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#28 監視される者



 ”君に殺される夢を見た

  それでいいと俺は思った" 


 タングスは目を覚ますと自分の瞳が潤んでいることに気付く。

 新調された機械の手で目頭を拭う。

(結婚するまで警察官だった君が、今の俺を許すことはないだろう…)

 立ち上がって身体を軽く動かしてみる。

「タングス、新しい義肢の調子はどうだい?」

 仲間の機械技師がタングスの身体を検査する。

「大丈夫。前のと同じ感じだ」

 ギュッと拳を握りしめるタングス。

「…うん、良さそうだね。肉体部分、機械部分共に良好だ…。これで義肢の取付手術は終わりだが…?もしかして、痛かったかい?」

 少し赤いタングスの目に気付いた技師が問う。

「ふっ…。いや、そうじゃない…。少し、昔のことを思い出した」

「昔の…?…ふふっ、やめてくれよ。キミに涙は似合わない。キミはこの世界を破壊する者、デストロイヤーなんだからな」

(そう、正義感の強い君が悪を許さないように、俺もこの悪に支配された世界を許せない…)

「わかってる。この世界の支配者たちを、俺達の手で根絶やしにしてやろう」



 誕生日パーティーが終わり、ホルスの自室ではパジャマパーティーが開催されていた。

「地味ねぇ…」

 真夏が魔法を使う姿をあざ笑う平子。

「う…。確かに…」

 パジャマパーティーに参加し、魔法を披露することになった真夏は毎晩少しずつ進めていた浅見家のウエディングドレスの修復魔法を見せることにしたが、あまりの地味さに鼻で笑われてしまった。

《こんガキャー、ご主人がどれほど高度な魔法を使ってるのか理解してないにゃ》

 元のドレスの写真を参考にして破損した部分を修復していく。

「遅い…。滅茶苦茶ゆっくりだけど、生地が綺麗になってるのはわかるじゃんね」

《さっすがホルスにゃ。ぱっつんとは感性が違うにゃん》

 純粋に目を輝かせるホルスと飾に感心するスカーレット。

《今ご主人が使ってる魔法は錬金術に近い地属性魔法にゃ。繊細なマナコントロールと大量の魔力を消費する難度の高い魔法にゃ》

 人形のパジャマを着せられてオモチャにされているこけさんがスカーレットの通訳をする。

「この魔法は錬金術に近い地属性魔法で難度の高い魔法だそうです」

「へ~」

《マナを物質に変質させても魔力の供給が途切れると元のマナに戻ってしまうにゃ。それを無理やり大量の魔力を流し込んで物質のまま固定するのにゃ。ぱっつんガキんちょには理解できないにゃ~》

「……。ガキには理解できないそうです」

「んだとこの野郎」

 ホルスに首根っこを掴まれるスカーレット。

《訳すならちゃんと訳せにゃー!》

「コラコラ、スカーレットちゃん虐めちゃダメだよ」

 ホルスからスカーレットを奪い取って優しく抱き上げる飾。

《地味子はトリオの良心だにゃ~》

「それにしても、ウエディングドレスかぁ…。いつか私も着るのかな…」

 真夏の作業を見ながらポツリと呟く飾の顔はうっとりしている。

「結婚しない選択肢もあるけどぉ、あなたはするんでしょうねぇ。周りが放っておかないでしょうしぃ」

「マイマイは可愛いからなー、ちくしょー」

 悔しそうなホルス。

「え、えぇ~?ホルスちゃんの方が、可愛いよ…?」

 飾は恥ずかしそうにしながら上目遣いでホルスを励ます。

「わかってないわねぇ、そーいうところよぉ?あなたみたいのがサクッと結婚決めてきたりするのよぅ」

「平子っちー!」

 ワザとらしく泣きながら平子の胸に飛び込むホルス。

「はいはい、良いのよぅ。メスってのはそれだけでオスにとって価値のあるものなんだからぁ、自分らしく生きていきましょうねぇ」

「動物っぽく言うなよぉー」

「動物であることに間違いはないでしょう?」

(…何でしょう…。騒がしくて集中できません…)

