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#27 密会



 都内にある老舗の喫茶店で静かにコーヒーを飲む清水。

 客の少ない時間帯で閑散とした店内。

 シュープリーム島怪人群発事件から数日が経ったある日のこと、清水は呼び出しを受けてこの喫茶店にやってきた。窓際のカウンター席、目印にと指定された黒い腕時計をカップの横に置いて待つ。

 暫くゆったりとした時間を過ごしていると、1つ席を空けて黒い手袋をした若い男が座る。

「若いな…。もっと年季の入った顔を想像していたよ」

「俺ももっと老けたオジサンを想像していたが、思っていたより若いな」

 ガラスに薄く映る互いの姿に視線を合わせる。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。部下からは事あるごとにハゲだハゲだと罵られているからね」

「ふっ…。未来の頭皮に不安を持たないガキのセリフですよ。気にする必要はない」

「ありがとう。自分ではまだハゲと言われるほどではないと思っているが、気にしすぎるのもよくないというからね。育毛剤の力を信じて委ねるとしよう」

 清水は笑いながらコーヒーを啜る。

「…公安六課、清水課長。急な呼び出しに応えてもらえて感謝します」

 若い男は小さく頷くように礼をする。

「来ない訳にもいかないからね…。だが、その名を語る以上、私は力ずくでもキミを取り押さえることができる権限があることを理解してくれ、タングス君」

 タングスと名乗る男から呼び出された清水。その名はEFS331便ハイジャック事件の報告書で理想なき革命家の関係者と舞杏が記したものだった。

「心得ていますが、六課にとっても利のある話なのでご容赦を」

 タングスは封筒を清水の前に滑らせる。

「私の連絡先をどこで手に入れたのか、一応聞いておこうか」

 封筒の中身を確認する間に投げかけた質問には概ね予想通りの答えが返される。

「すみません、企業秘密です」

 プライベートではなく、業務用のデバイスに届いた連絡。どこから漏れていても不思議ではない為、追及はしない。

「我々からしてみると公安六課の課長と繋がれたことはとても幸運なことだった。少なくとも一課と三課、もしかすると四課も、既に暴君の支配下にある。我々の調べで唯一、現状支配されていないと思われるのは六課だけだ」

「ふぅ…。ただの窃盗集団がハイジャックして元総理を殺害したかと思えば、組織内で落ちこぼれだの問題児だの、窓際六課だの言われて蔑まれているウチに何の用だか…」

「当然、あなたのことも調べた上でここに来ていますよ。あなたにとっても、これはとても興味のあることでしょう」

 清水は封筒の中の資料を見て驚く。

「我々理想なき革命家と公安六課は手を取り合うことができるはずです。我々の準備は整っている、これからもっと仕掛け、隠れた敵を引きずり出していく。その為に協力を…」

「ふっ…」

 清水は口元に手を当てて笑った。

「いや、とても面白い創作物だ…」

「…創作物…?」

「あぁ…。ユニークな作品だ。…公安とキミ達との協力関係は有り得ない」

「………」

「一つ、我々公安組織は正義だ。いかなる時も国家国民の為に公正でなければならない。一つ、君が本当に理想なき革命家の関係者だった場合、キミは悪だ。簡単に犯罪者と協力関係を結ぶことはできない」

「…綺麗事ばかりで戦える相手じゃない。あなただって分かっているはずだ」

 タングスの静かな声に威厳が増す。

「分かっているよ。だが、曲げることはできない」

 清水は資料を封筒に入れてタングスに返す。

「それで、どれだけの時間がかかる?その間にどれだけの人が苦しむ…?」

 封筒を受け取らずに窓の外を睨みつけるタングス。

「…悪を討つために悪と成れば、そこに悪は残り続ける。我々はどんな相手にも、正しく勝つ必要があるんだ。大人しくしていろとは言わない。我々に任せろとも言えない。…なんとも情けないが、正義には正義のやり方がある…」

