第18話 父さまと二人旅
――翌日。
父さまと私は、ニューゲートの町へ幌馬車で向かう。
母さまは妊娠中なので留守番だ。
マーサおばさんとヨーナスが、母さまのサポートを請け負ってくれた。
村人たち全員が見送りに来てくれた。
母さまが私に注意をする。
「キャリー。お父様の言うことを聞いて良い子にするのですよ」
「あい!」
「あと……お父様がいっぱいお酒を買おうとしたら止めてちょうだい」
「まかせて!」
私は胸をドンと叩き、フンスと鼻息を荒くする。
マーサおばさんが父さまにお小言を言う。
「本当に領主様。無駄遣いはなりませんよ。お子様が生まれるのですから、塩、布、食用の油をお願いしますね」
「ああ、マーサ。わかっているよ」
マーサおばさんのお小言を聞いて、村の男性陣が首をすくめる。
私も村の男性をジロリと見る。
なぜ、こんな風なのかというと……。
父さまは前回の取り引きでお酒を買ってきたのだ。
それも大量に。
父さまは三月に一回、つまり季節ごとにニューゲートの町へ取り引きに行っている。
私と母さまも一緒だ。
しかし、前回は母さまが体調不良で――今思うと、母さまは妊娠初期で体調を崩したのだと思う――私と母さまは留守番した。
そこで父さまは一人でニューゲートの町へ行った。
そしたら桃とリンゴを売ったお金でお酒を買ってきたのだ。
エールと呼ばれるビールみたいなお酒にワインとウイスキーを大量にね。
それも結構良い酒が混じっていて、お金を全部使い切ったらしい。
いや、お酒を買うなとは言わない。
村人だってストレスもあるだろう。
ようやく食うや食わずの生活から抜け出しつつあるのだ。
お酒が飲みたい気持ちもわかる。
村人の不満解消、ガス抜きにもなるだろうし、領主として領民に酒を振る舞うのは、ダメじゃない。
けどね。
取り引きしたお金を全額酒に回すのはやりすぎだよ。
父さまもお金が手元にあったので、気が大きくなっちゃったんだろうね。
母さまに叱られていた。
だから、お目付役として私が一緒に行くことになったの。
もちろん、ベルも一緒だ。
私としては好都合。
色々聞きたいこともあるし、開拓村の発展について話し合いたいこともある。
正直、父さまの方が母さまより鈍感だから話しやすい。
私が転生者であることを気付かれたくないから。
それに父さまと二人で旅行するのは嬉しい。
前世ではひどい父親だったから、一緒に旅行なんてしたことがない。
父さまを独占だ!
幌馬車がニューゲートの町へ向かう。
幌馬車を引くのは村に一頭の赤毛馬で、ベルはお馬さんのお尻にチョコンと座っている。
私はといえば、御者台に設えられた藁で編んだ籠が定位置だ。
お尻がいたくならないように、マーサおばさんが籠を用意してくれて、籠の持ち手と御者台を上手い具合にロープで固定してくれた。
父さまが御者台で馬の手綱を握り、幌馬車はテコテコと進む。
草原と丘陵地帯が続き、轍だけが続く道が地平線の向こうへ続いている。
私は父さまに昨日の戦闘のこと、森のこと、魔銃のことを聞いてみることにした。
「父さま、昨日のホーンラビットは怖くなかったの?」
「大丈夫だよ。キャリーは怖かったかい?」
「父さまがいたから怖くなかった」
「うんうん! そうか! そうか!」
チョロッとご機嫌を取ったら、父さまはご機嫌で親バカモードを発動した。
娘としては、ちょっとかわいく感じる。
「いつもあんな感じ?」
「うーん、森の中ではもっと難しいね。森の木に隠れて見えないことがあるからね」
「そうなんだ」
「でも、広い場所なら難しくないよ。ホーンラビットは、ジグザグに走った後に真っ直ぐ突っ込んで来る習性があるんだ。だからジックリ待って引きつけて撃てば大丈夫だよ」
「そうなんだ! 父さまスゴイ!」
「ふふふ、そうかな! スゴイかな!」
父さまが身振り手振りを交えて説明してくれたので、ホーンラビットの動きがよくわかった。
でも、あんな大きな魔物が接近してくるのを待つのって、結構怖いと思うんだよね。
父さまは度胸があると思う。だからスゴイと思ったのは、本当だよ。
「森の木は太かったけど、お家の近くの木はあんなに太くないよね? どうして?」
「昨日の場所は魔の森なんだよ」
「マーの森?」
「魔の森だよ。魔物が住む森だから魔の森さ。魔の森は普通の森よりも木が大きくて太いんだ」
「マー!」
「マー!」
父さまも、私のマーを真似してくれた。
ふふ、楽しい。
私は前から疑問に思っていたことを聞いてみた。
「どうして魔法で戦わないの? どうして魔銃で戦うの?」
「魔銃の方が早いんだ」
「早い?」
「魔銃は構えて、魔銃に魔力を通して、引き金を引けば魔弾が発射される」
「魔弾?」
「小さな魔力の固まりだよ。魔法を発動するには、意識を集中して、必要な魔力を練り上げ、発動するイメージを思い描かないといけない。時間が掛かるんだ。やってみせよう……」
父さまは、真剣な表情になった。
私は『イチ、ニイ……』と秒数を数えた。
七まで数えたところで、父さまが右手を道ばたに向けた。
「ファイヤーボール!」
父さまの右手から炎が飛び出した。
「わっ! スゴーイ! スゴーイ! 」
「ははは! 凄いだろう? けれど魔銃の方が早いからね」
七秒……。
どうなんだろう?
私は前世で格闘技の経験はないし、興味もなかった。
けれどTVで中継していた柔道やレスリングを見たことがある。
技を仕掛けるスピードは物凄い早い。
スロー再生を見ないと何が起こったのかわからないほどだ。
きっと魔法発動までの七秒は、実戦では相当ながい時間なのだろう。
だから魔銃を使うのか。
「父さまは魔法が使えるよね。火の魔法。母さまは?」
「マリーは風の魔法だね。あとは生活魔法が使えるよ。僕もね」
生活魔法は、飲み水を出したり、火種を出したりする魔法だ。
少ない魔力ですぐ発動する。
クリーンという呪文で体や物をきれいにすることも出来る。
とても便利だ。
魔力がある人なら生活魔法は誰でも使えるらしい。
「じゃあ……えーと……。魔銃を撃てる人は、父さまと母さまと……」
「あとはマーサが魔力を持ってるよ。ただ、あまり魔力量が多くないから、生活魔法を使うくらいだね。一応、魔銃も撃てるよ」
「そっか。ねえ、父さま。私も魔法を使ったり魔銃を撃ったり出来ないかな?」
「えっ!? キャリーが!?」
父さまは私の言葉に驚いている。
けれどねぇ~、魔物の出る魔の森なんて物騒な場所が村の近くにあるんだよ。
身を守る術は必要だと思うの。
それに……。
「父さま。キャリーは村を守りたいし、生まれてくる子を守りたいの」
私はシッカリと答えた。
父さまは、しばらく驚いて私を見ていたが、フッと笑って私の頭をなでた。
「ニューゲートの町へ着いたら、魔法が使えるようにしよう。魔銃についても商会で聞いてみるよ」





