#29 偽り者の謀
六課内勤組は分散して活動することになった。攻めも守りもテュラノス相手には真夏の存在が必要不可欠だからだ。
久しぶりに銃を携帯したあみちゃんは緊張している。
「あみちゃん、大丈夫かい?」
公安局屋上駐車場で1人ずつ飛び立っていく六課の内勤組を見送りながらあみちゃんに封筒を手渡す舞杏。
「は、はい…。大丈夫です。しっかりサポートしてみせます」
封筒を受け取り気合を入れるあみちゃんは通勤用の小型エアドライブに跨る。
「うん、頼りにしてるよ」
頷き合い、飛び立つあみちゃん。
内勤組はそれぞれ行先と役割が記されている書面を渡され、上空で確認して指示に従う。内勤組同士であっても互いにどこで何をしているか分からない構図。全体を把握しているのは舞杏と双連だけで、内勤組を守る為の策だ。
「皆さん、飛んで行っちゃいましたね…」
スカーレットとの視界共有魔法を使って飛び立つ内勤組を見守る真夏。
《にゃ~、煙野郎は居ないみたいだにゃ》
「はい、あみさん達は大丈夫そうですね」
「油断はできないよ。パトカー足りなくてみんなは自家用車だからね。当然透明化できない。真夏君はもう暫くここで空の監視を頼むよ。猫君は真夏君の護衛をよろしく」
「はい、了解です」
《任せろにゃん》
「うん、じゃあ私達は本部を動かしてくるから、何かあったらすぐに呼んでくれ」
舞杏と双連は真夏を屋上に残して屋内に戻る。
「…本部って動かせるものなんですね」
《ぱわーが必要にゃらボクの出番だにゃ》
(スーちゃんが、貸そうとしてる、猫の手を)
「あぁ、いや、要らないんじゃないですか。私達の任務は空の監視ですからね。ここで待機ですよ」
《にゃんか、ずっとボーッとしてるだけだにゃ》
「確かに…。六課の乗っ取りで皆さん忙しそうなのに、私達はのんびりしてますね…」
本部機能の移動が完了したら真夏達も公安局を離れることが決まっている。
バタバタと忙しない六課のなかで皆の動きを見守るだけの真夏は少し気が引けていた。
《現場監督ってヤツかにゃ?》
「そ、そぉですね!それです、大事な仕事なんですよ、これも」
そのままボーッと空の監視をしていると屋上駐車場にいつもの覆面パトカーが上がってくる。
「お待たせー、乗ってきな」
珍しくハンドルを握る舞杏が手を振る。
「あ、西園寺さんが後ろに居ます…」
「真夏ちゃん、今日は前だよ。杖は後ろで預かるね」
「お、お願いします」
杖を双連に預けて助手席に座る。
「今からここがテュラノス乗っ取り事件の捜査本部だからね」
「え、パトカーが本部になるんですか?」
後部座席の半分を潰してPC等の機材が積み込まれている。
「特殊な事件だからね。テュラノス側に見つからないように動きたい」
「真夏ちゃんの護衛パトカーもこっちに合流させます。外部からアクセスされた場合は録画したパン屋の映像を流すので大丈夫なはずです。それと、このテュラノス乗っ取り事件の情報捜査における権限を完全フリーにしてください」
飛び立って透明になるパトカー。
「私の権限を超えるからなぁ…。その完全フリーってのは西園寺君の方でやれるの?」
「はい、こっちでハッキング、もとい、自由な捜査はできるので許可をお願いします」
「責任は私が持てってことね。おっけ、やっちゃいなよ。出し惜しみしてたらこっちがやられちゃうからね」
「ありがとうございます。では早速、国内の通信キャリア全社をハッキン、捜査に入ります。六課のシステムで追えない捜査員プライベートデバイスの位置情報を取得、支給品デバイスとの差異を見てみます」
「通常、デバイスはプライベートの物と支給品の物、2つを持ち歩くからね。乗っ取られた捜査員は追跡を逃れるために支給デバイス、もしくは両方を携帯していない可能性があるということか」
双連の指が激しくキーボードを叩いて情報を集める。
「はい…。更に全国の監視カメラネットワークをハッキン、捜査資料として見せてもらい、捜査員本人の位置を特定していきます」
「3つの位置情報が重なれば普段通りの行動をしている。つまり乗っ取られていない可能性はあるってことだね」
