第30話 ジュリアン・ジュベール
――翌日。
私は唇を尖らせていた。
「むう!」
「キャリーが機嫌悪いの珍しいね」
妖精のベルだ。
ベルは人の営みには興味ないが、私には興味がある。
私とベルがいるのは、町の北側にある丘の上だ。
町の北側は畜産エリアになっていて、牛、馬、ニワトリがいる。
父さまは、魔の森から一番離れた場所を畜産エリアに設定した。
貴重な家畜を魔物に襲撃されたら困るからだ。
父さまはというと、村民を指揮して北側に新しく作った畑に燕麦をまいている。
燕麦はオーツ麦やオート麦ともいう。
家畜の餌になる穀物で、人が食べる時はオートミールにもなる。
何で知っているかと、前世日本のダイエットブームでオートミールが流行ったんだよね。
日本ではあまり馴染みがないけど、ヨーロッパでは昔から栽培されていたそうだ。
父さまは食用としてではなく、家畜の餌として燕麦を育てている。
今、種まきすれば、秋には収穫できる。
ちなみに種は、ニューゲートの町のメゾン・グラディスで仕入れた種だ。
私は丘の上にチョコンと座って、父さまたちの作業を見ている。
ベルがパタパタと顔の前に飛んできた。
「バターが出来るっていってたから楽しみじゃない? 機嫌直しなさいよ」
「でも、ぶどうがダメ」
父さまが本国から引き連れて来た開拓団――キャロライン村の村民は、元々父さまの実家であるラ・ファール男爵領の住民だ。
ラ・ファール男爵領では畜産が盛んだったそうで、みんな家畜の世話はお手の物だ。
牛乳からバターを作ってくれるそうだ。
パンにバターは嬉しい。
これでまた食生活が充実する。
一方、問題発生はぶどう。
ラ・ファール男爵領ではぶどう農家は少ないらしく、キャロライン村ににぶどう栽培の経験者がいなかったのよ。
それで父さまはぶどう畑を後回しにして、他の畑仕事を優先してしまった。
「しぇっかく材木を用意したのに!」
「まあ、まあ――あっ、馬が来るよ」
ベルが高く飛び上がった。
ベルは目が良い。
私には見えないけど、北の方から馬が来るらしい。
何かなぁと見ていると、徐々に馬が近づいてくる。
馬は歩いているので、急ぎではないようだ。
しばらくすると馬上の人が見えた。
若い男性、イケメン、紺色の貴族服を着ている。
畑で作業している父さまたちも馬に気が付いた。
「やあ! アラン! 久しぶり!」
「ジュリアン! ジュリアン・ジュベールじゃないか!」
父さまが笑顔で畑から駆け出し、ジュリアンと呼ばれたイケメンは馬から下りた。
「久しぶりだな! ジュリアン!」
「アラン。君は元気そうだな。領地経営も順調そうじゃないか」
「はは、まあ、何とかな!」
「いやいや、牛とニワトリなんて凄いぞ!」
「うん、まあね」
「今は何をまいているのだ?」
「燕麦だ。このあたりは燕麦にしようと思ってね」
「なるほど。家畜の餌だな。さすがアランだ! 考えているな!」
「いや、まあな」
久しぶりに会った友人同士で話が盛り上がっている。
父さまはジュリアンさんに褒められて照れくさそうだ。
父さまが手招きするので、私はよちよち歩きで二人のそばに行く。
「ジュリアン! 紹介しよう。娘のキャリーとキャリーのフェアリーのベルだ」
「はじめまちて、キャリーでしゅ」
私が舌っ足らずに挨拶を述べると、ジュリアンさんは屈んで私の頭をなでてくれた。
「ありがとう。私はジュリアン・ジュベール。お父様のお友達だよ」
近くで見たけど、やっぱりイケメンだ。
柔らかそうな少しくせっ毛の黒髪に黒い瞳。
魔法を使えるのかな?
とすると髪と瞳の色から考えると闇魔法とか?
ジュリアンさんは立ち上がり、感心したように腕を組み何度もうなずいた。
「いやあ、まだ幼いのにフェアリーがついているのか。魔力の量も物凄いし、末恐ろしいな……」
「まあ、とはいえ、キャリーは光属性なんだ」
「あー、なるほど!」
そう。私は金色の髪に金色の瞳。
誰がどう見ても光属性。
そして、光属性の魔法はライトで攻撃魔法はない。
だから魔力量が莫大でも魔法使いとしては大成しない、使い道がない――と、ジュリアンさんは思ったはずだ。
「フェアリーと魔力量の件は内密に頼む。あまり言い触らされては、良くないからな」
「もちろんだ」
父さまが、しっかり口止めしジュリアンさんも請け負ってくれた。
「ここで立ち話もなんだ。家に来てくれ。マリーにも会ってくれ」
父さま、私、ジュリアンさんは、家へ移動することになった。
――私はジュリアンさんの態度に違和感を覚えた。





