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追放聖女は隣国の王妃になり、祖国を救うため軍を率いて帰還する  作者: カトーSOS


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第9話 最初の祈り

挿絵(By みてみん)


第9話 最初の祈り



最初の御柱の再活性化を行う日。


御柱の周囲には、朝から警備線が敷かれていた。


ヴィオラが周囲を確認し、レティシアとマリアンヌが配置につく。


神官たちは御柱の近くで準備を進めていた。


クラリスがセレナの前に立つ。


「昨夜は眠れましたか?」


「はい」


「朝食は?」


「いただきました」


クラリスはセレナの額へ手を当てる。


続いて手首を取った。


「熱はありませんね」


エマが水を用意し、ソフィアが必要なものを確認している。


セレナは御柱を見上げた。


昨日調べた三本のうち、最初に手を入れる柱。


表面には細かな亀裂が走り、柱全体を覆う光も弱い。


レオンも少し離れた場所から御柱を見ていた。


その後ろには二人の護衛が控えている。


「始めてもよろしいですか?」


セレナが尋ねる。


レオンはクラリスを見る。


クラリスがうなずいた。


「問題ございません」


「では、お願いします」


セレナは御柱の前へ進んだ。



膝をつく。


両手を胸の前で合わせる。


目を閉じる。


そして祈った。



最初は、何も起こらなかった。


風が草を揺らす。


遠くから王都の音が聞こえる。


神官たちは息を潜めるように見守っていた。


やがて。


セレナの身体から、淡い光が現れた。


光はゆっくりと御柱へ伸びていく。


「……」


神官の一人が小さく息を呑んだ。


光が柱へ触れる。


その瞬間。


御柱の表面が、わずかに明るくなった。


神聖力が流れ込んでいく。


長い間失われ続けていた力が、少しずつ満たされていく。


細かな亀裂の一つが、ゆっくりと閉じ始めた。



セレナは祈り続けた。



一時間。


二時間。



光は途切れない。


だが。


クラリスは、御柱ではなくセレナを見ていた。


額に汗が浮かんでいる。


呼吸も、少しずつ深くなっていた。


エマがクラリスへ小さな声で言う。


「顔色が……」


「ええ」


クラリスは短く答えた。



さらに時間が経つ。



御柱の光は、確実に強くなっていた。


薄かった結界の一辺にも、少しずつ輝きが戻っている。


神官たちの表情に期待が浮かぶ。


しかし。


セレナの顔からは血の気が失われていた。


呼吸も乱れている。


それでも祈りを止めない。



「セレナ様」


クラリスが声をかけた。


セレナは目を開けない。


「もう少しです」


「セレナ様」


「あと少しで、ここまで……」


クラリスはセレナの様子を見る。


そして言った。


「セレナ様。本日はここまでにいたしましょう」


セレナの目が開いた。


「……え?」


祈りが止まり、御柱へ流れていた光が弱くなる。


セレナは振り返った。


「ですが、まだ終わっていません」


「存じております」


「でしたら……」


「終わっていなくても、お休みください」


セレナはクラリスを見つめた。



言われた意味が、すぐには理解できなかった。



「でも」


御柱を見る。


まだ亀裂が残っている。


神聖力も完全には満ちていない。


「まだ祈れます」


「いいえ」


「クラリス」


「今日はここまでです」


セレナは困ったように眉を寄せた。


「これくらいなら、まだ……」


クラリスは首を横に振る。


「なりません」


その言葉に、セレナは黙った。



クラリスは昔から、自分の体調を見てきた。


食事。


睡眠。


熱。


疲労。


体調が悪ければ薬を用意し、休める時間を作ってくれた。


けれど。


御柱の巡回中に、


まだ仕事が終わっていないから休め。


そう言われたことはなかった。



御柱の維持は国の仕事だった。


必要なら、終わるまで祈る。


それが当たり前だった。



「ですが……」


セレナはレオンを見る。


「まだ終わっておりません」


レオンは御柱ではなく、セレナを見た。


「今日はここまでにしてください」


セレナが目を見開く。


「殿下まで?」


「はい」


「でも、御柱は……」


「明日もあります」


セレナは御柱へ視線を戻した。


「もう少しだけです」


そして立ち上がる。


再び御柱へ向かおうとした。



一歩。


二歩。



三歩目で、足元が揺れた。


「……っ」


身体が傾く。


すぐにヴィオラが腕を取った。


「セレナ様」


「大丈夫です」


「大丈夫ではありません」


「まだできます」


ヴィオラはセレナを支えたまま言った。


「聖女様を御柱から離します」


「待ってください」


セレナが御柱を見る。


「まだ終わっていません」


ヴィオラは表情を変えなかった。


「御柱は明日もここにあります」


セレナが振り返る。


ヴィオラは続けた。


「あなたの命は、今日失えば戻りません」


「ですが……」


セレナはレオンを見る。


「国の存亡がかかっています」


レオンはすぐに答えた。


「だからこそです」


「殿下」


「あなた一人が、この三本を戻せるのでしょう?」


「……はい」


「ならば、なおさら倒れさせるわけにはいきません」


セレナは言葉を失った。


レオンは静かに続ける。


「国を救うために、あなたを死なせるつもりはありません」



セレナは御柱を見る。


仕事は終わっていない。


まだ途中だ。


あと少し祈れば、もっと回復できる。


明日に持ち越す必要などない。


自分なら、まだできる。



そう思う。



けれど。


クラリスが目の前に立った。


「セレナ様」


「……はい」


「戻りましょう」


「でも……」


「明日です」


セレナはしばらく御柱を見ていた。



納得できたわけではない。


けれど、もう一度歩こうとしても、足にはほとんど力が入らなかった。



「……分かりました」



クラリスとヴィオラに支えられ、セレナは御柱から離れていく。



途中で何度も振り返った。


御柱には、朝よりもはっきりとした光が戻っている。


けれど。


まだ完成していない。



仕事を途中で残したまま帰る。


そんなことに、セレナは慣れていなかった。



その隣を歩くクラリスを見る。



クラリスは何も言わない。


ただ。


その表情は、どこか少しだけ。


安心しているように見えた。

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