第9話 閑話 村人ヨーナスの開拓村日記その1
俺はヨーナス。農家六男坊だ。
開拓村で掘っ立て小屋に住んでいる。
俺の実家はラ・ファール男爵様の領地で農家をやってた。
俺は六男だから実家は継げない。
ラ・ファール男爵様の息子のアラン様が領地をもらったから農民を募集しているって聞いて開拓に申し込んだんだ。
実家に残っていても、良いことはないからな。
一番上の兄貴は威張っているし、メシは少ないし、父ちゃんも母ちゃんも俺を大事にしてくれない。
そんで、アラン様にひっついてきたんだけど、ちょっと後悔してる。
大変なんだよ!
この村の生活は!
何にもない野原に掘っ立て小屋を建てて、畑をこさえて、道を作って……。
本当にゼロから村を作ったのさ。
畑から採れる作物は、たかがしれてる。
毎日腹ぺこだ。
そしたら奇跡が起きたんだ!
アラン様が慌てて村中走り回って、収穫を手伝えって言うんだ。
アラン様についていったら……、あんれ! まあ! 驚いた! アラン様がやってる畑は豊作だ!
キャベツの葉はツヤツヤ!
芋を引っこ抜けば、ズッシリ重くてデカイ芋がゴロゴロ!
それにいつの間にか果樹園が出来ていて、桃とリンゴがぎょうさんなっている。
俺たちは村総出で収穫の手伝いをした。
そしたらアラン様が手伝い賃で、ジャガイモとキャベツを沢山分けてくれた。
俺は久しぶりに腹一杯ゆでた芋を食った。
幸せだったな~。
ところがよ。
次の日、村はザワついてるんだ。
どうしたんだと他のヤツに聞いてみた。
『アラン様が逃げたんじゃないか?』
とんでもない噂が村中に流れてるんだ。
何でだって聞いたら、アラン様は奥様と娘を連れて馬車でニューゲートの町へ行ったと言うんだ。
俺はおかしいんじゃないかと思ってさ。
噂好きのおばちゃんに聞いてみたんだよ。
『それがどうした? 何でアラン様が逃げたことになるんだよ?』
『町に用事があるなら何もニューゲートまで行かなくても、手前に町があるじゃない。それに女房子供を連れてく必要もないだろう』
おばちゃんの言うことを聞いていたら、俺も何だか不安になってきた。
ニューゲートの町は大きな町だが遠い。
買い物なら馬車で一日のところに小さな町がある。
強突張りじじいがやってる雑貨屋があるくらいだけど、まあ用は足りるよな。
『わざわざニューゲートまで、何しに行ったんだろう?』
『だからさ! 本国に帰ったんじゃないかって、みんな言うんだよ』
『え~!?』
おばちゃんの言うことは半信半疑だ。
でも、ニューゲートの町からは、本国行きの汽車が出ている。
アラン様は本当に帰っちまったのかな?
この前、野菜をたっぷりくれたのは手切れだったのかな?
確かに村の暮らしは楽じゃない。
アラン様はお貴族様だからな。
畑をやるのが嫌になっちまったのかもしれないな。
それから村の空気は悪くなった。
別にアラン様がいなくても、俺たちは畑をやってメシを食うだけだ。
毎日の生活自体は変らない。
けどなぁ……。『領地がもらえた。手伝ったら畑をやるぞ』って言って、こんな僻地へ連れて来たのはアラン様だぜ。
自分だけ逃げるってのは、ズルイんじゃないかな。
そんなことがあって、アラン様がいなくなって七日目の昼よ。
「おーい! 馬車が見えるぞ! 馬車だー!」
村の入り口の方で誰かが叫んでる。
馬車!? アラン様か!? 逃げたんじゃなかったのかよ!?
俺は大急ぎで村の入り口へ向かった。
村の入り口には、村人全員が集まっていた。
遠くに土煙が見えて徐々に近づいてくる。
馬車だ! それにあの赤毛の馬は村の馬だ!
御者台で誰かが手を振ってるぞ……アラン様だ!
誰だよ! 逃げたなんて言ったヤツは!
アラン様は帰ってきたじゃねえか!
「おーい!」
「アラン様ぁ~!」
「ご領主様ぁ~!」
村中みんなで手を振る。
馬車が近づいて来た。
奥様も嬢ちゃんも乗ってる。
正直、ホッとしたよ。
馬車が村の入り口で止まり、アラン様が御者台に立ち上がった。
んん? 何だ? 何か話があるみたいだぞ?
「みんな! 桃とリンゴが売れた! 収穫を手伝ってくれてありがとう!」
何のことかなぁ……。
あっ! そういえば女衆が果樹園でリンゴと桃の収穫を手伝ってたな。
ああ! そうか! ニューゲートまで売りに行ったのか!
「それでお金が手に入ったから何に使おうか色々考えた。そしたら娘のキャリーが、こう言ったのだ。『村のためにお金を使え』と……」
えっ!? 嬢ちゃんが!?
俺は御者台に座っている奥様に目をやった。
まだお嬢ちゃんは赤ん坊で奥様に抱っこされてる。
何だか目をキョロキョロさせてるぞ。
本当にこのお嬢ちゃんが言ったのかな?
いや……、貴族様のお嬢ちゃんだから頭が良いのかもしんねえ。
「私はキャリーの言葉を尊いものとし、今回の取り引きで得た資金を村に使うことに決めた! 荷台には君たちが欲しいと言っていた物がある! 農具! 塩! 布だ!」
「「「「「「おおお!」」」」」」
本当か!? 新しいのがもらえるのか!? あのオンボロになった鎌を使わなくて良いのか!?
スゲエ!
俺たち男衆は農具が新しくなることを喜んだ。
女衆は塩と布に喜んでいる。
いやあ、ありがてえな!
さすがアラン様だ!
それに嬢ちゃんも!
「買ってきた物で暮らしを良くし、収穫を増やして欲しい……。そして私は領主として村の名前を決めた! 私の娘、キャリーの名前キャロラインを村の名前とする! 今日からこの村はキャロライン村だ!」
「「「「「「おお!」」」」」」
キャロライン村! 良い名前じゃねえか!
これまでは単なる開拓村だったからな。
これでようやく村らしくなる。
はは! お嬢ちゃんが目を白黒させてるぜ!
いやあ、良かった! 良かった!