 静かに立ち上がるタングス。封筒をポケットに突っ込むと清水に背を向ける。

「…面白いものを見せてもらった礼に一つ…」

 ガラスに映ったタングスは振り向かない。

「魔女の使い魔、黒猫スカーレットにはそれが見えているのかもしれないよ」

 立去ろうと歩き出したタングスの足が一瞬止まる。

「……」

 しかし何も言わずに再び歩き出し店を後にする。

 タングスから持掛けた交渉は決裂に終わったが、両者の表情に暗い影はなかった。



「はぁ…」

 真夏は公安六課の休憩室でため息をつく。

 スカーレットはみなみと追いかけっこをするように真夏の周りをぐるぐる回っている。

「…はぁ…」

《ご主人?どうしたにゃ?元気ないのにゃ》

 捕まえようとするみなみの追跡を軽く躱し続けるスカーレット。椅子に飛び乗り、テーブルの下をくぐる。みなみも追ってテーブルの下に入るが、頭をゴン、とテーブルにぶつける。

「あーーうちっ!?」

 その場でひっくり返るみなみ。

《にゃにゃ、自爆したにゃコイツ》

「あぁ!だ、大丈夫ですかみなみちゃん!?」

 駆け寄ってぶつけた頭を撫でる。

「クッ!にゃーーす!」

 スカーレットに非があるとばかりにイギギと牙を見せるみなみ。

《にゃっは~ん!ボクを捕まえるなんて100年はやいにゃー》

 みなみを煽るように尻尾をフリフリさせる。

「喧嘩はダメですよ。仲良くしてくださいね」

 遊びが喧嘩に発展しないように早めの仲裁に入る真夏。

「真夏君はお姉さん、いや、お母さんみたいだね」

 休憩室に舞杏と双連が入る。

「みなみちゃんも真夏ちゃんには懐いてるからね、相手してくれて助かるよ」

「そ、そうですね…。私はけっこう暇だし、みなみちゃんのこと気になるので来れる時は様子を見に来ようと思ってます」

「真夏ちゃんは自宅待機が多いからね。存在しているだけで怪人事件の抑止になってるよ」

 シュープリーム島での怪人群発以降怪人事件は発生せず、真夏の緊急出動はゼロとなっている。

「このままでは真夏君は税金泥棒だ。クビという可能性も…」

「ひぃっ」

「何言ってるんですか、抑止力を我々が持っていることに意味があるんですよ。フリーにさせるくらいなら飼い殺しです」

「ほ、放り出されるくらいなら、飼い殺されたいです…」

「今は価値ある唯一の魔女だからね。…そんな貴重な魔女さん、元気がないようだが、何かあったのかい?」

 ソファーにだらんと座る舞杏。

「へ?…あ、はい…。あの、シュープリーム島のことなんですけど…。島の復興、というか、再開発みたいになってて…。これでいいのかなって…」

「再開発…?」

 舞杏は首を傾けて双連を見る。

「シュープリーム島…。えっ…?…シュープリーム島IR事業?…いつの間にこんな…」

 双連はデバイスで情報を見て驚いている。

(西園寺さんでも知らなかったんですね…)

「IR事業?それって、カジノを含んでたりするの?」

「そうですね、カジノを含む統合型リゾートみたいです」

「ひゃっほーぃ!国内初のカジノだぜ!」

 手を上げて喜ぶ舞杏。

「なんだかんだ進まなかった国内カジノがここにきてシュープリーム島に、嬉しいねぇ」

 テンションが上がる舞杏にムスッと頬を膨らませる真夏。

「真夏ちゃんは違うみたいですけど」

 膨らんだ頬に気付いた双連が冷ややかな視線を舞杏に向ける。

「あれ?…嬉しくない…?」

「カジノでひゃっほいするのはギャンブル依存症くらいですよ」

「え、えぇ~…そうなの…?」

「カ、カジノもそうですけど、シュープリーム島が形を変える勢いで再開発が進んでて…。島の皆さんのことが心配です」

「年間来訪者数約2,000万人、直接雇用約1.5万人を想定ってとんでもない規模ですね…。シュープリーム島が生まれ変わる。その点については賛否両論でしょうが、それを踏まえた上でのシュープリーム島怪人群発事件だったと思うと、反吐が出ますね」

