第16話 魔銃
父さまと母さまはお砂糖が入手できること、柔らかいパンが食べられることを喜んでいた。
イヤイヤイヤ!
この程度で満足してもらっては困りますよ?
妹か弟が生まれるんですよ?
わかってます?
私は元会社員ですから、一つ一つ詰めていきますよ?
私は父さまに向かって手を伸ばした。
「父さま! 母さま! ぶどうの苗木! 種!」
「あっ! そうだね! どうしたらいいのかな……」
「ぶどうも欲しいわね……。ぶどう畑……出来ないかしら?」
ぶどうの苗木は、時間が経てば弱ってしまうと思う。
早く植えてあげた方が良い。
私は妖精のベルを見た。
ベルはテーブルの上で腹ばいになって、フィギュアスケートの中井亜美選手みたいに足をブラブラさせている。
ベルは基本ヒマな人だ。人というか妖精。精霊だ。
ちょっと何を考えているのかわからないところがあるけれど、私の味方だし、頼んだことはやってくれるし、聞けば知っていることは教えてくれる。
ただ、積極的に助けてくれることはない。
こちらからボールを投げなければならないのだ。
私はベルに念話を飛ばした。
『ベル。ぶどうの苗木をどんな場所に植えれば良いか知っる?』
どんな作物にも適した場所がある。
暖かいところを好む作物、涼しいところが好きな作物。
ぶどうも適した耕作地があるはずだ。
ベルは足をブラブラさせながら答えた。
『うん。知ってるよ』
『この村にあるかな?』
『うーん、どうだろう? 探しに行こうか?』
『お願いします!』
よし! ベルが手伝ってくれる!
「父さま、母さま。ぶどうをどこに植えるのか、ベルに聞いてみようよ」
「ああ! そうだね! ベルは詳しいんだよね!」
「ベルちゃん。ぶどうを植えると良い場所に案内してくれる?」
「良いよ~。探しに行こう!」
というわけで、ぶどう畑を作る場所を探すことになった。
父さまは銃を二丁背負い、母さまが私を抱っこする。
そして父さまはヨーナスという若いお兄ちゃんをお手伝いで呼んできた。
ヨーナスは野菜の収穫を手伝ってくれたり、狩りの時に父さまとのお手伝いをしてくれる。
大変失礼ながら、ちょっと間の抜けた雰囲気の十八歳くらいのお兄ちゃんだ。
ヨーナスは背中に籠をしょって、籠には苗木や農具が入っている。
妖精のベルは羽根をパタパタさせながら気ままに空を飛ぶ。
あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら、ぶどう栽培に適した場所を探している。
私は妊娠している母さまがちょっと心配になった。
「母さま。お腹の赤ちゃん大丈夫? 私、重くない?」
「まあまあ。キャリーは優しいのね。大丈夫よ」
母は優しく微笑む。
この感じだと本当に大丈夫そう。
私は安心して母に抱かれる。
「ねえ。ヨーナス」
「へえ、キャリーお嬢様、なんでしょう?」
「ヨーナスも銃を撃つの?」
「いえいえ。魔力がないんで撃てません」
「えっ……」
あれっ? 何だろう?
魔力がないと銃が撃てない?
どういうこと?
私の頭の中は、クエスチョンマークで一杯になった。
かといって迂闊な質問は出来ない。
私が転生者であることは伏せているのだ。
前世の銃は誰でも撃てましたよなんてことは言えないし、銃を知らない体を装わないとおかしい。
「じゃあ、ヨーナスはどうやって猟をするの?」
「へえ、昔、大旦那様の領地にいた頃は、弓矢を使いました。あっしは農家の六男坊だったんで、狩りに行かなきゃ肉が食えなかったんでさあ」
「そうなんだ」
「へえ。けど、こっちでは旦那様が魔銃で狩りをなさるので、獲物を解体したり、毛皮をなめしたり、お手伝いをしてまさあ」
「そっか。ヨーナス、ありがとう」
「へへ。お安いごようですぜ」
ヨーナスは顔を赤くして笑った。
話し好きな気のいいお兄ちゃんだ。
ヨーナスの話から、猟は弓矢か魔銃でするということがわかった。
どうやら私がいた世界の銃とは似て異なる物のようだ。
私は思いきって母さまに聞いてみた。
「母さま。私でも魔銃を撃てる?」
現代日本なら顔を真っ赤にして叱られそうだし、一方で全米ライフル協会が泣いて喜びそうな発言だ。
けれど、ここは元いた世界じゃない。
世界で一番治安が良いといわれた日本じゃない。
僻地にある開拓村で警察なんかいないし、森には魔物が出る。
魔物は人を見れば襲ってくる危険な生き物だし、魔物ほどではないけれど危険な野生動物もいる。
危険度のレベルが、元いた世界とは違う。
身を守る手段が必要だと思うの。
――そこに銃を持ったヒーローがいれば。
賛否両論のある言葉だけど、少なくともこのキャロライン村――異世界の開拓村ではあてはまる言葉だと思う。
さて、母さまは何と言うだろう?
叱られるかな?
恐る恐る母さまを見上げると、母さまは笑顔で私の質問に答えた。
「ええ。キャリーも魔力があるから撃てますよ。けれど、もっと大きくなってからですよ」
「あい!」
「キャリーの体格では魔銃を抱えられませんからねぇ」
「あい……」
あの……、もっと大きくなってからっていうのは……、年齢の話や安全上の問題じゃなくて、魔銃のサイズや体格の問題なのか……。
私が魔銃を持ったヒーローになる日は近そうだ。
「あー! ここが良いわ! ここ! ここ!」
ベルがぶどうに適した場所を見つけたようだ。
少し先で叫んでいる。
■魔銃について
火薬を使った銃のない世界で、魔力を使った銃がある。
それなら魔銃でなく単に『銃』と呼ぶのではないかと思ったのですが、『魔銃』と書いた方が読者様にわかりやすいと考えて、魔銃と表記することにしました。





