第22話 商会でゴンゴンと釘を打つ
最後は桃とリンゴを売りに行く。
私たちは、商会メゾン・グラディスを訪れた。
すぐに応接室に通されて、お茶が出てくる。
父さまは笑顔で紅茶を楽しんでいる。
家では水だもんね。
今度、大麦で麦茶を作って見ようかな。
私も父さまにフーフーして冷ましてもらって紅茶を飲んでみた。
「にぎゃい!」
うわ! まだ舌が子供だから紅茶が苦く感じる!
苦さの中の甘味を感じられない。
というより、苦味が先立ってしまう。
まだ味覚が未発達なんだね。
残念!
応接室で待っていると支店長のカーベルさんが入って来た。
挨拶を交すとすぐに商談だ。
父さまが肩から提げていた皮の鞄をカーベルさんに差し出した。
この皮の鞄はただの鞄じゃない。
マジックバッグなのだ。
マジックバッグは重量が軽くなり、時間が止まる。
見た目より沢山荷物が入る。
魔法がある世界だから凄いね。
桃はどこかにぶつけると傷んでしまう。
そこでカーベルさんはマジックバッグを貸し出してくたのだ。
カーベルさんはマジックバッグに手を入れた。
手を入れると入っている物がわかるそうだ。
「おお! 今回は桃の量が増えましたね! 王都で人気商品となっておりますので、大変ありがたいです!」
「それは良かった」
「代金はいかがいたしましょう? 前回と同じくお酒になさいますか?」
カーベルさんはニッコリ営業スマイルでお酒を勧めてくる。
村の男性はお酒が大好き。甘い誘惑だ。
これで前回はやられたんだな……。
私は小さな手で父さまの太ももを叩いた。
そして父さまから交代する。
「カーベルしゃん」
私が舌っ足らずに呼びかけると、カーベルさんは意外そうな顔をして私を見た。
父親にくっついてきた幼い女の子が話し出すとは思わなかったんだろうね。
「はい。お嬢様。何でございましょう?」
「前回の取り引きで、母さまがカンカンに怒りました。メゾン・グラディスは、コツコツ稼いだお金を巻き上げるのかと……」
私はジトッとした目で、カーベルさんを見る。
カーベルさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに営業スマイルに戻った。
「いえいえ。巻き上げるなどと、そのような意図はございません。お嬢様、日々のお仕事の疲れを癒すのに、大人はお酒を飲むのです」
あっ! カチンと来たぞ! 子供扱いした!
いや、現実的にまだ二歳の幼女だから仕方ないけど、中身は元日本の会社員だからね。
私は声を荒げず、淡々とカーベルさんを詰める。
「母さまが怒っていたとお伝えしましたが? 私の判断ではなく、母さまの判断をお伝えしたのですが、聞いていなかったのでしゅか?」
「いえ! きちんと聞いておりました!」
「開拓村の大変さはカーベルさんもわかっていますよね?」
「それはもちろん存じております」
「でしたらお酒より先に必要な物がある……とわかりますよね? 父さまと母さまは貴族の子供でしゅが、こんな何もない辺境にぶち込まれて食うや食わずの生活をしているのでしゅよ」
「あの……左様でございますね……」
「高級ワインを楽しめるような状況ではないのでしゅよ」
「おっしゃるとおりでございます……」
幼女に詰められるオッサンという異様な図式だけど、ここはキチンと詰めておかないと何を売りつけられるかわからないからね。
カーベルさんはハンカチで汗を拭き、父さまは気配を消して無に徹している。
そして妖精のベルは、応接テーブルに両足を投げ出して座り、相撲の砂かぶり気分で私とカーベルさんのやり取りをニマニマしながら見ている。
野次馬根性で面白がってるね
「カーベルしゃん。母の言葉を伝えましゅ。『実家と取り引きしている商会に乗り換えるわよ』、以上でしゅ」
「ちょっ! ちょっと! お待ち下さい! 他所の商会に持ち込むのはどうかご容赦を!」
私は容赦なくゴンゴンと釘を刺した。
まあ、母さまは怒っていたけど商会を変えるとまでは言ってない。
私のハッタリだよ。
けど、結構効いたみたいで、カーベルさんは焦っている。
これで高い酒を売りつけてくることはないでしょう。
「いやぁ。新しい商品も開発したので、取引先を変えても良いかなぁって」
「新しい商品でございますか……?」
カーベルさんが前のめりになる。
私は父さまの膝をペチペチと叩く。
父さまが懐から小さなガラス瓶を取り出した。
ガラス瓶の中にはてん菜から作った砂糖が入っている。
「試してみたまえ」
父さまに促されてカーベルさんは、ガラス瓶を手に取りコルクの蓋を開けた。
トントン手のひらに砂糖をのせ、そっと口に含んだ。
「これは……!? まさか……!? いや、しかし!」
私と父さまは、期待通りのリアクションにニンマリと笑う。
「そりぇは、砂糖でしゅ」
「砂糖の開発に成功したんだ。今後、量産と品質の向上を行う」
「本当ですか!? 砂糖は南国でしか生産出来ないはずですが……」
「どうやったかは内緒でしゅ」
私はシュビ! っと、小さな指を唇に当てた。
カーベルさんは、ガラス瓶の中の砂糖を見てうなる。
「それは……そうでしょうな……」
「しゃて、カーベルしゃん。わたちたちキャロライン村で必要なもにょが色々あるのでしゅが?」
「喜んで承ります……」
私はカーベルさんに色々と要求した。