 真夏は集中できないなか、いつもより遅い速度で修復魔法を使い続けた。



「主任?…主任!」

「はっ!?…なんだ?事件か!?」

 ぼんやりと画面上のお馬さんたちを見ていた舞杏は我に返ると、画面の向こう側の双連と視線が合って身構えた。

「もう、何ぼんやりとしてるんです、仕事中なんですけど?」

「あ、あぁ…すまない。少し考え事を…」

(はぁ…。金欠で賭けられない時に予想したレースに限って当たるんだよなぁ…)

 ため息をつきながらも冷静に画面を切り替える。少し遅れて双連が冷たい視線でモニターを覗き込む。

「……。理想なき革命家が押入った政治家宅のリスト、ですか。今更見直してどうしたんです?」

 舞杏はデスクの上で手を組み、真面目な顔で考える。

「あぁ、少し思うところがある。先日の最高裁判所での対談、タングスの話が気になってね…」

 鷹司舞杏、この道のプロである。

「タングスの話ですか…」

 双連が手を伸ばして舞杏のキーボードをタタンと叩くと競馬中継が映される。

 固まる舞杏。

「………。」

 画面を見つめて微動だにしない。

「…何か言う事は?」

「……。…黙秘権を」

「今月分は使い切りました」

「嘘だ!まだ6日だぞ!?一週間も経ってないじゃないか!?」

「殺…。叩きますよ?」

「おい、今なんて言おうとしたんだよ?」

「言ってたんですよ、おばあちゃんが…。大抵のものは叩けば直るって…」

「い~けないんだー!無抵抗な人に暴力なんて、悪徳警官だ!」

「はぁ、ガキみたいなことをベラベラと…。話は署で聞く、黙ってついてきなさい」

 舞杏は腕を引かれて連行される。

「ひぃいいっ!どこに連れてくきだよ!署ってここじゃねーのかよ!?」

 日常の光景に六課の職員は気にも留めない。

 双連のデスク、双連が椅子に座ると舞杏は自ら床に正座する。

 スクリーンセイバーを解除して資料を開く。

「…?これが何か?」

 首を捻る舞杏。

 ここ数日の米俵宅監視班の報告書が並べてあるだけだった。

「どう思います…?」

「どう思うって言われても………!?」

 双連の意図を理解する。

「少し現場を見た方が良いかもしれないね」

 舞杏は立ち上がると自分のデスクに戻り外出の準備をする。

 双連も無言でPCにロックをかけて立ち上がり駐車場へ向かった。

 後を追って舞杏が六課を出ようとした時に清水に呼び止められる。

「鷹司、どこへ行く?」

 舞杏の動きが一瞬止まり、振り返る。

現場百遍げんばひゃっぺん!足を使った捜査だよ!」

 ペシンと太ももを叩いて足を強調する舞杏はそのままムッとした表情で六課を後にした。

 駐車場ではいつもの覆面パトカーに双連が先に乗っている。

 周囲を確認してドアを開ける舞杏。

「たけのこきのこ?」

「私はきこり…。これ、どーゆー意味です?」

「二つに一つと考えることが浅はかだということだよ」

 乗車してシートベルトを素早く装着する。

「はぁ、よくわかりませんが…出ますよ」

 出庫して空を飛ぶ。

「盗聴は?」

「ありません」

「はぁ…。まったく、こういう時はまず合言葉だろう?」

「はぁ…。まったく、合言葉を使うまでもなく主任は主任でしたよ」

「え…。そうかな…。てへへ。…とりあえずは真夏君の確保だ」

「了解」

 針路を伊月パンへ向ける。

「しかし、よく気付けたね。グッジョブだぞ」

「まぁ、課長に米平の深堀を指示されてましたからね」

 双連は米平の周りを調べるなかで米俵宅監視班の報告書にも目を通していた。そんな時にふと気づいた矛盾。報告書で米平一米と堀レイナは4日間部屋に閉じこもり外出はしていないとあった。おかしなことだが仲間の報告を信じていた。だが実際、2人は外出を繰り返し、昨日から部屋には誰も居ない状態が続いていた。付近の監視カメラを確認していた時に気付いた矛盾だった。