「囮としてわざとそうした行動をしてるのかもしれませんが、逆に位置情報が重ならない場合、乗っ取られている可能性は高いといえます」
「うん、良いと思うよ。まずは黒を明確にしていこう」
「はい。という訳で真夏ちゃん、こけさんの処理能力を貸してもらいたいんだけど」
「あ、はい」
真夏はローブの後ろ側に取り付けたこけさん専用ポケットから引っ張り出す。
「こけさん、ネットワーク接続して監視カメラから六課の捜査員を捜して」
「イエスレディ」
情報捜査にこけさんが加わり、処理速度が上がる。
《また現場監督かにゃ~?ボクは少しお眠だにゃ~》
にゃ~んとあくびをするスカーレットの頭を撫でる真夏。
《そうですね、スーちゃんは今のうちにお昼寝を済ませといて良いと思いますよ》
《にゃ~ん…》
目を閉じてお昼寝するスカーレット。
「ヒット。対象43名中4名の位置情報3点にずれがあります。順次情報更新、リストにしていきます」
乗っ取られている可能性が高い捜査員をリストアップしていく途中、双連の手が止まる。
「主任、課長ですが、13分前の情報で位置情報3点が揃っています…」
「囮…かなぁ…?…場所は?」
「ブラックアイズ、旧工業地帯の再開発エリアでパトカーを降りています」
「あの辺は今無人だろう?こりゃ囮だね」
「こちらの動きはバレているってことですか」
「六課にも防犯カメラはあるからね。向こうにも監視の目があればバレてるんだろうが…」
(こちらに真夏君が居るにもかかわらず、テュラノスは何らかの計画を進めている…?)
「デバイス持ってんなら直接聞いてみようか」
舞杏はデバイスを開く。
「え、課長に直接かけるんですか?」
「尋問を兼ねてね。…あ、もしもし課長?ちーっす」
数回のコールで清水が通話に出た。
『鷹司か、捜査は終わったのか?』
「あぁ…こっちの方は終わったんだけどさ、戻ったら皆居なくてね。課長まで出てるってことはでかいヤマが動いたんじゃないかって、何やってんの?手伝おうか?」
『…あぁ、今我々は理想なき革命家のアジトと思われる場所を操作している』
「革命家を?なんでまた…。そんなのは三課にでも任せておけばいいじゃないか」
『我々のもとにタレコミがあったんだよ、匿名でアジトの一覧が送られてきた。三課にも回したが、いかんせん数が多く三課だけでは対応できない』
「ふーん、いつもと変わらず雑用を押し付けられてるってことね。そーゆーことなら、急用を思い出したんで私は私の捜査を進めるよ」
『…あ、そう』
「…あぁ、それと。実家からキウイが送られてきたからさ、明日持ってくるね。奥さん、夢子ちゃんキウイ好きだったでしょ」
『ありがとう、喜ぶと思うよ』
「うん…じゃあ、また」
通話が終わると後ろの席で双連がため息をつく。
「黒ですね。それからテュラノスは乗っ取った人間の記憶は読み取れないみたいですね」
「えっ?あれでわかっちゃったんですか?」
通話中声を出さないように口を押えていた真夏が口を開く。
「あぁ、夢子ちゃんはキウイアレルギーだ。前に六課で一悶着あってね、夢子ちゃんのキウイアレルギーは六課では有名なことだ」
「タレコミが本当だったとしても、捜査員は皆分散してる。テロリストのアジト調査に単独で向かわせるなんてアホなんですか?」
「分散させることで六課を無力化させようとしたんだろうね。駆逐艦の件を見てもテュラノス、奴等の実行部隊の数はそう多くないのかもしれない。タレコミの真偽がどうであれこのタイミングで動き出したんだ。テュラノスが何かを仕掛けてるのは間違いない」
「はぁ…。よその雑務なんて窓際六課らしいですけどね」
「えぇ…六課って窓際だったんですか?」
「そりゃあねぇ、鷹司家の人間とは言え、これが主任だよ?エリート課とは違うよ」
PCのモニターから目を離さずに言う双連をルームミラー越しに睨む舞杏。
「おい、それはどーゆーことだ?」
「誉め言葉ですよ、主任」
「誉め言葉?…ならいいか」
(い…いいんですか…?)
