ルシファーと天界大戦 ①
自宅に戻った俺たちは、早くさっきの話の続きをしようと俺の部屋にいた。
フィーネは俺の机の椅子に座り、俺はベッドの上に座っていた。
両親たちは旅行に行っているらしい。
フィーネがそう言った。
記憶の操作を行って、俺からの贈り物という事にしたとのことだ。
恐らくゆっくり話をする為に、邪魔が入って欲しく無いからからだろう。
「では、先程までの話の続きですが...」
フィーネがおもむろに切り出してきた。
ルシファーと天界大戦。
普通に考えれば、神が率いる天使の軍勢とルシファー率いる悪魔の軍勢の戦争だ。
しかしフィーネの態度から察するに、事実は違うようだ。
「貴方達人間はルシファー様を悪魔の帝王のように考えていますが、実際には違います。神が天使を率いていた訳ではなく、ルシファー様こそが天使を率いて戦ったのです。」
フィーネはそう告げてきた。
今から語られるのはフィーネが他の天使から聞いた話や、実際に見て、感じた天界大戦の顛末だ。
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遥か昔、神は世界を創造した。
光と闇を分け、海と大地を作り、生命を作り出した。また自らに似せてアダムとイヴを作り出し、楽園の園を与えてそこに住まわせた。
神は世界の創造主ではあるが、世界の管理を行う訳ではない。神は自らのかわりにに世界を管理する為に、天使を作り出した。
そして最後に、作り出した天使達を司るものとするべく、ルシファーを作り出した。
普通の天使は2枚の翼、最上位である熾天使が6枚の翼であるのに対し、ルシファーの翼が左右に6対の計12枚あるのは、他の天使とは違い特別に作られた為だ。
また、ルシファーには他の天使より高い知性を与えた。
神は時間をかけてルシファーを作り出した。
それ故にルシファーに対し特別に接し、愛を注いだ。
また、一部の天使も他とは違う特別な存在とした。
例えばミカエルは孤独なルシファーの心を癒す為に、弟として作りだされた。
天使達にはそれぞれに与えられた役割があった。愛を司るもの、知性を司るもの、公平を司るもの等、様々な役割だ。一部の特別な天使達はそれぞれの役割の中の頂点として君臨した。
中でもルシファーは全ての役割、全ての天使達の統括として、絶大な権限を与えられていた。
中でも重要視されていたのが、世界の防衛だった。
神は、この世界が絶対的なものではなく、やがて他から侵略がある事を知っていたからだ。
しかしそれは一つの可能性であり、侵略が起きる可能性は極めて低かった。
しかし、ゼロとは言えない。
故に、神はルシファーに命じた。
決して侵略を許すな。と。
元々真面目であったルシファーは神からの命を忠実に守るべく尽力した。
いつやってくるかわからない侵略ではあるが、いつ起きても良いように備えていた。
また、ルシファーにはもう一つの重要な役割があった。アダムとイヴが暮らす楽園の園の管理である。
楽園の園の中心には一本の宝樹が生えており、二つの禁断の果実を実らせていた。
一つは食べると神と同等の知性が得られる知恵の実。
一つは食べると永遠の命を手に出来る命の実。
アダムは元々は土から作られており、命は永遠である。イブもアダムの肋骨から作られている為、同様であった。それ故に命の実に関しては問題なかったが、知恵の実に関しては話が別だった。永遠の命と神の知性。二つを兼ね備えた場合それは最早、神に等しい存在になってしまうからである。
そんな、あまりに強大な力が得られる実があるため、楽園の園の管理は神が心から信頼を寄せている、ルシファーに任された。
しかしルシファーは天使達の統括でもあり、各々の役割が適切に行われているのか、世界に問題が起きていないか等、やるべき事は多岐に渡った。
そして一つの問題が発生した。
イヴが蛇にそそのかされて、禁断の実を食べてしまったのである。
この時のルシファーの怒りは凄まじく、アダムとイヴを土に還そうとした程だ。
しかし神がルシファーを宥め、処罰を与えた上での楽園からの追放という形で幕を閉じた。
この事件はルシファーの精神に大きな痛手を負わせた。神の期待に応えられなかったという自責の念が余りに大きかったのである。
