第38話:奪われた雷と、沈む街
ライゼンの街の中心へと進むにつれて、通りを行き交う人影の数は確かに増えていくにもかかわらず、その空気に“活気”と呼べるものがほとんど含まれていないことを、四人は否応なく感じ取ることになる
人はいる、声もある、足音も響く――それでも、それらはどこか抑え込まれているように広がらず、重く沈んだまま石畳へと吸い込まれていくように消えていき、その結果として街全体に漂っているのは“賑わい”ではなく、“消耗し続けている場所特有の静けさ”だった
その中心にある冒険者ギルドへと足を踏み入れた瞬間、その違和感は輪郭を持って立ち上がる
内部は広く、机や椅子も整然と並べられているが、目に見えて空席が多く、本来であれば人で埋まっているはずの時間帯であるにもかかわらず、その半分以上が使われていないという事実が、この街の異常を何よりも雄弁に物語っていた
酒の匂い、鉄の匂い、紙とインクの乾いた匂い――そこに混じる焦げたようなわずかな匂いが鼻の奥に残り、そのすべてが混ざり合った空気の中で、いくつもの視線が四人へと向けられる
それは単なる警戒や値踏みではなく、どこか“測る”ような視線であり、同時に、どれほど持つかを見極めようとするような疲れた現実の色を含んでいた
ミミが思わず周囲を見渡し、カイニーとは明らかに違う静けさに戸惑いを滲ませる一方で、カイルはすでにその理由を理解しているかのように短く息を吐き、この場所には力がないのではなく、“力を使う理由が削られている”のだと無言のうちに受け取っていた
アルトはその空気をそのまま受け止めながら、迷いなくカウンターへと歩み寄る
受付の視線が上がる
四人を一瞥し、即座に判断する
「……初めてね」
アルトは頷く
「雷のダンジョンについて、情報を」
その言葉が落ちた瞬間、周囲の空気がわずかに揺れる
誰も動きを止めるわけではない、それでも確実に意識だけがこちらへと向けられる気配があり、この話題そのものがこの街にとって軽くないことを示していた
受付は静かに口を開く
「最近の話でいい?」
「それで」
淡々とした口調のまま語られ始めた内容は、しかし一つひとつがこの街の現状を形作る要素として、確かな重さを伴って積み上がっていく
「まず、攻略者が出ていない」
その一言が落ちた瞬間、場の空気がわずかに沈む
ミミが思わず反応する
「でも、この街の人たち強いよね?」
受付は迷いなく頷く
「強いわよ」
「それでも、出てない」
その矛盾は、説明ではなく現実として提示される
カイルが低く問う
「理由は」
受付は一度だけ視線を落とし、言葉を整理するように間を置いてから続ける
「上層でしか核が安定して取れない」
アルトの眉がわずかに寄る
「上層だけ?」
「ええ、そのため取れる核が小さいの」
「上層の核じゃ質もあんまりよくなくて」
それが意味するものは明確だった
ミミが小さく呟く
「それじゃ……稼げないね、中層は?」
受付はわずかに息を吐く
「一番の問題ね」
ほんのわずかに空気が張り詰める
「中層からの魔物は最近おかしくなってるの」
その言葉が落ちた瞬間、四人の中で同時に警戒が走る
カイルが口を切る
「なにがどうなってるんだ?」
「中層以降、実体がほとんどないみたい」
「向こうはガンガン攻撃してくるのに、こちらの攻撃は通らないみたいに」
その説明は簡潔でありながら、戦闘の前提を崩すには十分すぎるものだった
ニナの視線が鋭くなる
アルトも同時に理解へと近づく
「……斬れない?」
受付は頷く
「魔法で乱したり、攻撃の中断はさせることができるみたい」
「ただ、普通の攻撃が通らない」
わずかな間のあと、決定的な言葉が落ちる
「そのため、核を直接潰すしかないみたい」
カイルが小さく息を吐く
「……効率が悪すぎる」
受付は静かに肯定する
「ええ、それだけじゃない」
その先に続く言葉が、この街の“停滞”の正体だった
「核を潰すため、核を取ることができないの」
その一文が落ちた瞬間、場の空気が一段重くなる
ミミが不安そうに言う
「え……じゃあ……」
受付は淡々と続ける
「供給が足りない」
「核にならないし、残らないの」
「魔物を倒す意味がないみたいに」
その現実は、冒険者という存在の根本を崩すには十分だった
アルトの中で、街の違和感とすべてが繋がる
光が弱い理由
空気が沈んでいる理由
「……だから暗い」
受付は静かに頷く
「本来なら、この街はもっと明るかったわ」
「でも今は違う」
カイルが腕を組む
「つまり、ダンジョンがおかしくなっている……?」
ニナが続ける
「……吸われてる」
受付は否定しない
「そう考えてる人は多い」
それは推測でありながら、ほぼ答えに近い響きを持っていた
沈黙が落ちる
それは迷いではなく、情報を受け止めたあとの整理の時間だった
ニナが一歩前に出る
「……行く」
短く
だが、はっきりと
ミミが頷く
「やるしかないよね」
カイルも同じように動く
「決まりだな」
アルトは小さく息を吐き、三人を見る
その表情は自然と緩んでいた
「決まりだね」
受付が最後に言う
「強いだけじゃ足りないわよ」
一拍
「対応できるかどうか、環境こそが雷のダンジョンだからね」
その言葉は静かに、だが確実に残る
四人は振り返る
沈んだ空気のギルド
活気を失った街
足りないエネルギー
そして異常なダンジョン
そのすべてを背にしながら、それでも足を止める理由にはならないことを、誰もがすでに理解していた
扉を押し開ける
外の光は弱いまま
それでも雷は走り続けている
その歪んだ世界の中へ
四人は迷いなく踏み出す
奪われている“何か”の正体へと、確実に近づきながら
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