与えないが、泳いで行く分には構わない。そんな感じでしょうか。」
フィーネが補足する。
「フィーネもアクセス出来るのか?」
「いえ、アクセスの権限は最上位の天使である熾天使にしか与えられていません。なので私には無理ですね。」
それを聞いてまたも疑問が生じる。
「天使はずっと昔からいるんだよな?
なら元から記憶を持っているのに、アクセスする必要あるのか?」
「天使と言えども、記憶の全てを保持できるわけではありません。なのでメモを見るような感じなんでしょうか?私はアクセス出来ないので何ともわかりませんが...」
そっか、長い時の記憶を全てを覚えるのは流石に無理があるのか。
そしてフィーネは重要な事を口にした。
「神は宇宙を作りだしたと前に説明したと思います。」
それを聞いて、ハッと気がつくと同時に鳥肌がたった。
「アカシックレコードは宇宙の全ての記録が詰まっているのです。」




