第31話 違和感の正体
父さまとジュリアンさんが家に向かおうとする。
私は何となくジュリアンさんに違和感を覚えたので、ベルに念話を飛ばした。
『ねえ、ベル。母さまに伝えて来てくれる? お客様が来るけど、ちょっと怪しいから砂糖やてん菜は隠してくれって』
『わかった~』
ベルはすぐに家へ飛んでいった。
私は父に抱っこされて、父さま、ジュリアンさんと家に向かった。
「マリーさん! お久しぶりです! 以前、王都でお目にかかった時と変わらずお美しい!」
「まあ、ジュリアン様はお上手ですね! 学生時代の話じゃないですか!」
ジュリアン・ジュベールさんが家に来た。
家……といっても、せいぜい小屋なのだ。
それでも私がきれいなジャ○アン魔法――過剰な生活魔法クリーンをかけたので、相当きれいになっている。
お客様が来るなんて思っていなかったけど、いざお客様が来てみるときれいなジャ○アン魔法をかけておいてよかった。
ドヤった感じはムカつくんだけどね。
ちなみにドヤった感じは、一日経てば沈静化するよ。
永遠にきれいなジャ○アンじゃ、さすがに生活に支障が出てしまう。
さて、ジュリアンさんは、母さまとも面識があった。
話の流れからすると、父さま、母さまとジュリアンさんは、学生時代からのお友達のようだ。
ジュリアンさんと父さまが椅子に座り、母さまがお茶を淹れる。
しかしティーカップなんて高価な物はウチにはない。
木のカップだ。
お茶だって紅茶じゃない。
近くの森で摘んできたハーブティーだ。
「こんなもので申し訳ありません」
「いえ、お気づかいなく。開拓地では良い茶葉は手に入らないですから。私の村でもハーブティーを飲みます。馬で来たので喉が渇いていたのでありがたいです」
ジュリアンさんは、ニッコリ笑ってハーブティーを飲んだ。
まあ、不味くはないけど、美味くもないらしいよ。
ハーブティーとは言っているけど、その辺の香りの良い草を乾燥させただけだからね。
私はジュリアンさんの隙を見て家の中を見回した。
他所の人に見られて不味い物は……ないね……。
母さまはベルの伝言を聞いて、砂糖やてん菜を隠してくれたようだ。
まあ、父さまと母さまのお友達なら変な人ではないと思うけど、念のため警戒しておこう。
私は母に抱かれ、母も椅子に座った。
取り留めのない学生時代の思い出話。
開拓村での苦労話が続く。
どうもジュリアンさんは子爵の息子で、父さまと同じように新貴族、つまり開拓村を治めているようだ。
私は黙って母に抱かれて話を聞いているのだけれど、何だろう? 違和感が消えない。
ベルをチラッと見ると、父さまの椅子の背に座って足をブラブラさせている。
ベルに念話を飛ばしてみる。
『ねえ、ベル。ジュリアンさんに不審な点はない?』
『えー、わかんない』
ベルの『まったく興味がない』というニュアンスの『わかんない』が返ってきた。
ということは、あからさまに怪しいとか、極論だけど私たちを害するとか、そういうことはないのだろう。
そこまで危険度が高い人物なら、ベルが何かしら気が付くと思う。
興味がないなら、逆に脅威度は低いと判断して大丈夫だ。
じゃあ、この違和感はなんだろう?
私は大人の話に退屈した子供を偽装して、話を聞き続けた。
「しかし、この家は随分きれいだね!」
「ハハ。いや、狭い家だよ。王都の実家とは比べものにならない」
「それは私の家もそうさ。でもアランの家は、床材に随分良い木を使っているようだね。壁も磨き上げられているし、お金をかけたね」
「ええと、いや。そんなことはないさ」
「失礼ながらアランの領地経営手腕がこんなに長けているとは思わなかったよ。開拓地でアランの才能が開花したんだね。おめでとう」
「ありがとう」
なんだろう?
違和感が強まる。
何か父さまを持ち上げすぎだし、ジュリアンさんの表情も何だかウソ臭い。
物凄い胡散臭い。
「ジュリアンの領地はどうなんだ?」
「それが……冬まき小麦が不作でね……」
「それは大変だな」
「そこで相談なんだが……、食料を融通してくれないだろうか?」
「え?」
「私の領地を支援して欲しいんだ。アラン、頼むよ」
これか! 違和感の正体は!
社会人になって学生時代の友人から『会いたい』って連絡が来たのよ。
たいして仲良くなかったけれど、一応会ったのね。
仕事の後、喫茶店でお茶をしたの。
やたら熱心に私の話を聞いてくれて、やたら私を褒めるのよ
『あなたの夢を聞きたい』
『素晴らしい夢だと思う』
『あなたの夢を応援したい』
そして突然変なことを言い出した。
『この鍋を買って、知り合いにも鍋を勧めると、あなたの夢はきっと叶う!』
何かマルチビジネスみたいなのだった。
いや、ジュリアンさんはマルチビジネスを勧めにきたわけじゃないけどね。
父さまに頼み事をしただけ。
けれど、雰囲気がマルチビジネスを勧めてきた同級生にそっくりだった。
いやいや、待って!
頼み事は領地への食糧支援だから規模が大きいよね。
多分、ウチみたいな開拓村だろうから、百人分の食料を支援してくれとジュリアンさんは言っている。
私は心の中で『うわ~』とドン引きしていた。
父さまはどうするのかなと、私は心配して見ていた。
「ジュリアン。ニューゲートの町で食料を買い付けたらどうだ?」
「資金がないんだ」
「ご実家に支援を要請しては?」
「うん、実家へ手紙を送ったよ。だけど、すぐに手配されるとは限らないだろう? 実家には実家の都合があるし、送金するとなると時間がかかる」
「うーん……、それはそうだね……」
ジュリアンさんは懐具合が相当厳しいらしい。
私たちのキャロライン村もひどかったから気持ちはわかる。
けど、どうかな……。
食料を売ってくれじゃなくて、支援してくれなんだよね。
これっていわゆるクレクレなのかな?
父さまは難しい顔をした。
「ちょっと待っててくれるかな? 家族と相談させてくれ」