その後、せめてもう一つの役割である防衛はしっかり果たそうと、ルシファーの役割への姿勢は今まで以上のものとなった。
天使達は世界を管理する為に作られたので、神と同じ〔知性〕は与えらてはいないが、それぞれの分野における〔知識〕は与えられていた。しかしルシファーは天使達の統括である為、神と同じ全ての〔知識〕を持ち合わせていた。
故にこの世界の事、宇宙の事、いずれやってくる侵略者のことも理解していた。
また高い知性を持つが故に、各々の役割の重要性も理解していた。
そしてルシファーは神によって愛されていた為、天使達への愛し方も知っていたのである。
天使達は皆が、ルシファーが神から与えられ愛と同じくらいの愛をルシファーから受け取っていた為、ルシファーに対してそれは大きな尊敬の念を抱いていた。
世界の創造から長い月日が流れ、穏やかな日々を送っていた。
しかしまたも人間の手により事件が起きる。
〔バベルの塔〕の建設である。
人間が神に取って代わろうとした大事件である。
ルシファーは再び激怒し、人間を滅ぼそうした。しかしここでもまた神が宥め、統一言語を取りやめる事でその罰とした。
ルシファーは不服ではあったが、皮肉な事に神の知識を持っていた為、〔人間の役割〕もまた理解していたのである。
故に実際には人間を滅ぼすという事が出来ない事を悟っていた。
ルシファーもまた、人間を愛するよう努力した。
そして運命の日はやってくる。
ルシファーが異変に気が付いたのは、ソドムとゴモラを訪れている時だった。民の様子がおかしいのだ。神に対し反抗的な態度を示している。具体的な何かをしている訳ではなく、感情的になっているというようだった。
不審に思っていると、街の上空を無機質で真っ白な150cm程の巨大な眼球のようなものが飛んでいることに気が付いた。
ルシファーは直感した。
あれこそが侵略者なのだと。
神と同等の知識を持つ自分が知らない存在。
その異常さは未知の存在の異形な形も相まって、酷く恐ろしく感じられた。
ルシファーは空の未知なる物を捕縛、もしくは倒そうと考えた。しかし、行動を起こそうとした瞬間、未知の存在は忽然と姿を消してしまった。
ルシファーはすぐさま天界へと戻り、神にこの事を報告した。
神は狼狽しているように見えたが、ひとまずソドムとゴモラに警告を行う為に、啓示を下した。(すぐさま町から避難するように)と。
神が啓示を下した後、ルシファーは混乱が生じているであろうソドムとゴモラへと飛んで行った。
しかしソドムとゴモラが目前というところまで来たところで、突如前方に光の落雷のような物が起きた。辺りを見回しても避難しているような人はいない。
侵略を確信したルシファーは辺りを警戒したが、敵らしきものは確認出来なかった。
しかし避難しているであろう家族を見つけることは出来たので、その家族の元に駆け寄ろうとしたが、そのタイミングで光の第二波が町を襲った。
驚いた女性が振り返ると同時に塩へと変貌していく様子を、上空からルシファーは何も出来ずに見ていることしか出来なかった。
目の前で起きている異質な光景。
ルシファーの混乱はピークへと達しつつあった。
ひとまず、残された家族の元へと降り立ち、事情を聞いた。
主人であろう男性曰く、啓示があった直後は騒ぎが起きたが、次第に静まってしまったとの事だ。
主人の一家は、神のいう事だからと従い、直ぐに避難してきたとの事だった。
そこで主人とは別れ、ルシファーは町へと向かった。ソドムとゴモラに着いた時、ルシファーは自分の目を疑った。
そこは塩の世界であった。まるで初めから塩で作られたかのような街並みは、生物の気配など一切しない、死の町へと変貌を遂げていた。
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「話が長くなってしまいましたね。一旦休憩にしましょうか」
フィーネが話を一旦切り、そう提案してきた。
確かにずっと説明しっぱなしだ。
「そうだな。お茶でも淹れてくるよ」
俺はそう返事し、部屋を出た。
階段を降りながら、フィーネの話が所々俺の知っている聖書の話と違う点を不思議に感じていた。




