第10話 閑話 天使の桃 支店長カーベル
私はカーベル。新領地ニューゲートの町にあるメゾン・グラディスの支店長だ。
メゾン・グラディスはグラディス商会という意味ではあるが、本国フルール王国風にメゾン・グラディスで通している。
我が商会は高級志向であり、お客様は貴族と富裕な商人だ。
やはり高級感のある呼び方、メゾン・グラディスの方が響きが良い。
メゾン・グラディスは本国フルール王国では成功し五大商会に数えられているが、新領地では苦戦している。
というのも、新領地には金持ちがほとんどいない。
また仕入れという点でも特筆すべき産品がない。
開拓村は山ほどあるが、どこも生産するのは小麦、大麦、ジャガイモ、キャベツ……。
つまり開拓村の村民が食べる物を生産するのだ。
新領地への進出が早すぎたのかもしれない。
もう、十年、二十年後ならば、新領地に金持ちが増えるだろうし、開拓村でも様々な産品を生産するようになるだろう。
だが、現時点では……。
商会長に命じられて新領地に来てみたが、とんだ貧乏くじ――と私は考えていた。
今日の夕方までは……。
今日の夕方、面白い客が来た。
新貴族アラン・ド・ラファール新騎士爵様。
本国ラファール男爵家のご子息であらせられる。
ひどい身なりだった。
いや、農民としてみれば普通だが、男爵家の子息にはとても見えなかった。
身分を表す短剣とアラン様の堂々とした態度を見て、貴族であるとわかった。
ラファール家御当主がアラン様の服装をご覧になったら、きつくお叱りになるに違いない。
しかし、相当、ご苦労をされたのだろう。
頬はこけ、肌の色艶は悪い、体つきも見ていて不安になるような細さだった。
私は開拓の厳しさを垣間見た思いだった。
そして、アラン様は桃とリンゴを持ち込まれた。
どうやら果樹園作りに成功されたようだ。
桃とリンゴは非常に高品質で、特に桃は口にするとあまりの美味しさに天にも昇る心地だった。
甘すぎず、さっぱりしすぎず、香り、味、みずみずしさ、全てが完璧!
本国で間違いなく売れる!
それも高額で!
恐らく本店は、まず王室に献上するだろう。
国王陛下の御墨付を得て下に流す。
間違いなくブームになる。
やれやれ、これでようやくニューゲート支店として胸を張れる仕事が出来た。
アラン様に感謝だ。
そういえば、アラン様の髪の毛と瞳の色は赤系だった。
ということは、火属性の魔法をお使いになるはず。
ふむ……ラファール男爵家のラファールは、疾風を意味する。
ラファール男爵家は、その名の通り風使いの名手を輩出した家だ。
火属性では肩身の狭い思いをされたであろう。
それもあって新領地にいらっしゃったのだろうか?
奥方のマリー様は緑系の髪と瞳……ターコイズであった。
恐らくは風……ひょっとしたら水にも適正があられよう。
奥様の方がラファールらしい。
それでラファール男爵家の子息に嫁がれたか?
奥様のご実家、ジャグワール騎士爵家といえば槍で有名だ。
騎乗する馬に風をまとわせ、突進するとともに槍を突き出す。
ただ、あまり裕福な家ではなかったと記憶している。
少なくとも本店の顧客リストにジャグワール騎士爵家はない。
ふむ……マリー様はお美しい方だ。
あの美しさと風の適性があるなら、騎士爵家から男爵家へ、格上に嫁がれるのも納得か。
そして、お嬢様……キャリー様だ。
キャリーということは、キャロライン様? 本国フルール王国風に呼ぶとカロリーヌ様だ。
驚いたことにフェアリーをお連れになっていた。
まだ母に抱かれていたので、一歳程度であろう。
一歳で! フェアリー! 聞いたことがない!
ああ、惜しむらくは、髪の毛も瞳も金色……。
つまり光属性ということだ。
よりにもよってハズレ属性の光とは……。
魔法使いとしては大成できまい。
光属性の魔法使いは、照明係として王宮のシャンデリアを輝かせるのがせいぜいなのだ。
だが、キャリー様は知性があるかもしれない。
桃とリンゴの試食を勧めたのはキャリー様だ。
いや……、あれは単に子供が美味しい物を人に勧めただけかもしれない……。
そうだ。キャリー様は、まだ幼い。
商談の流れなど理解されていまい。
うん。知らないおじさんに美味しい物を食べさせようとしただけだろう。
心根の優しい親切なお嬢様なのだ。きっとそうだ。
さて、本店向けの報告書を書こう。
有望な商品を発見……。
そうだな……、天国の味がする桃……天国の桃……。
いや、天使のようなキャリー様が報せてくれた桃なのだ。
天使の桃が良かろう。
それから、マジックバッグをアラン様に貸与するよう本店に提案してみよう。
桃とリンゴはしっかりと藁にくるまれていたが、輸送中にアクシデントがあってはいけない。
マジックバッグの方が安心だ。
私は『天使の桃』について、本店に報告書を送った。





