第39話:出発前夜と、繋がるもの
雷のダンジョンへ向かうと決めたあと、四人は街の中で最低限の準備を整えるために、必要な物資や装備の確認を一通り終えたあと、そのまま宿へと戻り、それぞれが無言のうちに明日へ向けた最終確認を進めていく中で、会話は自然と減り、やがて疲労と緊張が混ざった静かな空気が部屋の中にゆっくりと広がっていった
遠くで雷が鳴る
窓の外で青白い光が一瞬だけ街を照らし、そのあとに遅れて低い音が落ちてくるたびに、壁や床がわずかに震えるその感覚が、この街が常に“雷の中にある場所”であることを思い出させるように繰り返されていた
ミミが先に横になる
小さく息を吐き、そのまま毛布にくるまる
カイルもそれに続く
鎧を外したあとの静かな重さだけを残して、すぐに呼吸が整っていく
二人の寝息が重なる
規則的に
ゆっくりと
その音が部屋の中に落ち着きを作る
アルトはすぐには横にならず、窓の方へと歩く
外を見る
空は完全に閉じている
雲が低い
その奥で光が走る
一瞬だけ、街の輪郭が浮かび上がる
その光は強いのに
なぜか、明るくはない
(……やっぱり)
違和感は消えない
雷はある
だが、足りていない
どこかで削られている
その感覚を確かめるように、アルトはゆっくりと息を吐く
そのとき、背後でわずかに布が擦れる音がする
振り返る
ニナが起きている
すぐに声をかけるわけではない
ただ、目が合う
静かに
互いに
ニナも同じように少しだけ体を起こし、そのまま足音を立てないようにしながら、ゆっくりとこちらへと歩いてくる
言葉はない
だが、意図は分かる
起こさないように
自然に
そのまま二人は窓の近くで並ぶ
距離は近い
だが、不自然ではない
外の雷の光が、また一瞬だけ差し込む
その光の中で、ニナの横顔が淡く浮かび上がる
視線は外
だが、意識は少しだけこちらにも向いているのが分かる
静かな時間
音は雷と、雨の名残のような風の音だけ
その中で、ニナがゆっくりと手を動かす
何かを取り出す
小さな光
それは石だった
青い
深い色
ただの青ではない
水のようで
空のようで
どこかニナの瞳と似ている
その石が、微かに光を帯びている
「……これ」
短く
静かに
それだけ言う
アルトは視線を落とす
その石を見る
「……青い」
自然に出る言葉
ニナは小さく頷く
「……魔力、込めてる」
それだけで、意味は十分だった
アルトは少しだけ息を止める
核層
崩れた感覚
意識が落ちたあの瞬間
全部が一瞬で蘇る
「……いいの?」
問いというより、確認に近い
ニナは視線を外さないまま、ほんの少しだけ頷く
「……うん」
それだけ
だが、そこに迷いはない
アルトはゆっくりと手を伸ばす
受け取る
指先が触れる
一瞬
ほんのわずか
だが、その感覚だけが妙にはっきりと残る
温度がある
(……近い)
意識がそこに引っ張られる
嬉しい
でも同時に
(……こんなこと考えてる場合じゃないだろ)
そう思う自分もいる
それでも
「……ありがと」
素直に言う
ニナは小さく頷く
そのまま、自然な流れで一歩近づく
距離が縮まる
アルトは一瞬だけ動きを止める
ニナは何も言わない
ただ、そのまま手を伸ばす
首元に触れる
ひんやりとした指先
ネックレスの紐が首の後ろを通る
距離が近い
呼吸がわずかに触れる
意識が全部そこに集中する
(……やばい)
鼓動が跳ねる
さっきよりも強く
ニナは静かに結ぶ
余計な動きはない
ただ確実に
指先が離れる
距離が戻る
だが、感覚だけが残る
首元に、わずかな魔力
それと――
さっき触れられた場所の感触
ニナが小さく言う
「……これで、大丈夫」
アルトは少し遅れて頷く
「……うん」
声が少しだけ上ずる
自分でも分かる
ニナはそれ以上何も言わない
ただ一度だけアルトを見る
その視線は、いつもより少しだけ柔らかい
アルトはネックレスに触れる
青い石
微かに流れる魔力
守られている感覚
そして――
(……嬉しい)
それが一番強い
ニナはそのまま静かに横になる
アルトも少し遅れて戻る
だが、すぐには眠れない
首元に触れる
さっきの距離
温度
全部が残っている
外では雷が鳴り続けている
だが、その音よりも強く残っているのは
青い光と、触れられた感触だった
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