「米俵宅監視班は4人交替制で、現在はノブさんが張ってます。外出の時間帯から見て、4人全員がテュラノスに乗っ取られたと考えていいでしょうね」

「外出する監視対象に気付かないなんて、まぁ、ないだろうからね。真夏君の回収も気付かれたくないんだが…」

「警護用パトカーの映像を差し替えて自宅待機してるように見せます」

 舞杏は頷き、ため息をつく。

「危惧していたことだが、いざそれが訪れると判断に迷う…。どれだけ乗っ取られた?何をする気で乗っ取った…?」

 2人の脳裏にシュープリーム島を襲った駆逐艦の惨劇が浮かんだ。

「テュラノスは真夏ちゃんを恐れているという仮説も見直しですか?」

「…今までの行動を見れば直接的な接触はしたくないはず…。いや、待てよ…。真夏君との接触を避け、真夏君の方は監視に徹しているならどうだ?鬼の居ぬ間に何とやら。テュラノスには何か別の目的がある…?」

「真夏ちゃん以外に六課に何の用が…?」

「……テュラノスが六課でみなみ君を保護していることを知っているとしたら、みなみ君の回収…?…いや、堀田君が今まで放置されてきたんだ、知っていたとしても放置する可能性の方が高い、か?…とすると、理想なき革命家…?」

「我々と理想なき革命家が繋がっていると思われたってことですか?」

「実際、奴等は我々を通して対談の場を設けた。理想なき革命家を探るために六課に潜り込んでいるならば辻褄はあっている」

「真夏ちゃんには手を出さずに革命家を調べる…。困りましたね、革命家の情報なんて何も持ってませんよ」

「まったく、とんだとばっちりだ」

「…だとしたら、真夏ちゃんに付いてる監視に私達が見つかる可能性は高いですね。透明化も地上では効力が低いですから」

 サイレンは鳴らさずに飛び、高度を確保したところでパトカーを透明化させる。

「だが真夏君の回収は最優先だ。革命家目的というのも仮説だからね。それに、テュラノスに乗っ取られた人間は怪人化する可能性もある。どの道真夏君は必要だよ」

「真夏ちゃんのデバイスは六課から監視ができます。護衛用パトカーをハッキングしたとしても、テュラノス側の監視があれば私達が近づくのはバレてしまいますね」

「裁判所からの追いかけっこをした以上、テュラノスが煙の状態で監視しているとは思えないが、こちらから監視者を見つけるのは難しいか…」

「…透明化魔法を使った真夏ちゃんが窓から飛び出せばテュラノスにバレる可能性は低いと思いますが」

「その連絡方法が監視されている可能性があるんだろう?」

「はい、でも私達には頼れる味方が居ます」

「うん?…はっ!こけさん!」

「はい、こけさんは以前、課長に役立たずと認定されて倉庫に押し込められた時に六課のシステムから切り離されています。主任に引っ張り出されてから電気系統を改造する際、真夏ちゃんに合わせたワンオフの機体になってますから、私以外にこけさんをハッキングすることはできません」