「わ、私、今日シュープリーム島に行ってきたんですけど…」

「あぁ、申請が出ていたね。パンの配達だったんだろう?」

「はい、そこでその…にこにこ政治おじさん?に会って、シュープリーム島のことを聞いたんです」

「にこにこ政治おじさん、明智議員だね。竹中派では無かったはずだけど、シュープリーム島事件に関係している…?」

 デバイスに情報をまとめている双連。

「あ、引継ぎ…タングスさんに殺された議員さんが力を入れていたプロジェクト、だったみたいです」

「あぁ、米ちゃん…。だったら竹中派が絡んでるのは間違いないか」

「その後釜が明智議員ですか。…わざわざ派閥の外の人間に。いや、次の選挙を見据えて明智議員が竹中派に取り入った可能性もあります」

「そうだね。夏の国政選挙は総裁選に繋がる重要な選挙だ。有力議員も大派閥も動き出しているってことかな。竹中派のお許しなしに総理にはなれないとも言われているからね。まぁ、何にせよ政治的なことに我々が口を出す権利はない。シュープリーム島の件も、私達はやれることはやった。真夏君は特にね」

「そ、そうですね…」

 真夏も不甲斐なさを感じつつ、自分にできる限りのことはやったつもりだ。

「怪人事件はまだ終わってません、シュープリーム島の人達の為にも、犯人を一掃してやりましょう」

「おっ、やる気だねぇ。でも暴走はダメだよ。いくら意に沿わない開発だからって、議員連中にいきなり魔力砲ぶっ放すなんてやめてくれよ?」

「し…しませんよそんなこと…」

 舞杏の視線を躱す真夏。

「精神生命体が入った議員なら魔力砲でどうなるか試してみたいですけどね」

「竹中派の議員全員がそうとも限らない。試す相手は慎重に選ばないとね」

 悪い笑みを浮かべる舞杏。

「それにしても、竹中派とか宇宙人、精神生命体って言い方はそろそろ統一した名称に変更しませんか?」

「私達の敵として定義する固有名詞。そろそろ必要だね…。真夏君、何か良案はないかい?」

「へっ?私、ですか…?」

 う~ん、とうなりながら考える。

(悪い宇宙人…精神生命体…実体がない煙のようなエイリアン…)

「お、お邪魔リアン、でどうでしょうか」

「西園寺君、何か頼む」

(き、聞かれたのにスルーされた…!)

「…テュランノス……テュラノス、はどうでしょう?非合法な手段によって独裁的な地位に就く人物を指す言葉です」

「なるほど、じゃあそれで。課長達にも共有しておいてくれ」

「了解」

(すんなり決まっちゃいました…)

「そ、それにしても。鷹司さんと西園寺さんがシュープリーム島のことを知らなかったのは意外でした。私はやらないんですけど、お二人はSNSとかで知っているのかと思ってました」

「怪人群発事件からすぐのIR事業だから変に勘繰られないように情報の発信を抑えてるんだろう」

 舞杏がプライベートの端末でSNSをチェックする。

「…?…怪人群発事件の時もそうでしたけど、この世界って発展している割に情報の伝達力が低くないですか?」

「うん?…まぁそれもお邪…テュラノスのせいかもしれないが、数十年前に登場したSNSの力を恐れる統治者たちは色々と制限を課そうとしたんだ。小さな声をやがて国すら飲み込む炎のように成長させるコミュニティをよく思わない奴等は昔から居たからね」

「ですが言論の自由のもとに法的な規制はされなかった。しかし現在、SNSでは政府に都合の悪い情報は潰されています。SNSと同時期に急激な成長を遂げたAI、これがシステムに組み込まれて情報の拡散を抑えていますから。通常、法的に許されていることをわざわざ事業者が独自に規制することなんて無いはずですが、お邪…テュラノスが当時から居たと考えれば納得できます」

「法的に出来ないのであれば事業者を乗っ取りシステムを支配する。ユーザーの声は無かったことになり広がることはない」

「で、でも、そんなことすればすぐに操作されてるってバレるんじゃぁ…」

 率直な疑問を持つ真夏。

「実際、当時は色々あったみたいだよ。自分の発言が消されたりすれば流石に気付く人は居る。そんな人たちが自由なSNSを求めて新しいコミュニティを作る。そんな流れがあった」

「結果としてSNSの乱立、コミュニティなんて人が集まれなければ衰退するもの。多くが生まれ、その殆どがなくなったそうです。弱いところは自然に淘汰され、強いところはシステムの支配を受ける。そうして現代の表向きには自由な情報社会の出来上がりです」