真夏が喧嘩に発展しないかヒヤヒヤしていると舞杏のもとに着信が入る。
「おや?あみちゃんからだね」
発信者を確認して通話に出る
「ほい、キミの頼れる上司、鷹司主任だよ」
『主任!大変です!私が担当していた米俵議員のマンション近辺で動きがっ!』
米俵のマンションを監視していたノブは黒と断定されていたが、白々しくも監視を続けるノブに舞杏は監視を付けていた。
「どうした?」
『革命家です!理想なき革命家のタングスが確認されました!』
「理想なき革命家…?今はそんなチンピラに構ってやる暇はないよ、三課に報告するくらいでいいだろう」
『そ、それが…。タングスはノブさんが張り込んでる駐車場まで上がってきてまして…。あっ、一直線にノブさんの方に歩いています…!』
(ノブちゃんは今ほぼ確実にテュラノスが乗っ取っている。そんなノブちゃんに何の用だ…)
「…!?あんの野郎!ウチのノブちゃんまで殺そうってんじゃねーだろうなッ!!?」
「理想なき革命家はテュラノスの存在を知っているはず。一時的に乗っ取られている人間を殺すとは考えにくいですが…」
双連もノブが張り込んでいる駐車場の監視カメラをハッキングして状況を確認する。
「怪しいゴーグル…!銃のようなものを携帯しています!」
「急行するよ!」
透明化を解除して赤色灯とサイレンを鳴らし、現場へと急行する。
商業ビルの屋上駐車場で監視しているふうを装い、リクライニングシートで寛ぎながらゲームを楽しんでいるノブは近付いた影に視線を向けるとぎょっと目を見開く。
「タングス!?」
ゴーグルをつけて右手に持った特殊銃を向けるとノブは慌てて反対側のドアからエアドライブを抜け出す。
「お前、宇宙人だよな?」
「な、何を言ってるんだ!?俺は公安六課の」
車体の陰に隠れてタングスを窺うノブ。
「いや、隠さなくていい。俺達はずっとお前達の事も監視してた。見えてるんだよ、お前等は」
「は?何を言って…?」
「色々と検証させてもらいたいんだ。こっちの攻撃は通るのか?体に入ったままでも効くのか?…お前にはモルモットになってもらうぞ」
タングスが口元を歪めると空から音もなく小型エアドライブが接近して乗っている男が特殊銃をノブに放つ。
「……ッ!?」
ズンッと空気が震え、ノブの後ろのガラスにひびが入る。
エアドライブの男は一瞬タングスと目を合わせるとすぐに飛び去ってしまった。
「くっ、くそっ!」
ノブは拳銃を取り出し射撃予告なしに数発発砲するが、タングスは左腕一本で全て受け止めてしまう。
ノブの退路を奪うようにゆっくりと間合いを詰めるタングス。追い込んだところで特殊銃を撃ってみるが、ノブは強烈な光に目を細めただけだった。
「お前等は何がしたいんだ!?」
銃弾を撃ち尽くしてしまい装填していると、その隙にタングスも特殊銃を違うタイプに持ち替える。
(この距離で弾が当たらない…。コイツ、ダメージを与えられる肉体部分が狭すぎる!)