「頼れるのはやっぱりこけさんか…。よし、こけさんに連絡して上空で合流だ」



 真夏は自室でスカーレットとにらめっこしていた。

「ちょっと黄色味はあるけど、鮮やかな赤色の目」

《あんまり見つめられると恥ずかしいにゃん》

「えへ、そうですね。でもこれは重要な任務ですよ。煙になったテュラノスさんを見ることができるスーちゃんの目を解析するのは暇…自宅待機を命じられた私達の責務です」

《にゃ。視界共有はもう完璧だにゃ。煙野郎をご主人が直接見るのもきっとすぐだにゃん》

「はい、頑張りましょう」

 スカーレットの視覚を解析している真夏を邪魔しないように、部屋のコンセントで充電しながらスリープモードだったこけさんがパッと目覚める。

「ピピピッピピ!マスター、サブマスターから緊急指令。監視されている可能性有り、デバイスを室内に放置、透明化魔法を使って窓から脱出しろ、とのことです」

「へっ?緊急指令…?」

《監視されてるのはいつものことだにゃ。敵が近くに居るにゃらボクがブッ飛ばしてやるにゃん》

「ダメですよ、ニャームストロングは効かなかったじゃないですか。上司の指示に従う。社会人の基本です」

《にゃー、変な指示だにゃ…。まさか、舞にゃんは既に煙野郎に乗っ取られたにゃ!?》

 ワザとらしく驚いた表情のスカーレット。

「ふふっ、舞にゃんって可愛い呼び方ですね」

 立ち上がり、ローブを羽織って一度玄関へ向かう。傘立ての杖と靴を持って戻る。

「さぁ、行きましょうか」

 こけさんをローブの内に隠し、杖にスカーレットを乗せる。

《忍びのようにまったり行くにゃ》

「それを言うなら、ひっそりですね」

 真夏は透明化魔法を使い、静かに窓を開けてそっと飛び出した。

 指定された位置まで数分飛ぶと真夏の目にピカピカと光が当てられる。光の方向に進んで六課の覆面パトカーを見つける。

「お、お疲れ様ですぅ」

「お疲れ、乗ってきな」

 パトカーのドアが自動で開き、後部座席に乗り込む。

「私のこと見えてたんですか?」

 透明化魔法を使っていた真夏はピンポイントで当てられた光に首を傾げた。

「ここで部屋を出るところから監視してたからね、ずっと追ってれば割とわかるもんだよ」

「そうなんですか…」

「いいかい?姿を隠すときは空や森を背景にするんだぞ」

「は、はい」

「それで、主任。これからどうしますか?」

 双連は他の交通に注意し、監視者の目から逃れるように蛇行して飛ばす。

「…?」

「うん、真夏君は無事回収。最早ミッションコンプリートだ。真夏君が部屋に居ないことに気付かれる前に六課へ戻って怪しい連中を片っ端からアレで処理してやろう」

「雑な作戦ですね」

「へ?…アレ?って何ですか?」

「魔力砲だよ。六課がお邪魔リアンに乗っ取られた。真夏君には魔力砲を使ってもらうことになる」

「えっ!?だっ、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫じゃないよ、下手すれば六課は壊滅する。主任も、余裕がある状況じゃないんですからね。テュラノスはネコちゃん以外には見えない厄介者です。しっかり作戦を練る必要があります」

「そりゃあそうだが、ゆっくりもしてらんないぞ」

「はい、なので役割と動きだけ…」

 双連はハンドルから手を放してデバイスで六課の間取り図を表示する。

「まず初めに六課の封鎖です。私達が戻った瞬間に電子ロックできる廊下の出入口2カ所は私がハッキングして封鎖します。人間に出入りできる高さじゃないので窓のほうは放置しますが、テュラノスはそこからでも逃げ出す可能性はあるので見落とさないようにしてください」

 ルームミラーでスカーレットと視線を合わせる。

《任せろにゃい!》

「主任は速やかに六課全員の武装解除をお願いします」

「反抗するヤツはテュラノスである可能性が高い。容赦なくいくとしよう」

「いえ、普段の素行からある程度反抗されると思いますので、テュラノス乗っ取りの可能性があることをちゃんと周知しながら進めてください」

「え?私の威厳…」

「ふざけないでください。真夏ちゃんはここの陰に隠れて待機、攻撃されずに全体を見渡せる場所です。ネコちゃんも同じ場所で真夏ちゃんの護衛とテュラノスの監視を。視界共有の魔法は使っててくださいね」

