第37話 鷲鼻のホセ(サイドリバーの町)
――翌日。
キャロライン村は大忙し。
新しい家族のために家を建て、ぶどう棚を作っている。
私が変換スキルで生成した材木が役立っていて、私は非常に嬉しい。
父さまと私はぶどう畑で魔の森を警戒している。
ノンビリ座っているように見えるけど、魔銃をいつでも撃てるようにしている。
ぶどう棚は、移住してきた家族の指導で着々と出来上がっている。
全部出来上がったら、妖精ベルの力で一気にぶどうを成長させるの。
ぶどうが楽しみだなぁ。
ヨーナスがこっちにやって来た。
「アラン様。釘が足りませんぜ!」
「ああ、わかった。町まで買いに行ってこよう。ぶどう畑の作業は一時中止だ。畑で作業してくれ」
「へい!」
私と父さまで町まで釘を買いに行くことになった。
私はお気に入りの麦わら帽子に宝物の水色リボンをつけてご機嫌だ。
お出掛けは大好き。
馬車に揺られて、移り変わる風景を見ているだけで楽しい。
父さまと二人でおしゃべりしているのも楽しい。
今回出掛けるのは、半日くらいで着く近くの町だ。
いつもニューゲートの町へ行く時に通り過ぎている。
小さな町だけどお店と酒場が一件ずつあった。
私は入ったとがない。
「ねえ、父さま。どうして近くの町にあるお店に普段行かにゃいの? ニューゲートの町まで行くよね?」
御者台の父さまに私は聞いた。
「あまり良いお店じゃないんだ。店主がね……」
「感じが悪いの?」
私の質問に父さまが苦笑する。
「そうだね。感じが悪いね。だからニューゲートの町のメゾン・グラディスまで行ってるんだ。でも今日は急ぎで釘がいるからね」
「ふーん」
取引先としてあまり望ましくないってことだね。
到着したのはサイドリバーの町。
町の名前はひねりも何もない。
町の隣に小川が流れている。
日本語なら横川町みたいな感じかな。
サイドリバーの町は西部劇に出てくる町に似ていて、横幅の広い街道が通っていて左右に建物が十軒ほど並んでいる。
建物は木製で、あまり立派ではない。
町というよりは、街道沿いの集落だ。
「この町は開拓村を支援するために作られた町なんだ」
父さまが説明してくれる。
つまり……。
ニューゲートの町(新領地への入り口)
↓
サイドリバーの町(開拓地への支援目的)
↓
キャロライン村
という構造らしい。
サイドリバーの町の周囲にいくつもの開拓村――新貴族の領地があるそうだ。
「じゃあ、サイドリバーの町は誰の領地なのでしゅか?」
「誰の領地でもないんだ。複数の国がお金を出し合って作った町なんだ。新領地の開拓には複数の国が関わっているからね」
「変にゃの」
わかるようなわからない話。
前世日本の社会に置き換えると、建設業であったJVみたいな感じかな……。
複数の大きな建設会社がお金と人を出し合って、大規模な橋やトンネル工事をするみたいな……。
「じゃあ新貴族もいろいろな国の人?」
「そうだよ。僕とジュリアンは同じ国の出身で友人だけど、違う国の貴族で知らない人もいるよ」
「変にゃの」
今日、二度目だけど、変な物は変だ。
後でもめると思うんだけどね。
父さまは馬車を一軒の店の前で止めると店の中に入った。
妖精のベルは、私の麦わら帽子の中に隠れる。
父さまが入った店は雑貨屋というか、何というか……。
天井からロープやボロイ服が吊り下げられ、棚には鍋や包丁が置かれ、壁には鎌やノコギリが掛かっている。
生活雑貨の何でも屋といった風情だ。
店の奥にはカウンターがあり、茶色のチョッキを羽織った鷲鼻にヒゲを生やした男が椅子に座っていた。
ジロリとこちらを見る。
嫌な感じ。
「何か用かい……?」
「釘が欲しい」
「釘ねぇ……。金は?」
「ある」
「ふーん」
何だか横柄な対応だ。
鷲鼻の男は店の奥に入ると布袋を持ってきて、カウンターに放り投げた。
「金貨五枚」
「いや、高すぎるぞ、ホセ!」
「あーん? 俺の名前を知ってるのか?」
「私はラ・ファール男爵家のアランだ。以前、この店に来た」
「はん! お貴族様ってか! ここは新領地だぜ! 本国の肩書きなんざ、クソの足しにもなりゃしねえ!」
「何という無礼な!」
父さまが血相を変えた。
怒っているよ。珍しい。
まあ、鷲鼻のホセが言うことも一理あるね。
開拓地では貴族もへったくれもなく、まず食えないとどうしようもない。
それでも商売人なら客に対して、もうちょっとフレンドリーに接した方が良いと思うけどね。
「ん……? 待てよ……。ラ・ファールと言ったか? ラ・ファール……、あっ! オマエ! 天使の桃をニューゲートの町へ持ち込んだ貴族だな!」
「そうだが?」
鷲鼻のホセがカウンターの奥で立ち上がり、父さまが思いっきり嫌そうな顔で返事をする。
天使の桃はキャロライン村の特産物、メゾン・グラディスがブランド化した桃だ。
「天使の桃はウチに卸せ。わかったな! 釘は安くしてやる」
「断る! 桃はメゾン・グラディスに卸す約束になっている」
「俺を間に噛ませろ。メゾン・グラディスの二割で買う」
「ふざけるな! そんな値段で売るわけがないだろう!」
「何言ってるんだ。これだから貴族のお坊ちゃんは世間知らずで困るぜ。いいか? ここは新領地だ。物を動かすにも金がかかるんだ。ニューゲートの町へは何日もかかる。こいつは必要な手間賃ってヤツさ」
「断る!」
「じゃあ、今後あんたの領地との取り引きはお断りだな。帰ってくれ」
うわ……最悪!
そりゃ物流コストは理解出来るけれど、釘が金貨五枚ってボッタクリを通り越して嫌がらせだし、桃をメゾン・グラディスの二割で買うって……。私たちに何のメリットもないよ
父さまと私はプンスカ怒ってホセの店を出た。
「仕方がない。一度村へ戻ってからニューゲートの町へ行こう」
「うん。その方が良いにょ」
麦わら帽子の隙間から、妖精のベルが顔を出す。
「ねえ。なんかもめてた?」
「無礼アンド失敬な人がいたにょ」
「極めて無礼だった。本国なら死罪だ」
「へー! アランが怒るなんて珍しいじゃん!」
「僕にだって我慢の限度ってものがあるよ!」
「アハハハ! おもしろーい!」
ベルが面白がって父さまの顔の周りをブンブン飛ぶ。
頬や眉間をつつく。
「さあ! 帰るよ!」
「「はーい」」
父さまが幌馬車をUターンさせた。
ふと見ると、鷲鼻のホセが店の中から、私たちをジッと見ていた。





