第33話 隣の領地へ
ジュリアン・ジュベールさんが訪問した五日後。
ジュベール領へ向けて、キャロライン村から幌馬車が出発した。
幌馬車の御者台に乗っているのは、父さまと私。
「父さま、遠いですね」
「うん、まだかかると思うよ」
母さまは、お腹に赤ちゃんがいるから留守番だ。
荷台には護衛としていつも狩りの手伝いをしているヨーナスたち若い男衆が四人乗っている。
護衛といっても剣や鎧は持っていないので、四人ともボロ着のままだ。
何があるかわからないので、父さまが同行を命じたのだ。
幌馬車の荷台には、小麦と大麦の袋が載せられている。
ジュベール領への支援物資だ。
五日前、ジュリアンさんが帰った後、自宅で父さま、母さま、私で話し合いの続きをした。
父さまと母さまは、ジュリアンさんが闇魔法を使ってそばにいたことを、ベルから聞かされると深いため息をついた。
「すっかり忘れていたが、ジュリアンは闇魔法の使い手だったよ」
「盗み聞きは感心しないわね……」
「そうだね……。まあ、しかし、それだけジュリアンは追い詰められているのだろう」
父さまと母さまとしては……。
・貴族のお付き合いがあるので支援の申し出を断るのは難しい。
・キャロライン村が現在の余裕のある状況になるまで苦労があったので、食糧支援は無償に出来ない。
ということだった。
私は父さまと母さまが、領地経営者として冷静に判断していることに安心した。
私からも少し意見をさせてもらった。
・私の魔力や努力はタダではない。
・妖精のベルの力添えや守り木があってこそ、村が豊かになった。
・何かしら対価を得て欲しい。
父さまと母さまは、私の意見をもっともだと受け入れ、私とベルの貢献を感謝してくれた。
そして、『無償で食糧支援はしない』と決まった。
とはいえ、ジュリアンさんはお金がない。
お金がないからニューゲートの町で食糧を買うことが出来なかったのだ。
冬まき小麦が不作だったということは、他の食べ物――野菜や果物と交換するのも難しいだろう。
そこでジュリアンさんの村へ様子を見に行くことになった。
とりあえず無理のない分量の食糧を幌馬車に積んで、最悪の場合は貴族同士の貸し借りにする。
「タダで頼み事を聞いてしまって、また来年もよろしくなんてことになったらたまらないですからね」
と母さまがため息交じりにこぼしていた。
幌馬車はゴトゴト走る。
馬が二頭になったので、乗員が増えて荷物を載せていても楽勝で走ってくれる。
「ジュリアンの領地に金でも埋まっていればなぁ」
父さまはぼやくが、そんな夢みたいな話はないだろう。
私は現実的なのよ。
ジュリアンさんの村は、位置としてはキャロライン村の西にある。
でも、直通の道はない。
なので一度ニューゲート方面に北上して、途中で南西に向かう。
逆Vのコースを走るそうだ。
父さまによれば、時間は半日弱くらいだろうと。
「父さま、村はお隣に作った方が良かったと思う」
「そう思わなくもないけど、国に指定されたんだよ」
「国に?」
「そう。この辺り一帯はお父さんの領地なんだ。そして村はこの辺りに作りなさいと国に指定されているんだ」
父さまの話をまとめると、国は新領地を碁盤の目のように区切った。そして開拓を成功させて新領地を富ませるようにと、人を募集して送り込んだ。
「まあ、そんな簡単に開拓が上手く行くわけないよな。今、考えると村を隣接して助け合った方が良かったかもしれない。とはいえ領地ということになればある程度の広さは必要だし、難しいところだね」
そんな事情があったのかと私は聞いていた。
そしてしばらくすると父さまがぼやく。
「ジュリアンの領地に宝石でも埋まってないかなぁ」
そんな物が埋まっていたら苦労はしない。
父さまは、ちょっと思考が現実逃避している。
タダで取り引きしないと決めたのは良いが、じゃあ対価は何にするのかというところで悩んでいるのだ。
私はちょっとアドバイスをさせてもらった。
「にゃにか教えてもらうのは?」
「うん? 何か教えてもらう……? そうか! 情報という手があるな!」
そうそう。ジュリアンさんが何か役に立つ情報を知っているかもしれない。
形のある物だけが対価ではないよ。
貴族同士の貸し借りでも良いけど、手ぶらで帰るのはねぇ。
母さまが怖いよ?
「うん、そうだな。キャリーありがとう」
「あい!」
こうして父さまが前向きになり馬車が進み、昼前にジュリアンさんの開拓村に到着した。