「だ、だったらテレビは、テレビは何で報道しないんです?」

「ははっ、それこそ大昔から権力の犬だ。テレビマンとかジャーナリストなんて言っても結局利益団体。放送利権で稼いでる商売人だよ」

「権力に従うか、係わらないかの二択。エルテレなんかは報道を切り捨ててドラマやアニメに音楽、スポーツ、バラエティーだけで構成されてますね」

「災害が発生してもエルテレだけは通常放送をしてた時には驚いたが、SAIONも広告を出してるし、ある意味一番安定しているテレビ局かもね」

「そ、そうなんですか…。流石に災害時は報道した方が良いのでは…」

「被災者からはそういうテレビに救われたって声もありますよ。ネットが使えない状態で、入ってくる情報が災害情報ばかりでは気分が落ち込むそうです」

「な、なるほど。それであえて通常放送を…」

「いえ、エルテレにはそもそも報道部がありません」

 すっぱりと言い切る双連。

「振り切ってますね…」

「うん、だからこそ信用できる。エルテレはお邪…テュラノスの支配下にはないということだからね。私達が確固たる証拠を突き止め、お邪魔リ…テュラノスの実態を白日の下へ晒す時、協力を仰ぐことになるだろう」

「その為の証拠集めですが、森永先生とは2週間後に会う約束ができましたので、予定を入れといてください」

 双連が舞杏と真夏のデバイスに日程を送る。

「2週間…?随分と空いたね」

「…?」

「はい、出張中とのことです。プライベートならいつでも来ていいと言われましたが、公安業務と伝えたらその日になりました」

「そうか、森永議員も選挙対策で忙しいんだろう。となると、それまでは暇だねぇ」

「な訳ないじゃないですか!竹中派議員の身辺調査だけでもまだまだ山積みだってのに、堀田ラインの住居へ出入りした謎の女の調査、米俵議員の住居の監視まで入ってきて人手が足りないんですよ」

「ど、どうどう。そんなに恐い顔しないでくれよ…」

「…主任、怪人化ライトの実証も止まってますよね」

 恐い顔と言われた双連は笑顔を作り余計に恐くなる。

「あ、あれは、動いてはくれてるんだけどね。やっぱり上の方で許可が…」

「終いには事故と称して主任にライト浴びせますよ?」

(やりかねない!コイツはやりかねないね!)

 舞杏の顔が引きつる。

「真夏ちゃんが治してくれるから安心してください」

 双連は飛切りの笑顔だ。

「さぁて!冗談は程々にして業務に勤しむとしよう!我々の手で必ずテュラノ…お邪魔リオンを捕まえるためにね!!」

 気合を入れて立ち上がり休憩室を出て行く舞杏。

「も、もぅ!お邪魔リオンになっちゃってますよぅ!」

「うふふ…。どうもおふざけが過ぎるようですね…。怪人化ライト、保管所の鍵を課長に貰ってこなくっちゃ」

 お嬢様のように振舞い舞杏の後を追ってひらひらと出て行く双連。

《…大丈夫かにゃ?アイツ、やりかねないにゃ》

「そ、そうですね…。やる前には声をかけてほしいですね」

(ご主人もやる気だにゃ…)

 スカーレットはみなみを適当にあしらいつつ小さくため息をついた。



 エール駐屯地司令室に呼び出された一色は駐屯地司令の一言に目を見開いて驚く。

「じ、自分が、懲戒解雇ですか!?」

 エール駐屯地の司令を務める仁口にぐち1等陸佐は無表情で応える。

「一色1等陸曹、キミの働きには目を見張るものがある。だからこそシュープリーム島の件は島民の声もあり目を瞑ったが、もはや庇い立てできん状況だ」

「自分には状況が掴めません。突然解雇と言われても…」

 突然の解雇宣言に頭が追いつかない一色。

「ふん…。先日の最高裁判所の事件は知っているな?」

「はい、一般の報道で情報を得ました」

「うむ。では理想なき革命家を逃がすために動いた防衛省のパイロットが居ることも知っているはずだが…。それはまどか2等陸曹だ」

「なっ!?円、さんが…!?」

「乗っていたバトルフレームも行方知れず。同日、機械整備を担当した整備士と事務官が1人ずつ姿を消した…。この基地にはまだ理想なき革命家が潜んでいる可能性が高いと思われるが、その筆頭がキミだよ、一色1等陸曹」

