第8話 水色のリボン(一章最終話)
――翌朝。
父さまと母さまは、宿屋を引き払った。
買い物をして、すぐ開拓村へ帰ると言う。
行きは開拓村からここニューゲートの町まで三日かかった。
往復で六日、今日の出発が遅くなれば七日かかる。
領主が一週間領地を開けるのは、よろしくないのかも。
「さあ! 買い物をするぞ!」
「何を買おうかしら!」
父さまと母さまは買い物を出来るのでウキウキしていて、宿屋の前の通りで、どの店こへ行こうか話をしている。
私は御者台にチョコンと一人で座っている。
首が据わってきたので、動いていなければ一人で馬車に乗れるのだ。
私も何か買ってもらいたいな。
フリルの付いたかわいい服とか、食べられるかわからないけどお菓子とか。
何をおねだりしようかなと考えていたら、私のすぐ横をお年寄りが通った。
白髪のおじいさんだが、着ている服はボロで痩せこけている。
私は開拓村の人たちを思い出した。
――今、父の手元にまとまったお金がある。
お菓子や服に変えてしまって良のだろうか……。
私はムムムっと考え込んでしまった。
私の隣に座るベルが私の顔を見て念話を飛ばしてきた。
『キャリー。どうしたの? 難しい顔をしてるよ?』
『うーん……お金の使い道を考えていたんだ』
『使い道? 欲しい物を買えば? キャリーも何か買ってもらいなよ』
『えーとね――』
私は念話でベルに考えていることを説明した。
私はお菓子やフリフリのカワイイ服が欲しい。
けれど、開拓村の貧しい領民を何とかしてあげたい。
収穫の手伝いをしてもらった時に領民たちを見たけれど、みんな痩せていて暮らしが大変なのだと一目でわかった。
お金は領民のために使って欲しい。
それに今回得たお金は、ベルが果樹園を育ててくれたから手に入った臨時収入だ。
ベルは魔力を使ってしまったので、同じように果樹園を育てることは出来ない。
あくまで臨時収入……。
父さまと母さまは、普通の収穫で村を経営していかなくてはならない。
ベルの力をアテにして村の経営をしてはダメなのだ。
お金をお菓子や服に使ってしまえば、それまで……。
でも、領民が必要な物を買えば投資になる。
長い目で見れば使ったお金が戻ってくる。
お金を開拓村のために使って欲しい。
私が話し終えるとベルは腕を組んで感心した。
『なるほどぉ~。キャリーは色々考えていたんだね!』
『生まれ変わる前は、大人だったからね』
父さまと母さまが私のところへ来た。
二人ともご機嫌でニコニコだ。
「キャリー。何か欲しい物はあるかなぁ?」
「うふふ。そろそろお菓子も食べられると思うわよ」
「……」
父さまと母さまは、愛娘に何かしてあげたいという優しい親の顔だ。
ここでおねだりすれば、かわいい子供なんだろうな。
けれど、言わなければならないと思う。
私は首を横に振った。
「うん? 欲しい物はないのかい?」
「キャリー? 要らないの?」
「ちがう。お菓子、欲しい、かわいい、服、欲しい」
「そうか。お菓子と服が欲しいのか」
「うふふ。キャリーに似合う服を買いましょうね」
「とーさま、かーさま。キャリー、いらない。むらの、ひとに、おかね、つかって」
「えっ? 村?」
「キャリー。どういうこと?」
「むら! むら!」
私は手をパタパタと動かして父さまと母さまに説明しようとするが、思考が上手く言葉にならない。。
見かねたベルが父さまと母さまに話し出した。
「ねえ、アラン、マリー。今、手にしているお金は、私が桃とリンゴを育てたから……でしょう?」
「そ、そうだね!」
「ベル。ありがとう!」
果樹園に種をまいたのは父さまだけど、そもそも私が変換スキルでリンゴや桃を出したから種が手に入った。
そして果樹園を急速に生長させたのはベルだ。
父さまと母さまが稼いだわけじゃない。
父さまと母さまは、舞い上がっていたのだろう。
ベルに指摘されてちょっと焦っている。
ベルは恩に着せるでもなく、ごく普通に話を続けた。
「いいのよ。私はお金に興味ないもん。でもね、覚えておいて欲しいの。同じことは何度も出来ないの。だからお金は大事に使って欲しいの」
「それは、もちろん!」
「ええ、大事に使わせてもらうわ!」
ベルの言葉を聞いて、父さまと母さまはかなり真剣な表情に変った。
「キャリーはね。美味しいお菓子やかわいい服が欲しいんだって。でもね。このお金はお菓子や服じゃなくて、村の人のために使って欲しいみたいよ」
「村の人……?」
「村のために……?」
父さまと母さまが私を見る。
私はコクリとうなずいた。
ベルが続ける。
「だって、お菓子は食べたらなくなっちゃうじゃな~い。それより村の人のためにお金を使えば、次の収穫で戻ってくるかもしれないよ?」
「そういうことか……」
「それもそうね……」
父さまと母さまにやっと話が通じた。
私は二人に気持ちを伝える。
「とうさま、かあさま。キャリー、いらない。がまん」
「そうか……。キャリーは偉いな」
「キャリーは良い子ね」
母さまが抱き上げてくれて、父さまが頭をなでてくれた。
両親の愛情、プライスレス。
父さまが真面目な顔になって、母に話しかけた。
「じゃあ、村に必要な物を買って帰ろう。男衆からは農作業する道具やノコギリが欲しいと言われているよ」
「村の女性から塩と布が欲しいと聞いてるわ」
「よし!」
私たちは馬車に乗って店を回った。
最初は雑貨店で、父はノコギリやスコップ、釘やロープなどを買い込んだ。
次に庶民向けの食料品店で塩を壺で買い込む。
最後に布を扱うお店に寄って、安くて丈夫な生地を買い込んだ。
「毎度あり! はい、お釣りだよ!」
生地屋のおばちゃんが、お釣りを父さまに渡した。
――銅貨が五枚。
桃とリンゴを売ってお金を稼いだけど、ちょびっとになっちゃったね。
父さまは手の中の銅貨をジッと見ていた。
それからちょっと悲しそうな顔をした。
生地屋のおばちゃんが父さまに
「どうしたんだい?」
「いや……娘に何か買ってやりたかったのだが……。村で頼まれた物を買ったら、お金がなくなってしまって……」
「ああ、そりゃ残念だね」
「何かないかな……」
父さまは店の中をキョロキョロと見回した。
そして店の隅にあった水色のリボンを指さした。
「あの……あのリボンを売ってくれないか? この銅貨で買えるだけ……。その……娘に……」
生地屋のおばちゃんは、父さまと母に抱かれる私を何度か見てフッと笑った。
「銅貨五枚じゃあ、ちょっと足りないけど。カワイイお嬢ちゃんに免じてサービスするよ」
生地屋のおばちゃんは、水色のリボンを五十センチほど切り取り父さまに渡した。
「ありがとう!」
父さまの手の中の水色のリボン。
私には輝いて見えた。
とってもかわいい。
父さまは私の麦わら帽子に水色のリボンを付けてくれた。
父さまはお金のない中で私にリボンを買ってくれた。
ただのリボンだけど、私は父さまの愛情を感じてとても嬉しくて涙が溢れた。
「とうさま!」
私は父さまに抱きついた。
父さまは私を抱き、優しく頭をなでてくれた。
日本から転生して私は家族を得た。
私が欲しかった優しい家族。
優しい父さまと母さま。
――水色のリボンが私の宝物になった。
■―― 第一章 完 ――■
二章へ続きます。
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