第34話 シャルロット
ジュリアン・ジュベールさんの領地に到着した。
開拓村に幌馬車で乗り入れると、木製の四角い馬車が止まっていた。
立派な飾り付けの入った馬車で御者台にはシルクハットをかぶってコートを着た御者が座っている。
全体的にエレガントな雰囲気を漂わせている。
私が凄いなぁと感心して見ていると、父さまがつぶやいた。
「どこの貴族だ……?」
開拓地らしからぬ立派な馬車は貴族の馬車らしい。
父さまは幌馬車を立派な馬車から少し離した位置に止めた。
ジュリアンさんの開拓村は、私たちの村と同じ規模だった。
掘っ立て小屋と畑と井戸。
他には何もない。
貴族の馬車が来ているせいか、村人たちが集まっている。
みんな痩せていて、血色が悪い。
少し前のキャロライン村を見ているようで、心が痛んだ。
掘っ立て小屋の扉が開いて、中から貴族服を着たジュリアン様が出て来た。
ボロい家と立派な服がやたらちぐはくに感じる。
「ジュリアン!」
笑顔の父さまが片手を上げてジュリアン様を呼ぶと、ジュリアン様は間の悪そうな顔をしたがすぐに貴族的な笑顔を貼付けた。
「やあ、アラン。来てくれたのか。ということは、支援をしてくれるのかな?」
「うん、そのことだが――」
家の扉が開いた。
四、五歳の水色のドレスを着た女の子とメイドの女の子だ。
私は、『開拓村にそぐわない』と思いつつも、女の子の可愛さにみとれた。
水色の髪だが瞳の色が黒いので、元日本人の私は親近感を覚える。
ただ、表情は冴えない。
女の子はトボトボとこちらに歩いてくるとジュリアンさんに伏し目がちに話しかけた。
「お父様……支度が出来ました……」
「うん……。ああ、アラン! 紹介しよう。私の娘シャルロットだ」
女の子の名前はシャルロット様。
父さまはシャルロット様に、笑顔で挨拶をした。
「はじめまして。シャルロット嬢。私はお父様の友人で、ラ・ファール男爵家のアランです。このようなくだけた格好ですが、開拓地につきご容赦ください。こちらは私の娘のキャリーです」
「はじめまして。アラン様、キャリー様」
シャルロット様はスカートの端をつまんで上品に礼をした。
すっ……すごい! 貴族のお姫様だ!
私はシャルロット様の真似をしてみる。
「はじめまちて、シャルロットしゃま。あっ!」
バランスを崩して転んだ。
父さまや同行してきたヨーナスたちが『ブホッ!』と吹き出した。
子供は頭が大きいからすぐにバランスを崩すんだよ! 仕方ないんだよ!
貴族令嬢らしい挨拶は持ち帰り案件にして、母さまに教えてもらおう。
父さまが辺りを見回し、ジュリアン様に聞いた。
「ジュリアン。奥方にもご挨拶をさせてくれ」
「……」
「ジュリアン?」
「アラン。妻は冬に亡くなった」
「なんだって……!?」
父さまと私は息を飲んだ。
私はすぐにシャルロット様を見る。
シャルロット様は沈んだ顔で立っていた。
シャルロット様は見た感じ、四歳か五歳だと思う。
日本なら幼稚園や保育園に通っている年齢だ。
母親を亡くしたのは辛いだろう。
転生する前、私も母がいなかった。
死んだわけではない。
私を置いて出て行ったのだ。
私はシャルロット様に同類意識を持つとともに、今生活しいてる異世界では母さまがいることに申し訳なさを感じた。
父さまがやっと言葉を発した。
「ジュリアン。知らなかったとはいえ、申し訳ない。無神経なことを口にした」
「いや、アランは悪くない。それで……、シャルロットがこれから王都へ向かうところで……」
「何!? どういうことだ!?」
「知っての通り、我が領地は小麦が不作だった。シャルロットに食べさせるパンがない」
「それはっ――!」
「別にアランを責めているわけではない。領主たる私の不徳の致すところだ。そこで、実家にシャルロットを預かってもらえないかと打診したのだ」
「では、この馬車は?」
「妻の実家が遣わせた」
「奥方の……?」
私は黙って父さまとジュリアン様のやり取りを聞いていた。
父さまはなるたけ穏やかに話そうとしているが、怒っているのがわかる。
多分……『なぜ、もっと早く言わなかったんだ』とジュリアン様の水くささに腹を立てているのだろう。
とはいえ、ここは新領地の開拓村だ。
本当に狭い世界なのだ。
ジュリアン様は自分の領地のことで精一杯だったに違いない。
しょうがないよ。
「妻は伯爵家の側室の娘だ。私は実家にシャルロットを預かってもらえないかと手紙を書いた。実家は子爵家だからな。妻の実家にお伺いを立てたのだろう」
「それで伯爵家が馬車を……? 大事過ぎないか?」
ジュリアン様の亡くなった奥様は、側室の娘……。
正室の娘ならわかるけど、側室の娘ってそんなに大切なものなのだろうか?
わざわざ新領地に馬車を差し向けるほど?
「シャルロットの髪の色は水色、瞳は黒だ」
「水と闇……。二属性の可能性があるわけか……」
えっ……、どういうこと?
肉親の情でシャルロット様を預かるんじゃないの?
シャルロット様が水属性と闇属性の魔法使いになれる可能性があるから、利用価値があるから伯爵家で預かるってこと?
私は貴族社会のドライな部分に触れて、とても悲しくなった。
同時に、シャルロット様が心配になった。
「ジュリアン。すまん。本当に悪い時に来た」
「ここは新領地だ。王都のように先触れを出すことも出来まい。気にしないでくれ。シャルロット。私はアランと話があるので、キャリー様とお話をしていなさい」
「わかりました。お父様」