「自分は違います!」

「だろうな。もしそうだとしても、はいそうですなんて言いはしないだろう」

 冷や汗をかく一色だが、仁口には何の感情もない。

「最近は防衛省に対する非難の声が多い。これ以上防衛省の支持を失わない為、防衛省内部を根本から見直す必要があるのだ。西田は営倉に入れ、他の隊員も監視下にある。既に処罰を受けている身のお前にはもう解雇という選択肢しかない」

「…!」

「表向きには自己都合退職にしておく。暫くは捜査機関に監視されることになるだろうが、1人の市民として誠実にやり直してくれ」

 一色は有無を言わせずに駐屯地を追い出される。

「………」

 門の外で呆然とする。

 前日の事件を見て呼び出しを受けた時は復帰が早まったのかと思った一色。

「………は!?」

 エルドランド軍機甲部隊エースパイロットだった一色はこの瞬間、無職となった。



 生前の米俵が住んでいたタワーマンション。その全体を見渡せる位置にある商業ビルの屋上駐車場では、公安六課所属の大柄な男性捜査員が覆面パトカーに身を潜めてマンションを監視していた。

 超高層マンションが建ち並ぶこのエリアでは飛行制限が多い為、無人ドローン単体での監視は難しく現場捜査員による張り込みが行われている。

 最高裁判所の事件当日夜から指示され、1人でここを監視している。米俵の住居の窓はすべてカーテンがしてあり中を伺うことはできないが、監視捜査用の小型ロボを有人操作でマンション公共部分に数台配置して部屋の出入りは全て把握できるようにしてある。

 独り身の米俵の部屋。誰も居ないはずのその部屋を訪れる1人の少女。

「……あれは…」

 小型ロボが映すその少女に見覚えがあり過去の捜査資料を確認する。

「…!?…堀レイナ!」

 大柄な捜査員はすぐさま上司に報告する。

「米俵宅監視班、動きがありました。映像、そちらに送ります」

 公安六課課長室の清水はその映像を確認する。

『ノブちゃん、よくやった。堀レイナだな…。堀田ラインの住居にも出入りしていた少女がここにも…。何の用か気になるねぇ』

「はい。堀田ラインと米俵議員がこの少女で繋がりました」

『堀レイナはシュープリーム島怪人群発事件の時に島をうろついていた集団の1人。テュラノスである可能性は非常に高い』

「…テュラノス?」

『あぁ、今しがた我々の敵をそう呼称することに決定した。よろしく頼むよ』

「了解…。課長、ドアが開きます」

 玄関ドアの前で立っているレイナが手を使うことなくドアが開き、部屋の中から若い男が顔を見せる。

『ノブちゃん!男の顔をアップに』

 清水の支持が出るよりも早くノブちゃんは男の顔にクローズアップする。

「これまでの捜査では見ていない顔です」

『画像が荒いね。もう少し寄れない?』

 ズーム機能の限界に達して荒くなる映像。

「これ以上は危険です。小型ロボの移動は発見される恐れが…」

 実際に現場にある小型ロボにスピーカーなど無いが思わず小声になってしまう2人。

 若い男が部屋に引っ込み、レイナもそれに続いて部屋に入る。

『ふぅ…。若い男女の密会…。場所が場所だけに怪しいね。…男の身元調査はこちらで引き継ぐ。もう少ししたら交代要員を送れるから、ノブちゃんはそれま頑張ってくれ』

「了解」

 人員不足で単独監視を続けるノブちゃん。やがて張り込み開始から丸一日経とうとしているが嫌な顔一つせずに返事をした。



 都内に広大な敷地を持つ西園寺邸。しっかり定時で上がり帰宅した双連に清水から連絡が入る。

「映像の男の身元調査?まったく…私もう帰ってるんですけど?…六課の人手不足もなんとかしてもらわないと…」

 口を尖らせながらも指示に従いPCを起動させ、男の荒い画像を切り出して解析する。

(映像の荒さはともかく、顔の右半分がほとんど映ってない…)

 ツールを駆使し、男の顔を鮮明にして映っていない部分をAIで補完する。

(これでデータベースに引っ掛かるかな…?)