 間取り図の隅を指差して待機する場所を教える。

「りょ、了解です」

「武装解除後、私とこけさんで各捜査官のデバイスをハッキングし、行動履歴を確認します。どれだけ見分けられるかわかりませんがやってみます」

「あ、あのぅ…。例の合言葉じゃダメなんですか?」

「あんなのを簡単に覚えられるのは西園寺君くらいだよ。一応、支給されてるデバイスには行動履歴が残るようになってるからね。有事の際ははそれを見て白黒判断しようということになっていたが…」

「……?」

「デバイスの強制開示権を持ってる課長は恐らくお邪魔リアンだ。お邪魔リアンが乗っ取った人物の記憶まで見ることができるのなら、行動履歴は改ざんされてるかもしれない」

「現状、可能性は五分五分、確証はない。私は記憶くらい読み取れると思うけど、主任は読み取れない派なの」

「ま、どっちの可能性も頭に入れて動こう。お邪魔リアンは攻めてるつもりだろうが、真夏君を確保した今、我々の攻撃ターンとなったよ」

 舞杏は見えてきた公安を見て不敵な笑みを浮かべた。



「大魔女ファアンの手記では、『科学とは自然を理解することであり、魔法とは自然を操るものである』と記されている。要するに、科学と魔法の根幹は同じ、科学でできることは魔法でもできる。そして魔法でできることは科学でもできるということだよ」

 都内、理想なき革命家が持つ複数のアジトの1つ、研究者や技術者が集められたこのアジトでタングスとまどかを含めた会議が行われていた。

「タングスの目は外来精神体を捉えることに成功した」

 薄暗い部屋の中でプロジェクターが米俵から出てくる煙のようなものを映し出す。

「これを受け、我々の行動は更に苛烈なものになるだろう」

 壇上で熱意を込めて語る機械技師の男はジュラルミンケースを開けて4つの銃のような物を一同に見せる。

「電磁波、音波によって目に見えない外来精神体を攻撃する特殊銃だ。かつて魔法使いが使用したリベレーション、現代の魔女幸谷真夏の魔力砲を科学的に再現しようとしたものだが、実証実験はできていない」

 4つ、4種の特殊銃はそれぞれが変わった形をしている。その内の1つを手に取り、プロジェクターに映された煙のようなものに特殊銃を向ける機械技師。

「こればっかりは使ってみないことには分からないからね」

 機械技師が砕けた笑みを見せると緊張していた場の空気が少し和んだ。

「協力してくれたシュープリーム島の住民。怪人から戻った人だが、例のプロップバクテリウムが失われている以外に一般人との違いは無かった。つまり外来精神体を殺せるはずの魔力砲は人体を著しく損傷させるものではないと思われる。動物実験を行い、再現性が高いものを4種に絞った」