四肢を庇う必要がなく、近距離からの銃撃さえ止めてしまうタングスにたじろぐノブ。
タングスは特殊銃をノブに向けるが、遠くから聞こえるサイレンに一瞬気がとられるとノブは突進してタングスに迫る。
銃口がタングスの肉体を捉える。
放たれる弾丸。しかしタングスはギリギリのところでそれを躱すとノブの拳銃を叩き落として腕を取り関節を極める。特殊銃をノブの頭に突き付けると少しめまいがした。
「…!?」
近づいてくるサイレンの主が音響兵器を向けていることに気付く。
特殊銃をノブの頭に付けたまま覆面パトカーが到着するまでの数秒を待つタングス。
『おいおい、そんなオモチャでウチの捜査員を虐めてくれるなよ』
接近してスピーカーを使い特殊銃を小馬鹿にする舞杏。
「たっ、鷹司!」
パトカーの到着に安堵したノブだったが、隣に座る真夏を見て顔が強張る。
「ひぇっ!」
ジタバタと体を動かすが関節を極められていて抜け出せないノブ。周囲をぐるぐると見回し、次の瞬間、気が抜けたようにノブの身体から力が抜ける。
ぐったりとするノブ。
タングスはノブの身体からテュラノスが抜け出すのを見逃さなかった。
傍目には空中に向けて放たれるタングスの特殊銃。しかしサイレンに叩き起こされたスカーレットの目にはそれがテュラノスを狙ったものだと理解できた。
《ご主人!煙野郎だにゃ!》
視界共有魔法を使い、姿を確認する真夏。
「はい!見えました!」
「お邪魔リアンか!?真夏君、追ってくれ!民間人に被害が出ない形でぶっ放せ!西園寺君は真夏君のサポート!ユーハブコントロール、OK!?」
言い残して真夏よりも先に屋上駐車場に飛び降りる舞杏。遅れて真夏もスカーレットを抱えて飛び出しパトカーに1人になる双連。
『あ、アイハブコントロール!主任!タングスよりこっちが優先ですからね!ムキにならないで下さいよ!』
双連は釘を刺し、真夏を追いかけて飛び去る。
「可愛い後輩もああ言ってるんでね。今すぐぎったんぎったんにしてやるよ」
舞杏が指をポキポキ鳴らしてタングスに凄むと、高音を鳴り響かせて2台の小型エアドライブが真夏と双連の後を追うように交通ルールを無視した飛び方で商業ビルからと去って行った。
(真夏君を追いかけた…?いや、その先のテュラノスか?)
顔を確認できた1人と、正面でノブを抱き抱えているタングスが同じゴーグルをしていることに気付く。
「オシャレなゴーグルだが、似合ってないぞ!」
抱えられたノブに構うことなく飛び蹴りを喰らわせようとする舞杏。
「ちょおっ!お前!馬鹿なのか!?」
ノブを守るように引きずりながら躱すタングス。舞杏から数歩距離を空けて意識の無いノブを停車しているエアドライブを背にして座らせる。
「馬鹿とは失礼な…。犯罪者確保の為なら、ノブちゃんだって覚悟の上だよ…たぶんね」
不憫な捜査員を一瞥して特殊銃をホルスターにしまうタングス。
「ほう、私ごときに銃は必要ないと?」
「オモチャってバカにしたくせに…。いや、これは元々人を傷つけられるモノじゃないんでね」
接近戦の構えをするが、チラチラと離れていく真夏達に視線が向くタングス。
(人を傷つけない銃。真夏君の先のテュラノス。…理想なき革命家にはテュラノスが見えている…!)