 タタターンとキーボードを叩き、作成した男の顔で公的データベースを検索する双連。

(…ヒット…。簡単なお仕事でしたね)

 清水に報告する情報をまとめている時にあることに気付く。

(そうそう…あのデータベースでも…)

 PCと業務用デバイスを有線でつないでもう一度データベースを検索する。

(…あ…そうか、やっぱり…)

 双連は誰も居ない自室で少し嬉しそうな顔をした。

「課長、私です。米俵宅の男のデータを見つけました」

 早速清水に報告する。

『帰宅したところすまないね。助かるよ、ありがとう』

「いえ、残業手当は申請しますので。それで、男の情報ですが、米平一米よねだいらいちべい24才。現在無職として記録されてますが、家族構成も曖昧で、どうも最近作られたデータのようです」

『ほう、最近作られた…?』

 清水は双連から送られたデータを開く。

「はい、精神生命体、テュラノスの存在を教えられた後に公的データベースをすべてコピーして六課のPCに保存しておいたんです。現在の公的データベースに米平のデータはありますが、数週間前にコピーしたデータベースには米平は存在していません」

『…ふふふ、公的データベースを手続きなしにすべてコピーしたのかい?悪い子だねぇ…』

 公的機関が公開しているデータは個人情報保護法や著作権法によって守られている為、捜査機関であってもその取り扱いには厳格な手続きが設けられている。だが双連の行動に清水は笑っているだけで何も咎めようとはしない。

「コピーを申請すれば何か対策をされる可能性がありますからね。捜査の一環、もしくはうっかりです」

『うっかりならば、まぁ仕方ないね…。西園寺は明日から米平周りを深堀してしてくれ』

「了解です」

 


 5月5日。竹中平子は暗闇の伊月家母屋リビングで隣にいる真夏に発射口を向けてその時を待つ。

 リビングの扉が開き、暗い影が一歩進んだところでパパパンッと大きな破裂音が室内に響く。

「あいたーっす!?」

 真夏は受けた衝撃で体勢を崩して尻餅をついた。

「へっ?なに?どしたん!?」

 入室したホルスが壁のスイッチを押して照明を点ける。

 リビングにはホールケーキとそれを囲むパーティーのごちそう。クラッカーを手にした友人達と転がる真夏。

「わ、私…撃たれました…?」

 近距離で平子に狙撃された真夏は放心状態で平子を見つめる。

「あらぁ~、暗くてよく見えなかったわぁ」

「も、もう…。平子ちゃん、人に向けたら危ないでしょ」

 錘利飾つむりかざりは自分が発砲したクラッカーの紙テープを巻き取って片付けると、ギラギラと主張の激しい三角の帽子をホルスに被せる。

「ホルスちゃん、お誕生日おめでとう」

 優しい笑顔の飾。

「あらホルス、お誕生日おめでとう」

 紙テープを巻きながらホルスを一瞥しただけで放たれたお祝いに噛み付くホルス。

「ついでみたいに言うじゃんね!?」

「ホントだよぅ…。せっかくのサプライズもホルスちゃんより真夏さんの方が驚いてるよ」

「ごめんなさいねぇ。ちゃっかりなのよぉ」

《ワザとじゃねーかこのガキャー》

 転がる真夏の横でシャーっと牙を見せるスカーレット。

「何かしらぁ?四足歩行の分際で私に噛み付こうってのぉ?」

 ふっふっふとスカーレットを見下す平子。

「ま、まぁまぁ落ち着いて。今日はホルスちゃんのお誕生日ですよ。おめでとうございます、ホルスちゃん」

 真夏は立ち上がると、本日の主役と書かれたタスキをホルスに掛ける。

「まなっちゃん…」

「ほ、ほら。平子さんも」

 真夏に促されて少し照れくさそうにホルスに近づく平子。

「はい、今日は主役を譲ってあげるわぁ」

 そう言って鼻と口髭が付いたメガネのおもちゃをホルスに付ける。

「ピエロじゃねーかっ!!」

 主役とは言い難い自分の姿にホルスは吼えた。



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