「あとは試してみてからのお楽しみってことか」

 部屋の隅からタングスが声を出した。

「そうなるね。4種ともハズレの可能性もある。次も逃げ切ることを優先してくれ」

「銃の数は?」

「2丁ずつ用意したが、ゴーグルの方が6個しか作れてない。1人1丁は無理だな」

「1人2丁、いや、分散して確実にデータを集めたいな…。俺ともう1人が2丁持つ。それから1人1丁だな」

「うん?…分散させるならゴーグルが余るぞ?タングスはゴーグル要らないだろう」

「いや、俺が1つ持ってくよ。今確実に外来精神体を攻撃できるのは幸谷真夏だけだ。公安六課にゴーグルを1つプレゼントしとこう」

「なるほど、了解した。では次に…」

「ちょっといいですか?」

 機械技師が映像を切り替えた時に円が手を上げて立ち上がる。

「私の機体の方はまだですか?」

「すまない、そっちはまだかかりそうだ」

「そ、そうですか…」

 力なく再び席に着く円。

 機械技師は円が座ったことを確認して頷く。

「…それぞれ特殊銃は射程距離が異なり…」

 薄暗い部屋の中、理想なき革命家達の会議は続いた。



 公安六課前、舞杏と双連は銃の弾丸を確認してホルスターに戻す。

 顔を見合わせて頷き合うと舞杏を先頭にしていつも通りに入室し、真夏はそそくさと指示された場所まで早歩きで向かう。

「ぴゅー、ぴゅーひょろぴゅー」

 双連がドアをハッキングして封鎖するまで怪しまれないように口笛を吹いて誤魔化す舞杏だが、悪目立ちするその姿に双連の眉がピクリと動く。

(援護してるつもり?邪魔はやめてほしいんだけど…!)

 口笛を無視して作業を進める。

「…封鎖完了しました」

 語気を強めて報告すると何食わぬ顔の舞杏が親指を立てて双連を褒める。

「さて」

 一呼吸置いて舞杏はオフィスを見渡す。

「御用改めといこうか……あれ?なんか人少なくない?」

 職業柄、全員が揃うことは稀だが、60人を超える捜査員が所属する六課のオフィスにしては人が少なかった。

「あみちゃん、今日人少なくない?」

 入り口近くにデスクを置く若手の捜査員に声をかけると、口笛を吹く上司に係わらないように無視していたあみちゃんは仕方なく立ち上がる。

「はい…。課長の指示でみんな出掛けましたけど…」

 オフィスに残る十数名の顔を見回す舞杏。

(残ってるのは内勤組か…)

「えっ?課長もですか?」

 ハッキングを完了させた双連はデバイスを体の後ろに隠す。

「課長も一緒です。行先は皆さんバラバラみたいですけど」

「…主任、出端を挫かれましたね…。こちらの動きを気取られたかもしれません」

「あぁ、だがまずはこの場に残るみんなの白確チェックをすべきだろう。ここを安全圏に出来れば出てった連中は戻ってきたところでお邪魔リホイホイすればいい」

 小声の双連に合わせて舞杏も小声になる。

「お邪魔リホイホイって…待ち伏せってことですか?テュラノスに時間を与えることになりそうですけど…」

「確かに…。戻ってくるとも限らないし、これ以上悪巧みされる前に何とかしたいな…」

 顎を触りながら考える舞杏。

「ですが最優先で白確を取るのには賛成です」

「あ、あぁ、そうだね…。ゴホン。みんな聞いてくれ!我々六課は今危機的状況にある。六課の捜査員が例のテュラノスに乗っ取られてしまった。確証はない、だが蓋然性は高いと思っている」

 声を張った舞杏の言葉に捜査員達は互いに顔を見合わせる。

「みんな両手を頭の後ろで組んでその場から動かないでくれ。1人ずつ尋問させてもらうよ」

「鷹司主任!それって…!…いえ、なんでもありません…」

 何か言おうとして一度立ち上がったあみちゃんはそのまま席について指示された通りに両手を組む。

「………?」

 他の捜査員も同じように大人しく指示に従う。

「よし、それじゃあ、あみちゃんから始めようか。デバイスを提出してくれるかい?数日分の行動履歴を確認させてもらうよ」

 あみちゃんは指示に従いデバイスを舞杏に渡す。舞杏はそのままデバイスを双連に手渡してあみちゃんのボディチェックを行う。

「うん?あみちゃん、銃は持ってないのかい?」

「はい、私は外に出ることがほとんどないので、保管庫に入れっぱなしです」

「そうか、OK、武器の所持は無いね。西園寺君が白確を出すまで両手は頭の上で待機してくれ」

 双連は自分のデスクでPCを起動させ、舞杏は次の捜査員のボディチェックに向かう。

「さぁ、デバイスを出してくれ」

 声をかけられた捜査員は大人しくデバイスを出す。

(…おかしい…)

 双連はあみちゃんのデバイスを精査しながら、大人しく尋問を受ける六課に異変を感じる。

「…おや?キミも武器を持ってない?」

 ボディチェックに進んだ舞杏が問いかける。

「はい、内勤組はみんな持ってないんじゃないかと…」

 チェックを受ける男性捜査員は六課に残る内勤組の顔を確認しながら答える。

「…OK、デバイスの確認に時間がかかるからね、もう少し待機しててくれ」

 全体に目を配りながら次に移る舞杏。

 大人しく尋問される捜査員。

(…おかしい、やっぱりこれは普通じゃない…!)

