第20話 神の子
「ふうぅぅぅ……」
私はゆっくりと息を吐いた。
小さな手を握ったり開いたりしてみる。
全身に魔力が行き渡っているのがわかる。
なるほど。
魔力の蓋とは言い得て妙だ。
今までの私は蓋から漏れ出している魔力をチョボチョボ使っていただけなのだ。
今までの魔力をゲームのようにMPに例えると、MP60くらいだった。
けれえども今は桁違い。
それもMP100とか200とかいうレベルじゃない。
MPが6000とか、ひょっとしたら60000とか。
売るほど魔力があるよ!
そして、自分が光属性の魔法が使えるのだということも感覚的にわかる。
これでバンバン魔銃を撃てるし、魔法でもっと便利に暮らせそう。
私は再び神様に祈った。
――ありがとうございます! 授けていただいた能力で家族を幸せにして、村のみんなも幸せにしますね。
私は神様にお礼を伝えた。
さて、帰ろうと思って目を開けると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
ペイラマール司祭が涙を流して私を拝んでいるのよ!
両手を開いて映画プ●トーンみたいな感じで。
「おお……! 神よ……! 神の子よ……!」
えっと……神の子って私!?
一体何が!?
父さまに助けてもらおうと思い、父さまに視線を移す。
すると父さまも目と口を開いて、唇をわなわなさせているし……。
どうした!?
ベルを見ると、満足そうな表情で普通にホバリングしている。
私はベルに念話を飛ばした。
『ねえ。ベル。これ、どうなってるの?』
『さっきキャリーが祈っている時にね。女神様が見えたんだよ!』
『ええっ!? 女神様!?』
私は念話の中で絶叫した。
『女神様が見えた!? もうちょっと詳しく教えて!』
『キャリーが祈りだしたら天井から柔らかい光が降り注いだの。それからキャリーの頭の上に女神様が見えたんだよ』
『……』
はぁ~。魔法が存在する不思議世界だけど、まさか女神様が降臨するとは思わなかったよ。
それは……司祭様としては祈らずにはいられないよね。
奇跡の目撃者になったわけだし……。
『いや……、でも……、私は女神様を見てないよ。目を開いたら金色のキラキラした光が降り注いでいて……』
『そうなんだ。優しく微笑んでいたよ。良かったね!』
良かったねじゃないんだけどなぁ。
悪目立ちし過ぎ!
『なんでベルは平然としてるの?』
『そりゃ、キャリーは守り木の主だもの。魔力が多いのは当然だし、女神様に可愛がられるのも当然でしょう?』
『そ、そうですか……』
私は内心『ノー! ノー!』と叫んで身もだえる。
ただでさえ『変換スキル持ちの異世界転生者』なんて、特殊な人間なのに、さらに『女神降臨!』なんて!
宗教に熱心な人に目をつけられたりしたら大変だ。
私は父さまのところにトテトテと歩いて行った。
「父さま。司祭様に内緒にしてもらった方が……」
父さまは私が声を掛けるとハッと我に返った。
「そ、そうだな……。今の出来事は、あまりにも……。うん、うん……」
父さまはペイラマール司祭に歩み寄り、両手を広げて涙を流す司祭を立ち上がらせた。
「司祭殿! 今、見たことは、どうかご内密に!」
「いや、しかし! 女神様が降臨されたのですぞ! こんな素晴らしい奇跡を秘密にするなど――」
「娘はまだ二歳です! 女神降臨の話が広まったら、どんなことが起こるか予想出来ません。身柄を狙われるようなことがあったら困ります!」
「むむ……! 確かにそれは心配ですね……。わかりました。今、起きたことは口外いたしません。しかし、本部には報告をいたしますよ」
「司祭殿にも立場がおありでしょうから、本部への報告までは止めませんが……。なるたけ少数の方への報告に抑えていただきたい」
「それはもちろんです!」
父さまは真剣な顔でペイラマール司祭を説得してくれた。
まあ、本部に報告するのは止められないよね。
「今日は手持ちがございませんので、明日取り引きのあとに寄らせていただいて寄付をさせていただきます。今日はこれを女神様のお供えに」
父さまは桃を司祭様に渡した。
私がスキルで生み出した桃だ。
司祭様は桃を手にすると、嬉しそうに匂いを吸い込み、笑顔になった。
「これは素晴らしい桃ですね!」
「我が領地の特産品です。商会のメゾン・グラディスが『天使の桃』と名付けてくれました」
「父さま!」
「あっ……」
父さまがドヤ顔で『天使の桃』といった瞬間、ペイラマール司祭がまた涙を流し始めた。
どうやら天使という言葉がペイラマール司祭の琴線に触れてしまったらしい。
「素晴らしい! 女神様のご降臨と天使の桃!」
「あちゃ~!」
ペイラマール司祭は感極まり、神様を称える言葉を次々に口にした。
それも装飾過剰の文章で、私は聞いていていたたまれなくなった。
「父さま……次へ行きましょう……」
「そ、そうだな……」
父さま、私、ベルは、ペイラマール司祭を放っておいて、そーっと教会を後にした。





