第11話 目指せ! 高カロリー!
――季節は春。私は二歳になった。
『春はあけぼの』
『ねえ、キャリー。それはなあに?』
『前の世界の文学だよ。春は夜明けが素敵だよねって、昔の貴族女性が書いたの』
『今はお昼だよ?』
『ソウデスネ』
私と妖精のベルは、他愛のない話を念話で行う。
ここは畑の横、いつもの木――守り木のところだ。
私は守り木に寄りかかって座り、ベルは守り木の枝に腰掛けている。
母さまは私の隣で縫い物だ。
「かーさま。それなーに?」
「これはキャリーのシャツよ」
「ありがと!」
「どういたしまして」
私は二歳になってすっかり言葉を話せるようになった。
むしろ難しい言葉を言わないように、二歳児らしく話すように気を使っている。
体の発達は遅れているようで、よちよち歩きだ。
恐らく栄養状態があまりよくないからじゃないかと思う。
野菜や穀物はとれているけれど、タンパク質やカルシウムが足りない。筋肉や骨の発達が遅れているのだと思う。
父さまは、開拓村をキャロライン村と名付けた。
愛娘の私の名前を付けたわけだけど、正直、ビックリして目を白黒させてしまったわ。
昨年秋のキャロライン村は、守り木パワーと農具の効果で豊作だった。
どの家の畑でも野菜が沢山とれた。
村人たちは『安心して冬が越せる』と大喜びだった。
農具や作業道具が新しくなったのは影響が大きかった。
畑仕事が効率的になったらしく、みんな時間に余裕が出来た。
出来た時間を家の補修や開墾、女性は縫い物に当てた。
今日、母さまが縫い物をする時間が取れているのは、畑仕事が効率化された成果なのだ。
そう、村人の服装はボロから質素くらいにレベルアップした。
桃とリンゴを売ったお金で布を配ったので、女性陣が裁縫してズボンやシャツを新調した。
私の服装は二歳になって、おくるみからズボンとシャツに代わった。
ズボンとシャツといっても、オシャレな物ではなく母さまが縫ってくれた綿生地のシンプルな子供服だ。
新しい生地で母さまが愛情を込めて縫ってくれた服は、私のお気に入り。
そして、父さまが買ってくれた水色のリボンは、いつも髪につけている。
ちなみにおしめはまだとれないので、お尻が大きいよ。
さて、そんなわけでキャロライン村は、以前より良くなった。
領主である父さまへの信頼も高まったと感じる。
領主一族――父さま、母さま、私に対する態度に親しみと敬意が感じられるのだ。
ロイヤリティ――民忠誠度が上がったね!
やっぱり衣食住は大切!
「母さま」
「なーに?」
「父さまは、まだ?」
「ん~、まだですよ」
父さまは森で狩りだ。
私がお肉が食べたいと言ったので、張り切って出掛けている。
父さまも畑仕事に余裕が出来たので狩りに行く時間がとれるようになったのだ。
「おーい!」
畑の向こうに父さまたちが見えた。
銃を背負った父さまを先頭に村の若い人たちが三人歩いてくる。
「父さまだ!」
私はパッと立ち上がると、両手を広げて父さまへ向かって走り出した。
父さまが帰ってきて、私は嬉しくて仕方がない。
私の中の子供の部分が父親を求めるのだ。
畑の横のあぜ道を一生懸命走る。
「父さま! 父さま! 大好き!」
「ハハハ! キャリー! ただいま!」
私は父さまに抱きついた。
父さまは屈んで私を受け止め、高く抱き上げる。
「ほら! 見てごらん! 今日も沢山とれたよ!」
「わあ!」
父さまの後ろを歩く三人が背中に獲物を背負っている。
獲物は森の魔物――ホーンラビットだ。
ホーンラビットはウサギ型の魔物で、大きさは中型犬ほど。
味は鶏肉が近い。
最初は魔物の肉と聞いてかなり抵抗感があったけど、食べてみると本当に美味しい!
人を見れば襲いかかってくるそうだけど、キャロライン村の貴重なタンパク源であり、防寒用の毛皮も採れる優れた魔物なのだ。
父さまは合計三匹のホーンラビットを仕留めた。
今夜はお肉だ!
夜になって晩ご飯。
メニューはホーンラビットのシチューとカチコチの黒パンだ。
黒パンはシチューに浸して柔らかくして食べる。
ジャガイモがゴロゴロ、ホーンラビットのお肉が美味しい。
私はスプーンをグーで握って一生懸命食べる。
「なあ、キャリー。大事な話があるんだ」
なんだろう?
父さまと母さまが笑顔で私を見ている。
「なに?」
母が笑顔で優しく私に語りかける。
「あのね。赤ちゃんが出来たのよ」
「えっ!? 赤ちゃん!?」
「そうよ~。キャリーの弟か妹よ」
「本当!? 本当!?」
「うふふ。本当よ」
「わーい!」
私は食事中にもかかわらず手をブンブン振り回して大喜びした。
母は幸せそうに微笑み、父は少し照れくれさそうにしていた。
一緒に食事をしていた妖精のベルが食事の手を止めて飛んできた。
私の肩に止まる。
「キャリー、おめでとう! 良かったわね!」
「ありがとう! ベル!」
「キャリーはお姉さんになるんだね」
「はっ!?」
そうだ! 私はお姉さんになるんだ!
前世で私に兄弟姉妹はいなかった。
学校で同級生を見て羨ましかった。
けど、今度の人生で私は……私は……。
「ふおおおおお!」
私は感極まってしまった。
すると私の体内から魔力がドバドバっとあふれ出した。
「うわっ! キャリー! 何か光ってるぞ!?」
「キャリー! 落ち着いて! 魔力を抑えて!」
父と母があたふたしている。
しかし、私の感情はマキシマム、トップギアに入っている。
溢れ出る喜び。
弟妹が出来るという衝撃でアンコントローラブル。
脳内で松崎し○るがお馴染みの曲を大声で歌っている。
人生は美しくて、喜びに溢れているんだよ!
「ああ、キャリーが落ち着かないから魔力をもらうわね」
妖精のベルが私の額にピタッと手を置いた。
溢れ出ていた魔力を吸い取っているのだ。
私はフンスフンスと鼻息も荒くベルに話しかけた。
「ベル! 私は決めたよ! このキャロライン村をもっと豊かにする!」
「ちょっと! キャリー! 落ち着いて!」
「落ち着いてる場合じゃないよ! 私はやる! 自重ゼロ! 目指せ高カロリー!」
父さまも母さまも私に抱きついて色々言う。
「キャリー! わかったよ! わかったから落ち着いてくれ!」
「キャリー! 大丈夫よ! ね! ね!」
「父さま! 母さま! キャロライン村を世界一豊かな村にするの!」
「「「えー!?」」」
「為せば成る為さねば成らぬ何事も!」
私は決意を込めて拳を握りしめた。