 ドン、とデスクを叩いて立ち上がる双連。

「主任!おかしいです!この六課は既にテュラノスに乗っ取られています!」

「な!なんだってー!?」

 えーッという驚愕の声が六課に響く。

 中でも一際大きな声を上げたのはデバイスの行動履歴を調べられている最中のあみちゃんだった。

「私何か変なことしてました!?」

「…いえ…。デバイスに不審なものはありませんでした…でも!」

 双連の険しい表情に杖をギュッと握りしめる真夏。

「六課のみんなが主任の言うことを素直に聞くとは思えません!!」

 核心を突いた双連の声にどよめく六課。

「いやいや待て待て待てーい!」

 声を荒らげる舞杏。

「私の人徳!人徳のなせる業なの!私の人柄が困難な状況を乗り越える一助となるの!」

「そんな訳ないでしょう!現実を見てくださいよ!」

「なっ!なんだと!」

 皆が両手を頭の上で組む中、言い争いを始める舞杏と双連。

「あ、あのぅ…」

 見兼ねたあみちゃんが2人の間に入る。

「このような状況の想定はされています。テュラノスが相手ですし、乗っ取りを疑われた場合は身の潔白を証明しつつ、疑ってきた相手を疑えと……課長が」

「課長が…。なるほどです。課長の人徳ですね。納得しました。作業を続けます…あ、あみさん白確で」

 すっと席に戻り作業を再開する双連。

「…おい、闘論は終わりか?納得がいかないのは私だけか!?」

 誰も舞杏とは目を合わせようとせず、渋々尋問に戻る舞杏。

 その後は白確が出た者から舞杏と双連の作業を手伝い、十分程度で六課の内勤組全員に白確が出された。

「…ふぅ…。とりあえず、この場に居る人は大丈夫そうですね」

「あぁ、みんなの疑いは晴れ、溝は深まった…」

 舞杏が寂しそうに預かったデバイスを返して回っていると清水から着信が入る。

「おや、人徳の高い課長様からじゃないか…。データファイル?」

 清水から送られてきたのは音声ファイルだった。

 双連のデスクに一同が集まり、音声ファイルを再生する。

『………。…ふぅ…』

 男のため息。

『…鷹司主任、これを君が聴いているということは、私はもうこの世に居ない…。もしくは、私はもう私ではなくなっているだろう…』

 舞杏はピッと停止ボタンを押す。

「そ、それって…」

 真夏が舞杏のデバイスを覗き込む。

(ご本人同席の場で再生するには少々気まずいタイプのもの…?)

 キョロキョロと六課を見渡す真夏。

(今課長さんは居ません。再生を続けても大丈夫そうです)

「西園寺君、これは例の…」

「特別なプログラムが組まれていたやつですね」

「プログラムの解析は?」

「済んでます。一定期間特定の操作がされなかった場合、自動的に主任へファイルを送るように組まれたプログラムです」

「なるほど…」

 舞杏はデバイスを閉じる。

「聞かないんですか?」

「ふふっ、遺言を聞くにはまだ早いだろう。…これより課長、他多数の六課捜査員をテュラノスと断定、六課テュラノスの確保と真夏君の魔法による身体の解放、撃退を行う!」

 いつになく真面目な顔をする舞杏。

「了解!」

 六課一同が気合の入った返事をすると共に、皆が一様に小さな疑念を抱く。

 いつになく真面目な舞杏。

(主任は、乗っ取られてるんじゃないか…?)

 


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