先に動いたのはタングスだった。
舞杏から逃げるようにエアドライブをよけて階段へ走るタングス。舞杏はノブの肩を踏みつけて高く跳びあがると並んでいるエアドライブの屋根伝いにショートカットしてタングスに襲い掛かる。
「グフッ!うぅぅっ」
痛みに悶えたのは目を覚ましたノブ。
「お前本当に警官かよ!?」
「…よく言うだろう?ゴメンで済むのが警察だってね」
呻く部下やへこむエアドライブの屋根を気にしない舞杏は足技を軸に攻撃を組み立てる。
足の甲まで金属装甲が入った靴でタングスの四肢とぶつかり合う。
金属音が響き戦闘が続くが、タングスは逃げることに専念しており舞杏への攻撃は少ない。逃げ道を捜す一瞬の隙に舞杏の手がタングスの後頭部に届く。
「似合わないそのゴーグル!貰ってやるよ!」
ゴーグルのバンドを強く引っ張る舞杏。
「あいたたたッ!」
首が折れるほどの確度で頭が後ろに倒れてゴーグルが外れる。
「ふんっ!」
ゲットしたゴーグルに満足そうな表情の舞杏。
タングスはため息をつき、特殊銃を取り舞杏に向ける。
「なんだよ?オモチャなんだろ、それ?」
「あぁ、安心しろ。無害だよ」
タングスが引き金を引くと強い光が舞杏を襲う。
「ッ!?」
目を瞑った隙にタングスは屋上駐車場の端まで走り、身を乗り出すと飛び降りた。
「おい!」
舞杏が目を擦って追いかけるとタングスは小型エアドライブに乗って上がってくる。
「ちっ、まだ仲間が隠れてやがったか」
仲間が操縦する小型エアドライブの後ろに腰を下ろし、手を振ってから逃げていった。
「くっ…」
「しゅ、主任…?」
よろよろと立ち上がろうとするノブ。
「何してる!早く立て!追うぞ!」
ノブの背中を叩き、張り込みに使用していた覆面パトカーに乗り込む舞杏。
離れていくタングスは不憫な刑事を哀れんだ。
ノブから抜け出したテュラノスを先頭で追いかけていた真夏を2台の小型エアドライブが追い越していく。
「はわっ!?」
《なんにゃコイツ等?》
空の交通ルールを守ることなく縦横無尽に飛ぶ小型エアドライブ。真夏を挟んで追いかける双連のパトカーがサイレンを鳴らしていなければ事故が発生していたかもしれない。他の交通は緊急走行中のパトカーに気付くと減速や針路変更をして近づかないようにしている。
「この状況、周りの人には暴走族を追っかけてるみたいに見えるんでしょうね」
《ご主人も追っかけられてる側だにゃ~》
「た、確かに…。私もパトランプを付けた方がいいでしょうか?」
《こけしに光機能を追加してもらうにゃ?》
「ふふっ、それもいいですね」
雑談しながら追いかけていると先頭のエアドライブ操縦者が特殊銃を構えてテュラノスに放つ。するとブワッと一瞬空間が歪んだ。
「えっ?」
《アイツ等、見えてるにゃ?》
『今、何かを撃ったね。先頭でテュラノスを追いかけてるみたいだし、やっぱり理想なき革命家にはテュラノスが見えてるんだ…。真夏ちゃん、テュラノスは?』
「え、えっと、そのまま逃げてます!」
蛇行して飛び続けるテュラノスを引き続き追いかける。
(テュラノスに変化は無い…。今のが攻撃、だったら革命家は私達よりもずっと先を行ってる…。先頭の2人が持ってる銃もタングスが持ってた銃も形状が少しずつ違ってる。テュラノスに効果がある攻撃手段を模索してるんだ)
『真夏ちゃん!左下に潜り込んでテュラノスの前方に魔力砲を撃って!』
射線がビルの隙間を縫うように、尚且つ交通の無い場所を探し出した双連が指示を出す。
「前方!?直接狙わないんですか?」
『急いで!射線が消える!』
「はっ、はひっ!」
