第37話:雷鳴の街、その内側
ライゼンの街へと続く石畳に足を踏み入れた瞬間、それまでの道中とは明確に異なる“密度”が空気の中に宿っていることを、四人はほぼ同時に感じ取ることになる
それは単なる湿度や温度ではなく、目に見えない力が常に空間の中を流れ続けているような圧を伴った感覚であり、呼吸をするたびに肺の奥へ入り込んでくる空気がわずかに重く、そして鋭く感じられることで、この場所がただの街ではないことを無言のうちに理解させてくる
街の入口には門はなく、低く組まれた石壁と、その上に張り巡らされた金属製の柱や導線のような構造物が空へと伸びている
それらは明らかに雷を受け流すためのものだった
その証拠のように、次の瞬間――
バチッ
導線を伝うように青白い火花が走る
遅れて、雷鳴が空を震わせる
ドォン……
だが、街の中にいる人間は誰一人として足を止めない
それが日常であるかのように、何事もなかったように動き続けている
ミミが思わず呟く
「……普通に生活してるんだね、ここ……」
その声には驚きが滲む
カイルは周囲を見渡しながら低く言う
「慣れてるんだろ」
短いが、その視線は警戒を解いていない
ニナはわずかに歩調を落とし、街の構造を観察するように視線を巡らせている
建物の壁には焦げ跡が残り、屋根には金属板や避雷のための構造が組み込まれている
「……落ちる前提」
小さく呟くその声は、理解に近い
アルトはその中で、別の違和感に気づく
雷はある
音もある
空には常に電気が走っている
それなのに――
暗い
ただの曇りではない
光が弱い
街全体が、わずかに沈んでいる
石畳の色も、建物の輪郭も、どこか鈍く見える
まるで、光そのものが足りていないような感覚
ミミも気づく
「……ねえ、なんかこの街……暗くない?」
それは感覚ではなく、はっきりとした異常だった
本来なら、これだけ雷が発生していれば、空気中の魔力は活性化し、街はもっと明るくてもいい
エネルギーが満ちているはずだからだ
だが実際には、その逆だった
光が弱い
空気が沈んでいる
まるで――
「……抜けてる」
アルトが小さく言う
ニナの視線が動く
カイルも周囲を見直す
雷はある
だが、溜まっていない
流れていない
循環していない
ミミが少し声を落とす
「……なんで?」
その問いに、誰もすぐには答えられない
ただ一つ分かるのは――
この街は正常ではない
ニナはその空気の中で、静かに口を開く
「……前は」
一拍
「そのままダンジョンに行った」
視線は前のまま
「情報、見なかった」
短く言う
だが、その声にはわずかな重さがある
「……急ぎすぎた」
ほんの少しだけ拳に力が入る
「母を探すことしか考えてなかった」
その言葉には迷いはない
だが――
「……そのせいで」
一瞬だけ言葉が止まる
歪み
飛ばされた感覚
「……皆を危険に巻き込んだ」
小さく落とす
アルトはそれを否定しない
ただ静かに言う
「だから今、止まってるんでしょ」
ニナの視線がわずかに揺れる
「見て、考えてる」
「それでいいと思う」
その言葉は軽くない
ニナは少しだけ間を置いてから、静かに頷く
「……うん」
さっきよりも、ほんの少しだけ強い声
ミミが明るく言う
「じゃあ今回はちゃんと情報集めよ!」
カイルも短く続ける
「無駄に突っ込む理由はない」
アルトは前を見る
街の奥
この違和感の中心
「まずはギルドだね」
ニナが一歩前に出る
今度は迷いがない
ただ進むのではなく、理解するために進む
雷が走る
音が響く
空気が震える
それでも、この街はどこか“足りていない”
その異常を抱えたまま
四人は歩き出す
ライゼンの奥へ
そして、この街に潜む“欠落”の正体へと、確実に近づいていた
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