第32話 情報漏洩を防げ!
父さま、母さま、私、妖精のベルは、家にジュリアン・ジュベールさんを残して、外に出た。
裏の畑の脇にある守り木のところで、父さまと母さまが話し始めた。
私は母さまに抱っこされたまま、ベルは守り木の枝にゴロリと横になっている。
「まさかジュリアンに食料を無心されるとは思わなかったよ」
「そうね……」
「失敗したな。牛やニワトリを見られた。村の北側は良くなかったかな?」
「どうかしら……。でも、魔の森から離しておかないと……。家畜が魔物に襲われたり、間違えて魔の森に家畜が近づくかもしれないもの」
「そうだよね。とすると、やはり北側にして正解か……」
「まさかジュリアン様が来て、食糧支援を申し込んでくるとは予想出来ないわ」
「そうだね……」
私としては、父さまが安請け合いしなくて良かった。
ジュリアンさんが、やたら父さまをヨイショしていたので、気持ちが大きくなってしまった父さまが食糧支援を約束してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていた。
まあでも世界が違っても、他人を利用しようとする人の雰囲気って似てしまうんだな。
私はほろ苦い気持ちになるとともに、父さまに同情した。
これならもっとストレートに、『助けて欲しい』と言われる方が、私は良かったな。
父さまと母さまは話を続けている。
「今年の冬まき小麦は豊作だったよね?」
「ええ。随分、余裕があるわ。大麦も良かったわ」
「今は野菜の種まきをしているから秋には収穫できる。燕麦の種まきもしているので、家畜の餌の心配もない」
「でも、ジュリアン様を支援するなら、春蒔き小麦もやっておきたいわね」
「そうだな……。ここの気候なら春蒔きでも大丈夫だろう」
私は口を出さずに、黙って聞いていた。
これは領地と領地の問題だから、私が口を出すのは良くないと思ったのだ。
キャロライン村の中の問題なら身内の問題だから、私が口を出しても良い。
けれど、今回の食糧支援のケースは、下手に私が口を出して、父さまとジュリアン様の仲がこじれてしまっては困る。
それにジュリアン様の実家の子爵家、父さまの実家の男爵家、母さまの実家の騎士爵家の力関係もあるだろう。
私は貴族の力関係はわからない。
だから下手に口出しはしない方が良いと思う。
でも、心配は心配だ。
私は実家関連のことを考えていると、父さまと母さまが実家について話し出した。
「あなたのラ・ファール男爵家は、ジュリアン様のジュベール子爵家と懇意なの?」
「いや、僕とジュリアンは学生時代に仲が良かったけど、実家同士の付き合いはほとんどないよ。パーティーで会えば挨拶をするくらいだね」
「じゃあ、あまり実家は考慮しなくて良いかしら?」
「うーん……、けれど子爵家だからね……。僕らの実家からすれば格上だよね……。無用な波風は立てたくないな」
「確かにそうね」
私としては、出来れば断って欲しい。
キャロライン村も余裕が出来たのは、偶然私が守り木を誕生させて、私のスキルで資金を作ったからだ。
それまでは貧しくて、本当に食うや食わずだった。
今は村の拡張に力を入れているけど、食料生産は生もの、お天気任せで流動的な部分が大きい。
守り木によって豊作が約束されているといっても、何が起こるがわからない。
それこそ火事で守り木が燃えてしまうとか、魔物の襲撃で畑がグチャグチャにされてしまうとか。
予期せぬアクシデントがあったら、村がどうなるかわからない。
そんな状況で、他所の村に手を差し伸べるのはどうかなと思う。
もちろん人助けは尊い行為だけど、私たちキャロライン村で困っている開拓村全てを助けられるわけじゃない。
それに私の努力も魔力もタダじゃない。
父さまのお友だちだからって、タダで食糧支援をするのは気持ち的に受け入れがたい。
「キャリーはどう思う?」
そんなことを考えていたら、父さまに話を振られた。
聞かれたからには答えて良いだろうと、私が自分の気持ちを告げようとした。
だが、ベルから念話が入った。
『キャリー! 話すの待って!』
ベルの念話は、かなり鋭い口調だ。
どうしたのだろう?
『ベル、どうしたの?』
『さっきの男が近くにいるよ』
『は……?』
私は驚いて目を大きく見開いた。
辺りを見回すが、父さまと母さま以外誰もいない。
『ベル! ジュリアンさんがいるの!?』
『そう。守り木の後ろにいるよ』
守り木の後ろということは、私と母さまの背後だ。
でも、父さまからは見えるはず。
『えっ!? なぜ父さまが気が付かないの!?』
『闇魔法で気配を隠蔽してるの』
『なっ――!?』
『話の最初のあたりからいたよ。キャリーが変なことを言い出したら不味いから止めた』
『あ、あ、ありがとう。けど、何で?』
『さあ? 盗み聞きじゃない?』
盗み聞きって……!
私は動揺しながらも、父さまと母さまの会話を思い出した。
他の人に聞かれて困ることは話してないはずだ。
私の変換スキル、守り木、桃とリンゴの取り引き、ぶどう畑……、うん、話していない。
小麦の話や実家の貴族同士のお付き合いについて話しただけだ。
ジュリアンさんは闇魔法で気配を消しているというが、ベルの目は誤魔化せなかった。
なんでそんなことをするんだろう?
いや……、でも……、自分たちの生死がかかった問題なのだ。
スパイ行為くらいやるかも……。
とにかくこれ以上情報を出さないこと。
今はそれが大事!
私は父さまと母さまに呼びかけた。
「父さま、母さま」
そして人差し指を立てて、唇に当てる。
――黙って!
私の意図は二人に伝わったみたい。
父さまは目元の表情が微妙に変化したし、母さまは私を抱く腕に力が入った。
「わたち、おなかが、しゅいた」
私は無邪気な子供を装って空腹を訴える。
空気を読んだ父がすぐに答えた。
「そうか、そうか。話はここまでにして、返事は後日にしよう」
私は情報漏洩を防げたことでホッとした。