指示通りに飛び、杖にしがみついて照準を合わせて魔力砲を放つ。
魔力砲の光に何よりも驚いたのはテュラノスだった。減速したテュラノスを理想なき革命家が特殊銃を交互に撃つが効果が無いようだった。
そこへタングスを乗せた2人乗りの小型エアドライブが追いついてくる。
「なにか一つでも成果を持って帰りたいものだな!」
《にゃっ!?》
テュラノスに衝突するコースで進み、特殊銃を撃つタングス。強烈な光がテュラノスを包み、煙のような体を少し削ったように見えた。
しかし、すぐに体勢を整えて逃げるテュラノス。
「ダメか…!撤退だ!」
タングスの号令で散り散りに撤退する革命家達。
『真夏ちゃん!?』
「だっ、ダメです!テュラノスが逃げてきますよ!」
(撤退した!?理想なき革命家の武器はまだ完成していない…)
『真夏ちゃん!上空を飛行禁止エリアに設定したよ!下から撃ちまくって!』
「は、はい!あ、当てていいんですよね!?」
近くのビルに着地して慎重に狙いを定める。
『やっちまいな!』
ドンッと光る魔力砲がテュラノスを包み込む。射線上にあったビルの端が少し巻き込まれたが人的被害はなく、光の線が霧散して視界が開けるとそこにテュラノスの姿は無かった。
「……。…あれ…?」
《消えちまったにゃ…?》
『テュラノスは!?』
「き…消えちゃいました…?」
『消えた?消滅したということかい?』
ノブをパトカーに押しこんで追いついてきた舞杏は既に戦利品のゴーグルを付けている。パトカーから半身を乗り出し周囲を捜索する。
「は、はい…たぶん…?」
スカーレットと視界共有をしてぐるぐると注意深く確認するがテュラノスの姿は見えない。
『成功…ですね!真夏ちゃんの魔力砲はテュラノスに通ります!』
『あぁ、このゴーグルで姿を見てみたかったが。倒せたのなら良しだ』
『ゴーグル?…って何で主任がそれ付けてんですか?』
『革命家と戦った戦果だよ。奴等にはテュラノスが見えているようだったからね。恐らくこれが見る為のアイテム』
ゴーグルを外してまじまじと見つめる。
『はい、見えていたのは間違いないと思います。真夏ちゃんを追い越してましたし。それどころか、アイツ等はテュラノスへの攻撃も試しているようでした』
『私も一発喰らったがなんともなかったな。そっちはまだまだなんだろう』
すぅーっとパトカーに近づく真夏はびくびくしている。
「あ、あのぅ…。わ、私…殺しちゃったってことですか…?」
「そうなる可能性は前にも話しただろう。悪いことじゃないよ。テュラノスは人類を支配しようとする悪であり、実体がなく捕まえることもできない。真夏君の魔力砲だけがテュラノスに対抗できる武器だからね、グッジョブだよ」
舞杏は親指を立てて真夏を褒める。
『ノブさんの様子はどうです?』
『あぁ、俺は大丈夫、少し肩をやられたくらいだ…。すまない、乗っ取られていたみたいで、迷惑をかけた』
『いえ、無事で良かったです。主任、一応ノブさんの検査と隔離を進言します』
「そうだね、一度六課に戻ってノブちゃんを検査しよう。乗っ取られている間にタングスと戦闘していたみたいだし、肩の負傷も治療しないとね」
一同は理想なき革命家を追うことなく一度六課へ戻ることになった。
「テュラノスに乗っ取られた人間は怪人化する恐れがあります。ノブさんは六課のフロアで隔離して、ここに戻ってきた捜査員への対応をお願いするべきかと」
ノブの肩を治療しながら双連は方策を立てる。
「うん、ここなら監視できるし、留置所よりはマシだろう」
「すみません、俺も捜査に協力出来たらよかったんですが…」
「真夏君が居れば怪人化の解除は容易いだろうが、単独になったタイミングで怪人化したら大変だからね。今は治療に専念すると思ってゆっくりしてな」
負傷した肩に優しく手を置く舞杏。
「主任…」
(なんだろう…優しいのが恐い…)
複雑な表情のノブ。
「それじゃ、私達はまたお邪魔リアンの捜査に出るよ」
「はい、ではノブさん。トイレなど監視がない場所には長時間居ないようにしてください。それと、六課の出入り口はこちらで管理しますので、捜査員が戻ってきてもノブさんは鍵を開けずにこっちに連絡をお願いします」
「了解」
六課にノブを残して駐車場へ向かう。
「…あみちゃんと杉戸さんに六課フロアの監視をお願いしとこう」
デバイスで指示を出しながら先頭を歩く舞杏。
「ノブさんが怪人化する可能性は半々ですね。怪人化してしまえば六課から逃げ出すのは簡単でしょうが、常時監視がついていれば出て行った後も追えるでしょうし、真夏ちゃんがいれば安心です」
真夏を見て頷く双連。真夏もそれに応えて首を縦に振る。怪人化解除はすでにお手のものだ。
「ノブさん、テュラノスに乗っ取られた人間が今後どうなるかは心配ですが、現状プロップバクテリウムの検査を除いた簡易検査では、主任に踏みつけられた肩以外にケガがなくて良かったですね」
双連の言葉に舞杏の足が止まる。
「…踏みつけ…?」
きょとんとした顔の真夏と面食らった表情の舞杏。
「き…貴様…。何故それを…!?」
「…ノブさんはテュラノスに乗っ取られていたんですよ。その行動に目を通すのは当たり前でしょう?」
「…本人はタングスと争った時にケガしたと思っている…。事を荒立てる必要はないだろう…?」
「報告は必要なことでは?」
にやにやと嘲る双連。
「………何が望みだ…?」
「ハーゲンダリッチの期間限定、春苺で手を打ちましょう」
「高いヤツじゃないか!」
「ワンコインですよ」
「くっ……。条件がある」
「もう、何ですか?」
「…給料日まで待ってくれ」
「はぁ?もう金欠ですか?やっぱり主任に一人暮らしは無理です、早く実家に帰ってくださいよ」
やれやれと肩をすくめる後輩に言い返せずに唇を噛む舞杏。悔しそうに睨むその視線の先でぺぺぺぺぺっと聞き慣れない着信音が鳴った。
「…?」
デバイスを手に取り確認する双連。
「置いてきた真夏ちゃんのデバイスへの着信です」
「えっ?私のですか?」
「課長から直接真夏ちゃんに。課長テュラノスは真夏ちゃんが部屋で待機したままだと思っているかもしれません」
「通話できるのかい?」
「はい、このデバイスから遠隔で。相手には普通に出たと思われるはずです」
真夏にデバイスを差し出す双連。
「えっ…。出てもいいんですか?課長さんは今、テュラノスなんですよね」
「用件を聞くだけでいい。私達が居ることは、内緒だよ」
口元に人差し指を添える舞杏。
真夏は頷いてデバイスを受け取り通話に出る。
「は、はい、幸谷です…」
『あぁ、清水だ。悪いが、今から送る住所まで急いで来てくれないか?事件捜査でキミが必要になってね。よろしく頼むよ』
それだけを伝えて通話が終了する。
「短っ、ボロが出る前に用件だけ伝えやがったな」
「住所きました。旧工業地帯の再開発エリアですね。最後に課長が確認された場所の近くです」
真夏からデバイスを返された双連が真夏のデバイスを遠隔で操作してファイルを開く。
「99%、いや120%罠だろうが…」
少し考えて、にやにやと何かを企む舞杏。
「来いと言うなら、行くしかない。乗るしかないね、このビッグウェーブに!」
嬉しそうにスキップしながら進みだした上司に不安を覚える部下たちだった。




